第13話 初めての住民
「残り五分!? 今からどれだけ急いでも二時間、いや三時間はかかるぞ! どうすればいい!?」
《マスター、今回ばかりはわたしの力ではどうすることもできません》
頼みのプランでも無理か。
あと少しというところで、俺は何もできないのか。
「あの、そろそろ時間が迫っておりまして、どうすれば住民になれるのでしょうか?」
「お前を住民にするには俺の拠点に来てもらう必要があるんだが……」
「貴方様の村のことですね。では急いで向かいましょう」
「急いでって言われても時間が足りないんだ……」
「今からでしたら一分もかかりませんので、どうぞこちらへ」
え、一分? マジで言ってんの?
あ、そういうことか。青く光る魔法陣を見て気付いた。スフィアがボス部屋の帰還魔法陣を発動させていたからだ。
「この魔法陣はボスを倒さなくても使えるんだな。てっきりボスがいないから使えないものと思ってたぞ」
「はい。ただし一度起動させるために100DP必要になりますね」
(あの悩んだ時間は何だったのか……)
《マスター、わたしもです……》
◇
「貴方様、もう目を開けていただいて結構ですよ」
「もう着いたのか」
帰還魔法陣に乗ると、すぐに身体が何かに引っ張られるような感覚に陥り、気付けば教会前にいた。
《スフィアが住民になりました》
《マスターの拠点住民が1名を突破しました》
《マスターの拠点レベルが2に上がりました》
《レベルアップボーナスで200KP獲得しました》
《緊急任務:〈No1〉を達成しました》
緊急任務:〈No1〉拠点の探索をしよう。
達成条件:本日中にすべての領域を確認する。
達成報酬:500開拓ポイント。
《任務〈No10〉を達成しました》
任務:〈No10〉初めての住民を見つけよう。
達成条件:拠点に一人目の住民ができる。
達成報酬:100開拓ポイント。
《任務:〈No17〉を達成しました》
任務:〈No17〉魔族を住民にしよう。
達成条件:魔族を住民にする。
達成報酬:10開拓ポイント。
記念すべき一人目の住民となったスフィア。
ついでに緊急任務も達成……いや、ついではスフィアの方か。
拠点レベルも上がって確かめたいことはあるが、今は後回しにする。
「それで呪いは解除されたのか?」
「はい。ただ不思議な感覚といいますか、何と言えばいいのか……」
不思議な感覚?
呪いが解除されて一件落着じゃないのか?
《呪いは解除されましたが、それと同時にダンジョンが拠点の支配下に入ったことで、不可思議に思っているものと推定します》
(つまりスフィアのダンジョンが俺の拠点の一部になったってことか?)
《その通りです》
(マジかよ……)
《マジです》
――スフィアに何て言えばいいんだ?
突然、お前のものは俺のもの、俺のものは俺のものとか、ジャイア…っと、そんなことよりも正直に話さなければならないが、何とも言い辛い。
「とにかく、これで呪いから解放されたわけだ。これからは好きなことをして生きていけるな」
「好きなことですか……?」
長い年月を辛くも一人生きてきたスフィアを思い、俺はひとまず自分の考えを伝えることにした。
「あー、ここの住民になったとはいえ、スフィアの好きなようにして生きていけばいい」
「わたしは貴方様に命を助けていただきました。ですからここで、私は貴方様の元で働かせていただきたく思います」
「まあ、お前がそれを望むならそれでも構わないが、他にやりたいことはないのか?」
「やりたいことですか……父と母の仇討ち。ですかね。といっても、そんな簡単なものではないと分かってはいるのですが……」
仇討ちか。大方、魔族への復讐ってところだな。
スフィアは俺では計り知れないほどの苦痛を味わってきたはずだ。そう考えても無理はないか。
「俺はお前の考えを否定しないし、強制もしない。もし俺が力になれる時があれば言ってくれ」
「貴方様を巻き込むようなことは決していたしません! と、とにかく本当にありがとうございます!」
スフィアは両手を合わせて目を閉じ、深くお辞儀をした。まるで俺に祈りを捧げるかのように一向に頭を上げようとしない。
「ま、まあ礼なんていらないからさ。とにかく頭を上げてくれ」
「私の命の恩人…私の英雄…」
スフィアが小声でブツブツと言っているが、何も聞き取れない。
俺はここでダンジョンが拠点になったことを打ち明けることにした。
「スフィ…」《マスターお待ちください。ここはわたしがお伝えしてもよろしいでしょうか?》
(プランから伝えてくれるのか? 構わないが、そんなことできるのか?)
