冒険ー宝箱ー
また地味な進捗です。すみません。大きく動くのは次か、そのまた次か……。努力します。
処でRPGでのお約束と言えば、宝箱もその1つだろう。ダンジョンやフィールド、または町中に不意にあったり、一般家庭や井戸、城の中にあったりと色々だ。「冷静に考えたら泥棒だよな」と言う場合も多いが、プレイヤー操る主役の勇者は何事も無く堂々と宝箱を開けて、中身を取って(盗って?)行くし、家人達もそれに気付いているのかいないのか謎だが、とにかく何も言わない。文句も無ければ、警察の役割を持つ者ーー衛兵とか?ーーを呼んだりする事もしないのだ。
(これは宝箱だよな?)
で、アポロンが何故、そんな事を思い出したかと言うと、彼の目の前に今、宝箱が有るからである。道筋に沿って移動していた彼だが、やはりそこは一本道とは行かなかった。途中に別れ道が有り、彼はその度に「行き止まるまで右!」と決めて歩いて歩いて……、そして先に宝箱を見付けた。
その周囲は断崖絶壁が聳え立っており、どう見ても行き止まりである。
(1度もエンカウントしない内に宝箱に行き着くとは……。)
「何かモンスターが見当たらない」と疑問に思いつつも歩いていたのだが、まさか先に宝箱とは思わなかった。
(ってかミミックとかじゃないか、コレ。)
故にか初宝箱にミミックの疑いを向けてしまうアポロン。初宝箱がミミックと言うのは余り考え難いと思うのだが、よくよく考えずともダンジョンエリアはかなりの後半エリア(運営曰く最終エリアだが、流石にそこまでは言ってない)であるのは認識している。確かに可能性は0とは言えなかった。
(鑑定すると分かるかな?)
と言う訳でまずは鑑定である。
スキル「夢幻顕在」を使用しました。鑑定します。宝箱です。それ以外ではありません。鍵は掛かっていない様です。
……どうやらミミックでは無い様だ。それが分かると、一気に近付いた。
「中身は何かなー?」
浮かれた気分が声になる。宝箱の大きさは見た目的にはざっと30cm×50cm×30cm程。木材で出来ている様で全体的に茶色い。焦げ茶な装具(?)は何かの金属で有る様に見える。頭部は円を描いており、如何にもな形の宝箱である。
「よっと♪」
鍵の掛かってない宝箱の蓋を押し上げる形で開ける。中を覗くと羊皮紙と思しきものが入っている。
(紙?)
手に取ると、アナウンスが流れた。
白魔紙の地図を手に入れました。今まで歩いた場所が記されます。……ステータスに地図スペースが出来ました。何時でも閲覧が可能です。
手から羊皮紙らしきものが消える。
「ステータス。」
直ぐにステータス画面を出すと、確かに地図が出ている。今まで歩いた筋が引かれているのが分かる。
「……むう、便利にはなったけど。」
実は最初の別れ道を発見した際、地図を作成した方が良いかもしれないとは思った。何せ広そうなフィールドだ。先々を考えると有った方が良いだろう。
(けど、地図ってどっかで手に入れそうなんだよなぁ……。)
手に入れる時期はゲームによって変わるが、地図を自分で作成するのではなく、完成した地図を当たり前に所持しているゲームも多い。
(……うーん、暫くは地図スキルは良いかな?)
もし地図作成スキルを作るなら、何時でも作成した地図を見れる様にしたいので、その場限りスキルにはならない。アイテムボックスやWリジュネの様に維持する事が必要になる。
しかしもし地図が有るならば、折角スキルを作っても無駄になるかもしれない。消去出来るかもしれないが、作って活用しているとそれも勿体無くなるかもしれない。
そんな形で暫くは地図作成スキル無しで行って見ようと思っていたのだが、宝箱で地図を見付けた。只、己の所在地やどの方向に向かっているかだけでなく、フィールドの形が分かる地図を想定していたので、少し戸惑う。しかし。
(……まあ良いか。)
便利になったのには違いなく、直ぐに受け入れ、自身の軌跡がどう記されているか、暫し確認に時間を取るのだった……。
ラストの空腹度は4/1程度、メーターが動いている。まだまだ大丈夫そうだ。地図で別れ道が確認出来ているので、別れ道の1つにテレポートを試してみる事にする。あの別れ道をちゃんと覚え込んでいるとは言い難かったからだ。何せ周囲は木ばかりである。似た景色ばかりでは違いが余り分からない。だから地図を頼って見たのだ。
(この分岐にテレポート、この分岐にテレポート、この分岐にテレポート、この分岐、この分岐、この分岐………、)
スキル「夢幻顕在」を使用しました。テレポートを使用します。
一瞬、視界が歪み、次の瞬間には断崖絶壁が消えていた。
(地図!)
