君を閉じ込めたい
カシャリ、とシャッターの音が響いた。
君はため息をつきながら、咎めるようなまなざしを僕に向ける。
「また勝手に撮って。無断撮影禁止でしょ」
「だって、きれいなんだもん」
もう、と口をとがらせて、君は浴衣を拾い、素肌を隠した。
「きれいと言えば許されると思ってるの?」
僕は思わず微笑んだ。君が目を細めて詰め寄ってくる。
「怒ってるんですけど?」
「ごめん。あの時と同じ言葉だな、と思って」
それは、僕と君がまだ高校生で、ただのクラスメイトでしかなかった時。
教室の窓辺に立っていた君が、眼鏡を外した。風に乱された髪を押さえ、外を見てかすかにほほ笑んだ。
その時、雲の隙間から光が差し込んできて――君をふわりと包み込んだ。
きれいだ。
偶然その光景を見た僕は、気がつけばスマホで君の姿を撮っていた。ほとんど無意識だった。
カシャリ、とシャッター音が響き、教室にいたみんなが僕を見た。
「お前、何撮ってるの?」
「え、あれ……俺」
しまった、と思ったが後の祭り。
正義感あふれるクラスメイト達に引っ立てられ、僕は君の前に立たされた。
「その、すごく、きれいだったから」
なぜ撮ったのか、と静かに問う君に、僕は正直に答えた。
「あ、マジできれい」
「ほんとだー。めっちゃいい写真」
「さすが写真部」
僕が撮った写真を見て、クラスメイト達も感心した。会心の一枚だったのは間違いない。
なんとなく、「これは仕方ない」という雰囲気が漂ったけれど。
「きれいと言えば許されると思ってるの?」
君は冷たく言い放ち、その場で写真を消させられた。
無断撮影だ、仕方ない、とは思う。
だけど、本当に惜しかった。惜しくて惜しくて、どうしようもなくて――僕は正式に、君にモデルを依頼した。
あの時に垣間見た君の美しさを、もう一度僕の写真に閉じ込めたくて。
始めは嫌がった君だけど、何度も頼む僕に根負けしてモデルになってくれた。
僕は何枚も――いや、何百枚も、何千枚も君の写真を撮った。
だけど、あの写真を超える写真は、八年経った今も撮れていない。
「思い出補正が入ってるんじゃない?」
「いやいや」
僕はカメラを置き、もたれかかってきた君を抱き締める。
「どんどんきれいになっていくから、僕の腕が追い付かないんだよ」
「もう。見え透いたお世辞ね」
「本当だって。でも、必ず撮ってみせる」
きれいな君を、閉じ込めたい。
写真の中に、腕の中に、そして僕の人生の中に。
だから僕は――君を一生離さないからね。