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4.サプライズプレゼント

「やあエリシア。今日はプレゼントを持ってきたんだ」


 そう言ってベッドに近づいてくるアラスターは、息をのむほど魅力的だった。式典でもあったのか、いつもより華やかな服装をしている。


(うわあカッコいい。うっかり気絶しちゃいそう。王太子の正装かしら?)


 衣装の布地には、アラスターの髪の色と同じ銀糸が織り交ぜられている。窓からの光を受けて、彼はよけいに輝いて見えた。


(本当に完璧な人だなあ。まばゆい美貌も、長身でたくましい体も、明晰な頭脳も、思いやり深い心も)


 アラスターは両手を背中の後ろに隠している。現状から考えてお見舞いの品だろう。


(花束か果物かしら。それともゼリーとか。申し訳ないし、お返しのことを考えると……)


 看護師三人組が気を利かせて壁際に下がる。アラスターは目をキラキラさせて、ベッドの脇の椅子に腰かけた。


「これはただのお見舞いの品じゃない。極上の逸品だよ。ついでに言えば、僕が持っているものの中で一番価値があるものだ」


 そう言いながらアラスターは、エリシアの顔の前に両手を差し出した。男らしい指は、花束も果物もゼリーも掴んでいない。そこにあったのは──茶色いベルベットの小箱だった。


「ダイヤモンドで作ったブローチだよ。おばあ様が譲ってくれたんだ。エリシア、さあ、手に取ってみて──」


「きゃーっ! エリシアさんが井戸の底から響いてくるような唸り声を上げて卒倒した──っ!!」


「目の玉が飛び出るほど高価な宝石は、エリシアさんには刺激が強すぎたんだわ!」


「普通の令嬢ならわくわくせずにはいられないけれど、彼女は逆に怯えちゃうのねっ! 殿下、早く箱を閉じてくださいっ!!」


「うう……美味い話には裏が……。ご先祖様いわく……簡単に手に入れたものは、簡単に裏切る……」


「何だって? 何て言ったんだエリシア?」


 エリシアが目を開けたとき、宝石の入った小箱をほっぽり出したアラスターが手を握ってくれていた。

 超絶美貌、超絶至近距離。エリシアはうめき声をあげ、再び気絶した。





「アラスター殿下は今後、サプライズプレゼントは禁止とします。エリシアさんは高価なものを贈られると、血圧が急に下がって気絶するということが判明しましたので」


「華やかな衣装を身にまとっているときの、必要以上の接触も禁止な! こいつはキラキラしたもんにとにかく弱いっ!」


 シャレドとローリックが、治癒魔法を放出しながら厳しい声を出す。


 エリシアは横になっていてよかったと思った。そうでなければ恥ずかしさと申し訳なさで、自ら穴を掘って埋まりたいところだ。


「ううう……面目次第もありません。いかんせん、身の丈に合わないことが続きすぎて……。みなさんが私に、気味の悪い蛇を見るような目を向けてくださると助かるんですが。慣れ親しんだ環境の方が元気になれそう……」


「できるかっ!!」


 ローリックに突っ込まれて、エリシアは「ですよね」と弱々しい息を吐いた。


 一連の非常識な反応を目の当たりにして、アラスターは言葉もなく立ち尽くしている。青い目はどんよりしていて、形のいい唇には血の気がない。


「……すまなかった」


 しばらくして、アラスターは声を絞り出した。


「シンクレア公爵家から与えられていたアクセサリーは、すべてイミテーションのようだったから……エリシアを本物で飾ってやりたいと思ったんだ。まさか、ここまで高級品に免疫がないとは。女性は宝石を贈られると喜ぶと思っていたなんて、僕の価値観はクソだ」


「あの、その、アラスター殿下の価値観は間違ってませんし。私が不慣れなのは、先祖伝来の品やお母様が持参した宝石を、生活苦で売っちゃったせいなので」


「いや、少し頭を巡らせれば容易に想像できることだった。僕は馬鹿だ。自分で自分を思いっきりひっぱたいてやりたい」


 アラスターの落ち込みっぷりは凄まじかった。体にキノコが生えそうなほどじめじめしている。


「あの! 私、このブローチを大切にします! 毎日身に着けて、慣れるようにしますっ!」


 どうしてもアラスターに元気になってもらいたくて、エリシアはサイドテーブルの小箱に手を伸ばした。

 箱の中には、アザミの葉をかたどったような可愛らしいブローチが鎮座している。数えきれないほどのダイヤモンドがあしらわれた逸品だ。


 内心の驚愕が顔に出ないように気を付けながら、エリシアはそっとブローチを持ち上げた。

 額に汗が滲むのを感じる。これほど緊張したことがかつてあっただろうか。

 指先の神経がぴりぴりした。寝間着の胸元にブローチをつけるという大仕事を終えると、エリシアは詰めていた息を一気に吐き出した。


「綺麗ですね……」


 神秘的な輝きを宿すブローチを、エリシアはうっとりと眺めた。これがいつか、しっくりと自分に馴染む日が来るのだろうか。


「に、似合いますか?」


「エリシア……」


 アラスターが真っ赤になって口ごもった。なぜか涙目になっている。「似合うよ」ともごもごと言われて、エリシアは自分でもびっくりするくらい嬉しくなった。

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