第12話 呪いの解除
「――魔族か。まあ、そのツノと尻尾で何となく分かったが」
「魔族といっても穏健派ですから、て、敵ではありませんからね!」
「とにかくお前は敵ではなさそうだ。で、その穏健派ってのは何だ?」
「はい。魔族にも派閥がありまして、私の父である元魔王の穏健派と現魔王の強行派です」
父が元魔王ということは、こいつは王女か。
「私は魔族領にある魔王国の第一王女。正確には元王女ですね……」
「その元王女様が、なぜそんな呪いを受けるはめになったんだ?」
「王位継承権が第一王女の私にあったからです。端的に話しますと、強行派の現魔王ゼルディウスの策謀によって強制的にダンジョンマスターにさせられて……いえ、追放された。というのが正しいですね」
色々と闇が深そうだが、結果だけ先に答えてもらうか。
「スフィアと言ったな。お前に残された時間は少ない。俺をここに来させた理由は何だ?」
「わ、私の呪いを解いてほしいのです……」
「呪いを解く? 俺が?」
「はい。帰らずの森でとてつもない魔力を持った者が突然現れました。これほどの力を持つ者ならば、私の呪いを解いてくれるかも知れない。そう淡い期待を寄せて、最後の召喚獣であるインビジブルスライムを偵察に行かせました」
(え? あの半透明スライム? それって俺が踏み潰したアレのこと?)
《マスター、アレのことです》
「ちなみに俺が知るダンジョンの魔物は、ダンジョン内でしか行動できないと思っていたが、帰らずの森まで行かせることが可能なんだな」
「貴方様の言う通り、ダンジョン内でのみ行動可能です。私が帰らずの森までフロアを広げましたので。といっても、入口から半径2km程度です。これも、ここよりずっと北にある魔族領にいる友人に助けを呼ぼうとしたのです。偵察に行かせた後、核越しにあなたの姿を確認しました。その後、すぐに殺されてしまいましたが……」
確かに攻撃されることも、避けることもなく、あっさり踏んだな。
「ですがその瞬間。私は確信へと至りました。物理攻撃も効かず、魔法もほぼ効かないあの超高級DP品を、ただ踏みつけて倒したのです。未だ信じられません」
お、おう。オーパーツでな……。
スフィアが顔を上げると、急に不適な笑みを浮かべながら話を続ける。
「さらにあろうことか、死の荒野に向かって来るではありませんか。これはチャンス。私にとって二度とないチャンスでした!」
スフィアが徐々にヒートアップしている。
「この村に着いた貴方様は、またしてもとてつもない魔法で村一帯を領域に治めました。それも一瞬で!」
(それは俺じゃなくてプランな……)
さらにヒートアップするスフィアが続ける。
「さらには! なんとあの伝説の聖剣まで手にしてやって来るではありませんか! この人なら私を救ってくれる! これで助かる! 父と母の仇討ちを果たせるかもしれない! そう思い、貴重なDPを使って念話を飛ばしましたっ!! 昨夜から何度も何度も何…」「ストップ! ストップだ!」
完全に目が普通ではない。
一度冷静になってもらうため、話を中断させた。
「頼むから落ち着いて話してくれ」
「ゼェ、ハァ、ゼェ……。し、失礼いたしました。私としたことがつい」
女の子ってやっぱり怖い。
それに俺はスフィアを助けることはできない。
俺は魔法なんて使えないし、ましてや呪いを解くことなんてできない。ここはきっぱりと断るか。
「悪いがスフィア、俺にお前を救うこと…」《できます》
(え?)
《マスター、呪いを解く方法があります》
(嘘? あるの?)
《スフィアが拠点の住民になれば呪いは解除されます》
そんな手があるのか!?
それが本当であれば、まさに起死回生の一手。
(住民になってもらうだけで呪いは解除されるんだな?)
《はい。ただし一つだけ問題があります》
(問題って何だ?)
《スフィアを住民にするには、拠点内に来てもらう必要があるということです》
そうか。ダンジョンマスターであるスフィアはここから出ることができないと言っていたな。それに俺が読んだ話では、確かダンジョンの外に出ると死ぬとか何とか。
「スフィアはダンジョンの外に出るとどうなるんだ? 命を落とすと聞いたことがあるが」
「命を!? いえ、二十四時間以内に帰って来れば問題ありません。過去にも何度か外の状況を見に行くことがありましたし、仮に時間を過ぎてしまうと魔力欠乏症に陥ってしまい、危険な状態になってしまいますが……」
(プラン、魔力欠乏症って何だ?)
《体内の魔力量が枯渇すると発症する病気の一種です。身体に様々な障害を及ぼし、放っておけば直に死を迎えます》
酷い栄養失調みたいなものか。
スフィアの言い方だと経験有りってことかもな。
まあ外に出て問題ないなら、住民にして帰ってもらえばいいだけのこと。
「あの、やはり貴方様でも難しいでしょうか? あ、でもお気になさらないでく…」「スフィアはここから出られないんだよな?」
「あ、はい。260年前に扉の向こう側に魔法を展開されて以来、ここから出ることが出来ず……それが何か関係があるのですか?」
260年だと!? ということは、これが数々の文献に記されている、外見少女で中身老婆か。
《マスター、特定の者に対して闇属性の魔法障壁が張られています。それも強力な魔法のため、複数の者が実行したと推定します》
(その強力な魔法障壁とやらは解除できないのか?)
《マスターの聖剣エルエスとオーパーツ、この二つの聖属性をもってすれば解除可能と断定します》
え、傘も使えるの?
この傘は剣じゃないぞ?
どちらかというと盾だよ。
「ひとまず行ってみるか」
「あの、どちらへ行かれるのですか? あ、そ、そういうことですね。やはりあきらめるしか……」
「ん? あー、上手くいけばお前の呪いを解除できるかもな。ただし呪いを解くには、俺の拠点の住民になってもらう必要がある」
「住民……? そ、それだげでずが!? な、なりまず! なんでもじまず! だから私を貴方様の国の住民にじでぐだざい」
「わ、分かったから先に涙を、鼻、いや顔を拭け!」
◇
「おらよっと!」
早速、俺は聖剣エルエスと折り畳み傘を二刀流にして、石扉に勢いよく突き刺した。
剣と傘が触れた瞬間、黒い光を放つ魔法陣が出現すると、「バチバチッ」と音を立てながら魔法陣が大きく点滅を始める。
「あ、あの! その魔法障壁はものすごく強力な魔法で、いくら貴方様でも…」「バリーンッッ!!」
「お、いけた」
なんとなく突き破れそうな気がしたので、そのまま押し込んだら呆気なく解除できた。
《マスター、魔法障壁の消失が確認されました》
「おーい、スフィア! もうここから出れるぞー!」
「え? は、はい? あの強力な魔法障壁をいとも簡単に? 本当に出ることができるのですね……」
後は拠点にスフィアを連れて行けば呪いは解除される。
《マスター、もう一つ問題が発生しました》
「また問題? 今度は何だ?」
《スフィアを拠点に連れていくまでの時間が足りません》
「後どのぐらい残されてる?」
《五分ほどです》
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