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番外編その2【ルナリス達の事情】

(あきらめてたまるか……)


 歩き続けて五日といったところか。

 意識が朦朧(もうろう)とする。

 喉が渇いて話すこともできない。

 腹が減って歩く力も残されていないが、ただ必ず生き残るという気力だけで足を動かしている。


 禁断の地とはいったものだ。

 見計らうかのように魔物(ワーム)が湧いて出てきたり、吹き飛ばされるほどの突風に足を取られそうになる時もある。


 今、魔物に襲われることがあれば、さすがに対応できない。

 こうなったのもすべてはヤツらのせいだ。


 ◇


「クソッ! 村はもうダメだ。撤退するぞ!」


 あたしはルナリス。ルナリス・ウィンドウッド・エルフィンというエルフ族の女だ。


 女とはいえ、エルフの村は常に危険と隣り合わせ。

 あたしは六人家族の長女で皆を守るという役目がある。誰よりも強くならねばならず、村一番の武芸者としても名が通っている。


「ルナ姉様、撤退といってもどこへ向かうというのですか?」


 次女エリス。四姉妹の中で一番のしっかり者。

 母上に似て、いつも優しく厳しいところもある。戦闘ではあたし達を強化する支援魔法の使い手で、何事も器用にこなし、料理を作らせれば天才だ。


「わたくしはヤツらをぶん殴らなければなりませんわ」


 三女レーナ。回復魔法が得意で村では聖女と呼ばれて本人もその気でいる。だが聖女とは裏腹に、村一番の力持ちの脳筋僧侶で悩殺ボディを活かした男垂らしでもある。狩りに行く時は必ず連れて行く頼もしい妹だ。


「ん。シルフィも同意」


 末にシルフィリア。普段はボーっとしているが、風魔法に関しては村一番の天才魔法使い。

 いつからか自分の事をシルフィと呼ぶようになり、あたしもそう呼んでいる。言葉数は少ないが頭のいい可愛い妹だ。


「唯一残された道があるだろ?」

「まさか……これより先は禁断の地ですよ!?」

「死の荒野ですわね……」

「ん。掟破って行くしかない」


 あたしたちが住む村は、ヴァイスクローゼ王国領の北方、クワトロ大森林にある。

 森にはあたしたちエルフを始め、人狼族やリザードマン、オーク族といった四つの種族が日々縄張り争いを繰り返している。


「イタぞ! 生け捕りにしろッ! 一匹足りとも逃がすんじゃないぞッ!」


 ここ数十年は穏やかな日々が続いていたが、突然やつらが手を組み、夜襲を仕掛けてきた。


「シルフィは足止めを頼む」

「ん。ウインドストーム」

「みんな! 今のうちに走れッ!」


 ◇


 なんとかヤツらを撒いて逃げ切れたのはいいが、捕まった家族と仲間が心配でならない。

 やつらは労働力として仲間たちを生け捕りにしたが、いつまでも無事だとは言い切れない。


 近いうちに助けに行かねばならないが、今は自分たちのことだけで精一杯だ。


(ん? あの建物はまさか……)


「おい、みんな! 村があったぞ!」

「こ、このようなところに村があるなんて……」

「た、助かりましたわ……」

「ん。シルフィ、水……」


 なぜ、このような場所に村があるんだ?

 いや、見たところあれは……捨てられた村だな。

 

「クソッ、水や食料なんてなさそうだな……」

「あのルナリス姉様。遠視で確認したところ、誰かいますわよ」

「そ、それは本当か!?」

 

 村に近付くと、人影が見えた。


「あれは人族か!」


 さらにもう一人、後ろにいるのは……まさか魔族!? 若い男の人族と女の魔族だが……いや、今は種族など気にしている時ではない。


 とにかく水と食料だ。

 最悪ドブ水でもいい。


「§∵‰▱⊿†∩⊥。 ⁂‥〻∬‡⊃∈・?」

(そこで止まれ。俺の村に何の用だ?)


 この男は何と言っているのだ?

 父上や母上ならともかく、あたし達は他種族と有効的ではないため、人族の言葉など理解できない。

 強いて言うならば、昔ドワーフと何度か話したことはあるが……。


(クッ、ここまで来て言葉がどうのと言ってられるか!)


「若き長よ、突然の来訪を許してほしい。我々は南のクワトロ大森林の村に住むエルフ。私はリーダーのルナリスと申す。ここまで五日も飲まず食わずで、せめて水だけでも恵んではいただけないだろうか? どうか助けてほしい」

 

 あたしは一歩前に出て、残る力を振り絞って言った。だが、やはり通じていないようだ。いや待て。あの女は魔族だ。魔族は頭がいいと聞いたことがある。あの女であればエルフの言葉が通じるかもしれないぞ。


 しばらく考えていると、魔族の女が不思議な魔法を使い始めた。


(クッ、やはり戦闘になるのか……)


 今のあたしたちに戦う力は残されていない。

 ――どうする?


