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4.意識喪失

 ラーラはエリシアを強引に押しのけた。ほとんど突き飛ばされたも同然だった。


(行かないでラーラ様! 蹴られようが殴られようが、人並み以上のお給金をくれるのはシンクレア公爵家だけっ!)


 伸ばした手は、むなしく空を切った。エリシアは後ろ向きに倒れ込み、思いっきり床に叩きつけられた。


(お金……お金が……アージェント伯爵家の領地を買い戻すためのお金が……)


 馴染みのある感覚が襲い掛かってくる。気を失いかけているのだ。


 エリシアだって馬鹿ではないから、シンクレア公爵家が支払ってくれる異常に高い給金が『免罪符』であることは知っていた。


 虐げるための、こき使うための、蔑むための免罪符。恥知らずなアージェント家の末裔を人間扱いなんてできないから──金さえ払っておけば、何をしても許されると考えていたのだろう。


(それでもよかったのに……。アラスター殿下……あなた様の善意で、私、職を失いました……)


 意識が闇に沈んでいく。最後に見たのは、慌てたように駆け寄ってくるアラスターの顔だった。





「まあ、おおむね作戦通りに行きましたね。プライドの高いラーラ嬢が、エリシアさんを連れて帰ることはないと踏んでいましたが、その通りになりました」


「虐げているくせに、シンクレア公爵はエリシアさんを手放したがらなかったからな。ラーラ嬢とエリシアさんだけが参加する舞踏会に的を絞るという、アラスター殿下のご判断は正解だった」


 遠くで誰かの声が聞こえる。たくさんの人の気配も感じた。しかしエリシアの意識は、相変わらず朦朧としていた。


「栄養不足ですっかり弱っているわね。こんなに細い体で人並み以上に動き回っていたなんて、信じられないわ」


「うわ、見てよこのアザ。ドレスで隠れるところならいくら殴ってもいいと思っていたのかしら」


「気の毒にねえ。一応は18歳のお嬢さんなのに、13歳か14歳の子どもみたいに見えるわ。いくら『恥知らずなアージェント家』の末裔だからってねえ……」


 なるほど、自分は死んで天国に来たらしい。同情的な言葉を聞いて、エリシアはそう判断した。

 魔力が発現せず、領民を守れなかったアージェント家は、王侯貴族のみならず国民からも蔑まれている。


 ラーラに見捨てられたあとで路上に放り出されたとして、状況が良くなるはずがない。むしろ何倍も悪くなるはずだ。追いはぎにでも襲われて死んだに違いない。


「うう……王太子様の善意の反動で、まさか命を失うなんて……。死ぬ前に一度だけでも、領地の土を踏みたかった……」


「いやいや、あなたは死んでませんよ。むしろ健康になるための治療をしているんです」


 呆れたような声が降ってくる。エリシアはぱっと目を開けた。たくさんの人たちが、エリシアの顔を覗き込んでいた。



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