宝くじの当たる前①
何だかどうでも良いシーンが続いています。すみません。
次郎が向かった先は会社の最寄り駅だ。然程大きい駅ではない。序に言えば次郎の職場と実家は同じ都道府県内にあり、距離も離れている訳ではない。車で30分と言った処だ(最も次郎は免許を持っていない。元々会社が必要としていなかった為、免許取得に対する補助等無く、取得する事が叶わなかったのだ)。
そして彼が住まう場所は全体的に田舎であり、会社がある場所だけが、若干廃れていなかった。平日の朝の電車が1時間に一本と言う駅が殆どの中、快速が止まるこの最寄り駅は平日の朝は何と30分に一度やって来る。最も今は平日の朝ではないが。
(さて、何処行こう?)
行く宛の無い次郎だが、取り敢えず次の住所と就職先が必要なのは確かだ。恐らく、その為には悪名高い前勤務先の情報が蔓延している町よりもそうでない方が良い。序に言えば田舎よりは都会の方が働き場は見付かりやすいだろう。
(でも物価も高くなる、と……。)
次郎は会社が契約していたスマホ以外は所持しておらず(つまり現時点で彼は携帯電話を1つも所持していない)、必要な情報を検索する事も出来ていない。と言うか所持していたとしても、一旦は警察に纏めて押収されただろうから、どの道情報が手に入らないのは同じだったろう。
(……とにかくここよりは都会で、けど傍から見たら田舎の内……、みたいな処にまずは向かうとするかな。)
例えば大都会と言えば東京だし、東京以外の都会となると大阪だとか神戸だとかが浮かぶ。そんな場所と比べれば田舎だが、田舎から見ると都会に見えるーー、その様な中途半端な位置を目指す。それでいて、前勤務先の情報が蔓延していない場所を目指すには、この都道府県を出た方が確かだ。
(幸いATMもあるし。)
小さな改札口の駅に何故かあるATMから少ないながらも使う暇も無くて、一応、貯まっている金額を下ろす(彼は両親から給料を搾取されていた訳でもない)。それは、貯金までは押収されたりしなかったのは幸いだと思いながら、路線図から見た料金を含む、当面、必要となると見なした額であった。
途中、乗り換えもあったが、それでもそれなりの時間、無為に電車に揺られて座っていると、何時の間にか眠っていた様だ。寝ぼけ眼に映った流れる景色は既に見知らぬものとなっている。
(あ、良いものがあるな。)
その中で見付けた建物はネットカフェである。彼が出た町にもあったネットカフェと同系列である。彼が住んでいた町にあったネットカフェは、同時にボーリングやゲームセンター等が併設されており、学生の溜まり場となっていた。有り難い話で、中学生までは無料利用サービスがあり、彼は大いにそこを利用した。その為、会員カードを持っている。
仕事をし出してからは無料とは行かなかったが、度々利用する機会があった。と言うのも次郎達下っ端に貸し出されるパソコンは旧く、その為、度々不具合が起こって不便だったからだ。故に同僚と共に世話になっていた。尚、そこのネットカフェと中学まで通ったネットカフェは同系列の別店で、作ったカードを作り変える必要も無かった為、未だに普通に所持したままだ。
もう直ぐ停車する駅が彼の降りる予定の駅で、つまりこの駅の、それも結構近い位置に既にカードを持っているネットカフェがあると言う事だ。それは行く宛の無い彼の住まう場所が見付かるまでの、ホテルよりも安く利用出来る繋ぎが出来たと言う事だ。
(新しくカードを作る事も必要無いなんて言う事無いな。)
満足気に頷く彼。カード作成時に住所提示等の手間があるのは余り宜しくないからだ。
鞄1つで電車を降りる。乗ってきた駅よりはまだ少し大きい駅で出口は2つある様だった。幸い彷徨いていた(失礼)駅員を見掛けたので、ネットカフェに近い出口とネットカフェまでの道を尋ねる。大体の方向は分かったが、彼には未知なる街(町?)、何も聞かずに行けば迷う可能性が高いと判断したからだ。何なら道筋を聞いても迷う事も有り得る。
だが再び幸いな事に降りる出口さえ間違えなければ、直ぐに見付かる位置にネットカフェはあるらしい。実際、僅か10分、駅から大通りに向かって歩けば簡単に見付かった。
(ちょっと運が上向いて来たかな。)
と考える次郎。彼の今までの、まだそう長く生きていない人生からの何となくな判断であり、客観的な根拠は無い。
早速一部屋借りて、荷物を適当な場所に置き、情報収集する。まずは住む場所。住所不定では就職口を探すのは厳しいだろうと考えたからだ。
(住み込みなんて滅多に無さそうだしなぁ……。)
それに通常、ジャンルを問わず、殆どの契約には保証人が必要になる。住み込み就職口なんて、その通常よりも信用が必要になりそうである。尚、彼の前職は除く(と言いたいが、それでも保証人の欄には両親含む長男教一族のサインが必要だった)。
就職口を探す苦労を考えるとウンザリするが、それでも一歩一歩進んで行かなくてはならない。
(生活保護の相談に行くってのもありかな。……貯金無くなってからの話になるだろうけど【貯金があったら生活保護は受けられません】。)
しかし公的サービスを受けるにも住所不定では厳しい。ホームレスの救済だって延々と受けられる訳でもない。福祉制度に頼るのも現段階ではまだ難しいと言わざる得なかった。
(お、このアパート……、ここから近そうだな。)
保証人や敷金・礼金・保証金無しでもネットならば幾つもの情報が出る。しかも映し出される写真や見取り図は良く見えるものばかり。だがこれで油断は出来ない。実態はこの情報だけでは分からない。そもそもマイナスな情報なぞ乗せるまい。取り敢えず見付けた情報の中、今いるネットカフェに近いだろう、アパートに当たりを付ける。
(別エリアから見えるんじゃね?)
別エリアとはボーリングエリアを指している。丁度良い位置に窓があるかは不明だが、確認出来たらラッキーだろう。そう思って、一旦部屋を出る。
ボーリングエリアはボーリングを実際にプレイするならば別料金が掛かるが単に見学するくらいならば無料だ。チラリと辺りを見渡すと丁度良い加減でアパートを確認……、出来、た……?
(え、アレ? アレなの?? アレ……、だよな……。)
実物と写真は同じ建築物でありながら、何故か色々雰囲気が違う。色々と加工したのだろう。
(う、う〜ん……、もしかして建て直しとか近い内に必要になるんじゃ……?)
その思うくらいにボロいアパートを見て、流石に次郎も長い溜息を吐くも、気を取り直して、情報収集に戻る。
実物を見ないと分からない、内見しないと分からない、住んで見ないと分からない……、そうした事は有り得るので、出来るだけ口コミも探して……、そうして1つ気になる処を見付けた。場所はまたまた此処に近い。いや、降りた駅に近い。只、このネットカフェは駅より降りて、メインよりの道を進んだ場所にあるが、このアパート(マンションと書かれているが、写真でも「アパートじゃないの?」と思う様な外観)は逆に入り組んだ細い道の先にある様だ。尚、今の次郎には関係無いが、駐車場は駅の駐車場の一部を使用出来る様にしているらしい。
(早速、行ってみるか。)
時間を確認すると、扱っている不動産会社はまだ開いている事が分かる。まずは相談とさっさと移動する事にする。ネットカフェは最初に提示した時間内であれば、幾らでも出入り可能である。
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