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かくれんボ

作者: ハイライトせんぱい

ーー僕は捨てられた。


物心ついた僕が最初に思った事はそんなどこにもぶつけようのない憤りだった。

悲しかった、辛かった。


けれども今思い返しタらそれはどうでもいい。


ス場らしいことを知ってしまった。

こんなケいけん中々ない。

とテも楽しいことを。


母親の事を知りたいと思うのは子供からすれば至極当然の権利だ。


だから、あの行動は仕方の無い事だった。

仕方の無い事だったんだよ。


もし過去に戻れてやり直せるのなら、僕は何がなんでも捨てられたままの僕でいたい。


ーーあの家族は、狂っている。


ーーーー


僕は幼い頃に母親に捨てられた。


朧気ながら家族の事は覚えている。

母、僕の2人家族でどこにでもいる仲のいい家族だったはず。


ある時、お出かけだよと母に手を引かれて僕はとある施設に連れてこられた。


最初は大好きな母親と出かけられるものだから当然ワクワクしていた。

楽しいことが待ってると、疑うことすらしなかった。


けれど、蓋を開けてみれば見たことの無い建物に連れてかれ、知らない人に預けられた。


僕は泣きじゃくった。


母親はそんな僕に振り向きもせずに足早に駆けて行った。


それが家族との最後の思い出。


ーーあれから13年。


僕は18になっていた。


家族と過ごした思い出より、施設のみんなと過ごした思い出の方が色濃くなってしまった。


「もうお別れなんだね。」


施設の職員さんが心配そうに話しかけてくる。


小林さんだ。


小林さんは小さい頃からずっと面倒を見てくれてた人で、職員の中でも、唯一と言って良いくらい仲のいい人だ。

この人にならおしりの穴を見せても恥ずかしくないくらいに自分をさらけ出すことが出来る。


母の代わりと思えるような厳しくも優しい人だ。


「寂しいこと言わないでくださいよ。僕がここを離れたからって一生のお別れってわけじゃないんだから。頻繁に連絡しますよ。」


僕は高校を卒業して就職することになっている。


就職先は地元を離れ、遠くの地で寮に入る。

そのため、小林さんと頻繁に会うことは出来なくなってしまう。


「ずっと一緒だったからね。そりゃ寂しいことの1つも言いたくなるわよ。」


僕は小林さんの素直な言葉に鼻の奥がツンとするのを感じる。


しんみりとした空気の中、僕は小林さんに胸の内を伝えることにした。


遠くへ行ってしまう前にやり残したことを。


「小林さん、僕、母親に会いたいです。」


小林さんは複雑な顔をして、少し考えていたが直ぐにわかったと言ってくれた。


僕は別に捨てた母ともう一度仲良くしたいとは思っていない。


正直顔も覚えておらず、怖いとすら思える。


血の繋がりはあるけど、もはや他人である。


今まで向こうから会いたいと言う申し出もなかった。


けど、これは僕にとっての踏ん切りだと思っていた。


未練を断ち切る。それに近いものだった。


遠くに行ってしまう前に、一度会ってみよう。

きっとこれを逃せば、もう一生会う機会など無いと確信していた。


そこからはとんとん拍子で事が運んだ。


小林さんは所長から許可をなんなく貰い、僕は数日の後に教えてもらった住所に来ていた。


「こんな所だったっけ。」


着いた場所は古風な屋敷で所々カビたり、穴が空いたりしており、築100年と言われたら納得してしまいそうな外観だった。


屋敷の雰囲気もあってか臆病風邪に吹かれるも、意を決してインターホンを鳴らす。


外観にそぐわない電子的な音が鳴る。


少しの沈黙が体感でとても長く感じられた。


心臓の音がやけにうるさい。

手汗でびちょびちょになった手に無意識に力が入る。


ーーはい


無機質な女性の声が応答した。


「あっ、あの連絡していた中山です。」


つい声がうわずってしまう。


僕の声を聞くと、無言で応対が終わった。


少し待っていると、曇りガラスの引き戸の向こう側から足音が聞こえてきてガラガラと開いた。


「どうぞ、あがって。」


無表情のまま現れたのはお年を召された女性だった。


これが僕のお母さん?


何せ、顔も覚えていないため誰が母親だか見当もつかない。


そんな僕の不安を察してか、女性は僕に淡々と告げた。


ーー「あなたのお母さんは死んだわよ。」


え?