「俺はこの村の領主、切開大地と言う。この奥に井戸があるので案内しよう」


 何だと!? 突然エルフの言葉を話し始めたぞ。あの女の魔法(仕業)か?

 井戸があると言ったな。ようやく水が飲めるということか。ひとまず敵ではなく助かった。


「ほ、本当か!? それは助かる。みんな、もう少し頑張ってくれ」


 あたし達は緊張から解放されたせいか、自然と笑顔になった。


「「ううううううめええええええええぇッッッ!!」」

「「おおおおお美味しいいいいいいいぃッッッ!!」」


 何だ、この井戸水は!?

 井戸の底まで透き通り、光に照らされているわけでもないのに輝いているぞ。

 こんな水は飲んだことがない。

 この古びた井戸に聖水でも入っているというのか?

 ああ……(よみがえ)るように力が戻ってくる。


「ん? これは武器か」


 ッ!? こ、この弓の紋様はまさか……。


「お前たちが空腹だと思ってな。とりあえず今は好きなだけ食べてくれ」


 水を飲んだ後、ダイチと名乗った男と魔族の女が料理を持って来た。


 この男は本当に人族なのか?

 人族は残虐非道、酷虐無道とエルフ族の中では言われているが、食料も与えてくれるというのか。

 まさか毒が盛られている……!? いや、見返りとしてはやはり体が目的か?

 隣にいる魔族も信用できない。

 だが命には変えられない。


 エルフは義理堅く、恩を仇で返すような真似は絶対にしない。そのような者達であれば体だけ払って森に帰るか、さらに北へ向かうかだが……。


 その後も見たことがない料理がズラリと並ぶ。

 何とも美味そうな香りが漂い、腹が鳴り止まず、よだれも止まらない。見てくれなんてどうでもいい。これまで何も口にしていないのだからな。


「うッ、ううううううめええええええええぇッッ!!」


 無我夢中とは、まさにこのことだ。

 あたしは獣を狩るかのように、細長い物をズルズルと食べた。例え毒が盛られていようが、もはや止められなかった。


 ――最高だった。

 これ以上の美味なるものを食べたことがない。


「お前たちは何でこんなところに来たんだ?」


 あたしはこれまでの経緯を話すと、人族の男と魔族の女の関係を知ることになった。


「そうなんです! 私はダイチ様の配下。いえ、奴隷であり、所有物なんです♡」


 やはり飼い慣らしていたのか。それなら人族と魔族が共にいても不思議ではない。

 ただ、この二人なら多少は信用してもいいだろうと思い、名で呼ぶことにした。


 その後、村の住民になることを条件に、ここに住む許可をもらった。

 行く宛てがないあたし達にとっては、否定する必要もないからな。


 汚れた服を井戸で洗うと瞬時に綺麗になり、水浴びではなく、温かい湯が入った鉄釜に入ったりと、何とも不思議な村というべきか、不思議な力を持った者というべきか。


 さらに驚くべきは、何もなかった場所に突如として家屋が現れたことだ。それも重厚な作りの豪華な家屋。我々の村にもここまでの家屋はない。


 大きな音がした時には、やつらが追って来たと思い、我を忘れて全裸で駆け出してしまったのは失敗したな。男に肌を見られたのは初めて、なんて皆には言えない……。

 

 その後、ダイチ殿と目を合わせることも話すこともできなくなり、不思議と胸の高鳴りを覚えた。


 あの気持ちは一体なんだというのか。


 ◇


 そして翌日。

 あたしは恩返しをと思い、北に森を見つけたので、レーナと狩りに出た。


 あの森に棲む魔物はかなり手強かった。

 熊や猪、空に羽ばたく鳥など様々いたが、森の魔素が濃く影響しているのか、巨大な魔物ばかりだった。

 まあ、あたしとレーナであれば何とかなる。

 村の食糧の足しになれば幸いだ。

 

 肉の解体を済ませた後、ダイチ殿と二人で話をできる機会ができた。


「この弓はお前たちの物だろうから、勝手に持って行くといい。あ、そうだ。アレを使ってみるか」


 古く使い物にならない弓をタワシで磨くと、桁外れの魔力量が宿る伝説の弓へと変貌した。

 ダイチ殿が使う魔法はどう考えても異質だ。


「せっかくだ。試し射ちでもするか」


 あたしが軽く矢を引くと、バシュッと音を立てて、上空の厚い雲を突き破ると、激しい光りが天を包んだ。


 何という弓だ……。

 これがあれば皆を救えるかもしれない。

 だが今は時期尚早。好機を待って必ず助けに行く。


 今は命の恩人であるダイチ殿のために、この村の発展に力を貸そうと思う。

 そして近いうちに仲間を助けに行き、ここで暮らしてもらうのも悪くないかもしれない。

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