《拠点レベルが上がったことでスキルが解放されました。そのスキルは、<能力共有>。わたしも住民であれば念話で話しかけることが可能となりました》
そいつはすごいな。わざわざ俺が説明しなくてもプランが話してくれる超便利スキルだ。
「あ、あの知らない女性から念話が……」
「ああ、心配しなくてもいいぞ。そいつはプランって言ってな。俺の相棒みたいなもんだ」
「貴方様の相棒……あの、貴方様のお名前を教えていただきたいのですが?」
そういえば名前を言ってなかったな。
「俺は…」「ダイチ様と仰るのですね。私の救世主様…私の魔神様……♡」
いや、プランが先に教えるのかよ……。
その後、プランから俺の拠点になったことを伝えてもらったが、どうやら話はそれだけではなく、しばらく一人うなずいているスフィアだった。
◇
拠点:始まりの村
LV:2
住民:1
開拓:<召喚><?><?>
任務:84
スキル:<念話共有><?><?>
領域:半径250m、北5km、帰らずの森北入口から半径2km
KP:1,125(一日経過+20KP)
二人が話し合っている間、拠点ステータスを見ているが、レベルが上がったことで村の名前まで変わっていた。
【始まりの村】。悪くはないが中身はゴーストヴィレッジと変わりはない。領域もダンジョンの影響か、北の帰らずの森まで伸びていた。とはいえ地面が白っぽくなっただけで、ただの砂利道だ。
スフィアが住民になり、一日経過分と任務達成を合わせて開拓ポイントが一気に増えた。これだけポイントがあれば二日目にして新しい家屋(中)を建てることができる。
《マスター、スフィアの洗のぅ…話し合いが終わりました》
洗脳って聞こえた気が……?
「ダイチ様、プラン様から色々とお話を聞かせていただき、感激と光栄の極みでございます! すべてはダイチ様のおかげです!」
おいおい、プランは一体何を吹き込んだんだ?
またあの時のヤバイ目をしてるが、何をそこまで彼女をやる気にさせたのか。
「私は今後もダンジョンマスターとして頑張っていくことにしました」
「ダンジョンマスターを辞めたいんじゃなかったか?」
「はい。プラン様とお話しをして考えが変わりました。それに呪いから解放されて戻ってきたDPも沢山あるので、きっとお役に立てると思います」
戻ってきたDP? まあスフィアがやる気ならそれでいいか。俺としてはむしろ助かるぐらいだし。
「そうか。それなら、これからよろしく頼む」
「はい! よろしくお願いいたします!」
◇
「フッフッフッ。ようやくだ。ようやくあの忌々しい小娘を消せる。なあ、レイシアよ」
「そ、それが魔王陛下……」
「どうした、レイシアよ。顔色が悪いではないか。記念すべき日に相応しくないぞ」
「も、申し訳ございません! じ、実は先ほど、わたくしめの呪怨魔法が、か、解除されてしまいました……」
「なんだと? 呪いが消滅したというのか!? まさかあの小娘が呪いの成果をあげた、とでも言うのか? いや、あれほどの妨害工作を打ったのだ。そんなはずはない。お前の勘違いだ」
「そ、そうですわね。わたくしとしたことが、フフッ、フフフッ」
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