とても驚いた。

情けなく口をあんぐり開けて呆然としてしまった。


当然だろう、なにせ踏ん切りをつけに来たのにもう既に死んでいたのだ。


期待と不安がせめぎ合い、強ばっていた僕の心は力が抜けたように空っぽになってしまった。


「そう…ですか。ありがとうございました。」


僕は踵を返し、足取り重く帰路に着こうとする。


すると、後ろからおばあさんが声をかけてくる。


「会えるわよ。」


唐突に意味のわからない言葉を投げかけられる。


会える?誰に。


「お母さんに会いたいんでしょ?会わせてあげる。だからお上がりなさい。」


僕は胡散臭いこのおばあさんから早々に離れたかったが、このまま帰っては勇気を出して来た甲斐がない。


それにいくら胡散臭いと言っても親戚であることに変わりはないのだ。


訳の分からない話をされたとしても、この人から母親の話しを聞ければ良いかと思い、誘われるまま家に上がることにした。


ーーおばあさんは色々な話をしてくれた。


僕の母親の小さかった頃の話しから、どんな性格だったか、どこで働いて、誰と出会ったか。


思い出話に花を咲かせるおばあさんの顔は、玄関で見た無機質な表情とは違い時折笑顔を交えていた。


けれど、僕を捨ててからの話しには触れなかった。


痺れを切らした僕は、僕を捨ててからの母の話しを聞くことにした。


すると、おばあさんは明らかに表情を曇らせた。そして重たくなった口を開くようにゆっくりと僕に言った。


ーー「かくれんぼが好きになったの。」


話しを要約すると、つまりこういう事だった。


ーー母は僕を捨てる前からかくれんぼをするようになった。


言葉も喋れない僕を連れてきては、執拗にかくれんぼを迫ってきたと言う。


最初は子供をあやす為と思い、嬉々として受け入れていたが、頻繁にかくれんぼをしたいと電話をしてくる我が子の異常さに怖くなってしまったおばあさんは、ことある事に理由をつけて断ってしまっていた。


ある時、事前の連絡もなく帰ってきた娘を見て驚いたという。


服は土ぼこりで汚れていて、身体の至る所に生傷があった。


そして何より驚いたのは、小さい子供の姿が無かったからだ。


問いただすと、あの子が鬼だから私が隠れないとダメなの。


そればかりで話にならない。


おかしくなった娘を施設に入れようとしたが、暴れて拒否したこと、そしてそんな娘が可愛く思えてきてそばに置いておきたくなったこと。


僕を引き取ることも考えてくれていたみたいだけど、娘の方が手一杯になってたことと、暴れることが多かった為、引き取りはしなかったと頭をさげながら話してくれた。


そして、母親のかくれんぼは何年も続き、3年ほど前隠れていた屋根裏で死んでいたのを見つけたそうだ。


ーーそれでね、とおばあさんは僕をまっすぐ見てくる。


その迫力にたじろぎそうになってしまう。


「まだ、かくれんぼは続いているの。」


僕は混乱したが、すぐに納得した。

おばあさんもおかしくなっちゃったんだと思った。


聞くことは聞いたし、あとは適当に話を合わせて帰ろうと、話しを纏めようとした。


「今はね、娘が鬼なの。わざと見つかればお母さんに会えるわよ。ね?だから一緒にやりましょう?」


僕はすごく帰りたかった。

幽霊とかそういうのは一切信じていない僕だけど、この話に乗るのは良くない気がした。


それにおかしくなったと1度でも思ってしまったおばあさんと、これ以上一緒にいるのは居心地が悪かった。


けれどあまりにもしつこかったため、かくれんぼに乗じてそのまま帰ってしまおうと思い、渋々承諾した。


屋敷は二階建てで部屋もかなりの数がある。


僕は隠れるフリをして帰るつもりなので玄関の近くで隠れられる場所を探すことにした。


そのまま帰ってしまおうかと思ったが、おばあさんが隠れきる前に帰ってしまっては、追いかけられるかもしれないと思い少しの間だけ身を潜めることにした。


幽霊なんかより、生きた人間の方が怖いのである。


そして外は夕暮れ時に差し掛かっていた。


玄関入ってすぐの階段の下に物置のスペースがあったので僕はそこに隠れることにした。


外ではおばあさんがどこに隠れようかと、ドタドタとした足音が聞こえている。


足音はどんどん近づいてきて2階を駆け上がっていく。


ダンダンッと振動がとても響く。


足音が遠くなり静寂が辺りを包んだ。


よし、帰ろう。

静かになったのを見計らい、物置のドアに手をかけ恐る恐る外へ出る。


気づくと辺りは闇に包まれていた。

結構時間が経ってしまっていたようだ。


足音がならないように忍び足で玄関まで行き靴を履く。


立ち上がると、膝の骨がコキっと鳴った。


普段は全く気にならない音だが、この状況だと一気に冷や汗が出る。

静かな中に骨の音はかなり響いてしまった。


大丈夫かな?と少しの間立ち尽くす。


家の中は静寂。

外に聞こえるひぐらしの鳴き声が微かに聞こえる程度だ。


意を決して外へ出ようとする。


引き戸に手をかける。


ーーギシッ


身体がビクッと反応する。


確かに音がした。


骨の音ですらよく響くこの空間において、木の軋む音もまたよく響く。


そしてかなり近いところで音が鳴ったように感じた。


やばいと思った僕は、勢いよく引き戸を開ける。


引き戸を開け外へ走り出そうとする。


その一瞬、耳元で確かに聞こえた。


静かに、そしてハッキリと。


ーー「どぉしてミっけてくれないの。」


死にものぐるいで走った。

叫びながら走った。

心臓が破れそうになっても、それでも恐怖が原動力になり足を止めることが出来なかった。


走る。


ひたすら走る。


先程の声が頭の中を反芻する。


あれは母親なんかじゃない。


だって。


ーー男の声だった。


ーーーー


ーー僕はあれから高校ヲ辞めた。


何をしているカって?


それはァ、サいこうな事だよ?


もう分かっているンでしょ?

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