もう1度、地図で自身の居場所を確認する。地図で見ると移動したかった分岐だ。断崖絶壁の壁に辿り着く1つ前の分岐だ。
(向きはテレポート前と変わってないな。)
体の向きは、断崖絶壁方面を前にしていた時のままだ。進んだ道筋が分かりやすい。
(よし、次は真ん中に行くか。)
有り難い事に道路で言えば三叉路は有れど、交差点以上は無い。彼が地図作成スキルを作らずに、此処まで進んだ理由でもある。次の方向を迷わず決めると、道筋を地図に反映させる一歩をまた踏み出す。
それは道筋のある中での話だ。「どうやら自分は初っ端から正解の道を選択していたらしい」とアポロンは考えた。あれから変わり映えしない景色の中を「突き当たりまでとにかく進む」と決めて歩き、途中でまた新たなる分岐にも出会い……、と続けて来たが、とうとう道筋を完全に制覇した。
それを示すのは、自分の行く道を反映させた地図。確認すると尚更、より分かる。
(まさか他の分岐が全部繋がってたとは………、)
三叉路以下の分岐を突き詰めると全て別の分岐に繋がっている。勿論、途中でその傾向には気付いていたが、全部そうだとは思わなかった。と言うか「そうとは限らない」、「何か変化があるかもしれない」と言い聞かせる様にして歩いていた、と言うのが正しいか。
余りに変化も無いので、何度かアイテムボックスに適当に収集する事も繰り返した。
(しかし本当にモンスターが居ない……。)
……要は只、歩くだけでは飽きも出るし、暇だったと言う事だ。これだけフィールドを歩き回っているに関わらず、モンスターが出ないとなると、もしかすればこのフィールドには、あのチュートリアルで登場したエンシェントスライムしか居ないのかもしれない。そう考えながら、それ同時に思い浮かべるのは、分岐同士で繋がる道筋の例外、宝箱の場所だ。
(あの断崖絶壁……、何か仕掛けがあるかも……。)
是非、そうあって欲しいとアポロンは考える。このままだと道なき道を進むしかないからだ。道なき道は進んだ道筋以外の場所になるので、当て所も無い。色々と広過ぎるので、それが正規とは本当に勘弁して欲しい。
(まあ、けど……、進む前にそろそろログアウトだな。)
実は先程アラームが鳴った。それとラストの空腹度も半分を切ろうとしている。一旦は仕切り直しだろう。そう考えながら、アポロンはプログラム改竄したラストが守る安全地帯である「始まりの広場」へとテレポートした。
ログアウトした次郎はカプセルから出ると、大きく伸びをした。暑くも寒くもない、丁度良い気候だと認識していたが、少し汗を掻いていた。
(ログイン中は体温が上がるのかもな……。)
とか何の根拠も無い事を適当に考える。
(後、何か小腹が空いている……。)
ログイン中にラストの作った食事を美味しく感じた事を思い出し、腹がぎゅる、と反応した。
(何か食べよう。)
カプセル部屋から出るとリビング、否、キッチンへ向かう。狙いは冷蔵庫である。決してガスコンロでも流し場でも調理台でも無い。
冷蔵庫を開けると最早食材ではなく、菓子類に当たるものしかない。「料理する」と言う嘗ての意思は何処に行ったか……、なんて聞いたら「あの世?」と答えるかもしれない。尤もゲーム中もリアルも彼に尋ねる人間なんて居ない。リアルでは傍に誰も居ないし、ゲーム中はアレである。
電子ポットで空のティーポットとカップに湯を入れてから戻す。そうして容器を温めた処で紅茶を入れる。茶こしを使って蒸らして……、だなんて面倒……、上等な事はしない。只のティーパックだ。只、ネットで見た「ティーパックを美味しく入れる方法」を使っている。これさえ面倒になったり、飽きたりしたらしないだろうが。
……紅茶を持って、リビングの炬燵机に向かう。勿論、炬燵布団は片付けているので、座椅子に座って「足を突っ込む」のではなく、「足を伸ばす」、と言った方が正しくなるだろう。
机の上には既に用意されたチョコレート。銘柄はゴディ○とかなっている。尚、次郎の目の前にあるチョコレートはゴ○ィバだけだが、まあ、量は結構にある。また冷蔵庫にはデ○ルだとか、ジャン=○ール・エヴァンだとか、クリオ○だとか、メリ○チョコレートだとか、モロゾ○だとかが鎮座している。
次郎は紅茶を一口飲んでからチョコレートを口に放り込むと、スマホを操作する。開いたアプリはYou Tub○である。「ようこそ、我等の地球へ」と検索して見ると、やはりと言うべきかは不明だが、何人かのYouTube○がプレイ感想を上げている。
「早く実況出来る様にして欲しいですね。」
「早く実況したい!」
「早く早く早く早く早く早く早く! 実況可能な環境を!!!」
「いやあ〜、めっちゃ凄かった!! あんなゲームは他に無いですよ!! 当分、実況が無理なのが本っっっ当に惜しい!!!」
「皆さんにもね、是非プレイをオススメしますよ!! ああ、言葉だけでの説明になっちゃう事が本当に口惜しい!! これは是非とも実況してね、皆さんにお見せしたいんです!!!」
とか何とか……。言い方はそれぞれだが、とにかく実況出来る様にして欲しいとの事だ。それが可能になる日が何時になるか等知らないが、次郎はそんな事はお構いなしに首を捻る。
(実況……、出来たとしても視聴者には普通のゲームと変わらない気がするが……、)
あの臨場感はプレイしないと分からないと思う次郎は、しかし、早々に思考を打ち切って、アプリを閉じる。次は普通にネットを開くが、此方には余りゲームの目ぼしいと感じる情報はまだ上がって居なかった。
お読み頂き、ありがとうございます。大感謝です!
評価、ブグマ、イイネ、嬉しく思います。重ね重ねありがとうございます。




