【短編】断罪と婚約破棄……からの?!
こういう逆ハーレム?な秘めた片想いで土壇場のヒーローが一人じゃ無くてもいいのでは?と思いつきで前に書いた短編です。更新までの繋ぎにゆるっとお楽しみください。
「ユーグレース・ザイン伯爵令嬢……いや、ユーグレース! 貴様はこのキリアン・ルーチェ子爵令嬢に数々の嫌がらせを行い、学園に不和をもたらした。貴族として恥ずべき行いの数々、すべてこのキリアンから聞いたぞ! そんな女と婚約していたなど私は私が恥ずかしい……! 婚約破棄を申し渡す!」
はい、前振りは完璧です、さすがリンク・ユシュグライド第一王子。事の状況の全てがほとんど説明されました。
今現在、私は王侯貴族の令息令嬢が通う学園の卒業パーティーで先の通りの理由で婚約破棄されました。冷めた目をしているのは、身に覚えがないからだけど、たぶん周りからは急な出来事でショックを受けている、と思われている事でしょう。私が脳内整理するまでその誤解をしておいてほしい。
もう少し細かく状況を説明しますと、私とリンク殿下は学園入学前からの婚約者同士だったんですが、学園に入った途端キリアン様がリンク殿下にベタベタし始めたので、婚約者がいるので控えてください、と口頭で再三注意したわけで。リンク殿下もうまく距離を取ってくれればいいんですけど、鼻の下を伸ばす体たらくで、まぁ卒業後に婚約破棄しよう、とは思ってたんです、穏便に。
たぶん嫌がらせというのは再三の注意の話だと思うんですけど、明らかに盛りましたね。学園の中では二人は常に一緒、今日も私ではなくキリアン様をエスコートしていたのに、どの隙に私が嫌がらせをしたのか気になるところ。
彼ら2人の周りには、学園在学中王子の身の回りにいた令息が、えーと……騎士叙勲も間違いなしと謳われる剣の名手ザイザック・ゲイン男爵令息、宮廷魔術師団から既に声が掛かっているフルフレイム・ヤルセム伯爵令息、宰相閣下の息子で抜群の成績を維持した生徒会長のキーン・マグレイド公爵令息、国教の教皇令息であるヘリクス・ミトレンス様。
はい、将来国を背負って立つのに相応しい美形な4名様が控えております。この数に王子を足して5人でリンチはちょっと嫌だなぁ、無実だし、と思ったので、ここは婚約破棄されて外国の貴族にでも輿入れしよう、と諦めの息を吐き、淑女の礼をする。
「全く身に覚えがございませんが、婚約破棄は受け入れましょう。今後、どうぞご健勝にお過ごしくださいませ、殿下」
「な、なんだその態度は! キリアンに対して謝る気はないのか?!」
ないですよ、何もしてないんですから。
あぁでも、無実だけどリンチは嫌だなぁ、頭を下げるのも嫌だなぁ、と思っていたら殿下の取り巻きの男性陣が私を背に庇うように進み出て、殿下とキリアン様を睨みつけて私の前に立ちました……?
状況が飲み込めません。どうした事ですかね。
生徒会長のキーン様が最初に口を開く。銀色の髪に眼鏡の下の青い瞳が理知的と女生徒に人気の長身痩躯でクールな方。嫌味っぽいな、と時々思っていたんですけど、よく考えたら「もう構い付けない方がよろしいのでは?」とかは私のために言ってくれていたのかもしれないな。
「殿下には再三申し上げましたことですが、最後にもう一度忠言申し上げます。その女の証言以外のユーグレース嬢の嫌がらせの証拠は生徒会の調べでもあがってきていません。何故それを理由に婚約者……失礼、元婚約者であるユーグレース嬢を責めるのです。これはもう私の手には負えない問題ですので、全て父上及び陛下にご報告申し上げます」
裏取りしてくださってたんですか。それはまぁ、証拠はありませんよね。やってないので。
続いてザイザック様が私を片手で庇います。刈り込んだ青い髪に後ろ髪だけを長く伸ばして括り、護衛の権限で帯剣を許されていますがその剣は抜かれる事なく3年を終えたとか。確かに殿下とキリアン様のお近くによくいらした気がする。
「殿下の護衛を命じられて3年間お側にお仕え申し上げたが、はっきり言わせて貰えば見損ないました。元婚約者であるユーグレース嬢の忠告を聞かず、また、婚約者を大事にもせず、人目も憚らずその子爵令嬢と恋人のように振る舞う姿はまさに無様。危うくて国など任せられぬとこちらも父である近衛騎士団長に進言致す所存です」
さらには穏やかな風体と声で癒されると言われる、黄緑色の髪をした教皇令息のヘリクス様が珍しく厳しい顔で殿下たちを睨みつけます。
「婚約は神殿に納められた契約によるもの。神への誓いをこの様な不浄な理由で一方的に破棄する愚かしさには呆れました。私も殿下とキリアン嬢のお近くにいる事は多かったのですが、ユーグレース嬢を思えばこそです。数々の不貞を元に、殿下の王位継承権の取り上げを父を通して進言申し上げますので、お覚悟を」
そして最後は学園に入る前は平民で、その溢れる才能からヤルセム家へ養子にとられたフルフレイム様が、粗雑な感じに纏めてくれました。彼は肩まで伸びた黒髪に一筋の金髪が混ざっており、そこに魔力を蓄えているとかで。貴族としての最低限のマナーはありますし、暴力的とまでは言わないけれど野趣溢れる所が人気な方です。
「平民上がりの俺が言うのもなんだが、頭お花畑かよ? なんで俺が、あー、殿下の側にいたかわからねぇ? 平民上がり、と言って俺にドアの前見張らせたりしやがって。そんな命令蹴っちまってもよかったんだが、これを撮るためだよ、ったくめんどくせぇ事させやがって」
そう言って取り出したのは飾り紐のついた小さな水晶玉でした。そこから聞こえて来る音声は……恥ずかしいので説明しなくていいですか? とりあえず、一歩進んだ関係に至っていたのはよく分かりました。魔道具だったんですね。
今や何が起こっているのか理解できずに顔面蒼白、言葉も出ないのは殿下とキリアン様の方。身から出た錆というのをこうも見事に体現してくださるとは。
キーン様とヘリクス様が顔を見合わせます。
「今はまだ学園の生徒の身。生徒会長の私の権限によってご退場いただきます」
「教皇令息の立場から、今の不貞の証拠により王家有責の婚約破棄として認証いたします。神官の資格は有しておりますので」
ザイザック様が入り口に立つ門兵に殿下とキリアン様を連れて行けと目で指示を出します。
「ま、待て! 誤解だ! 俺が悪かった、ユーグレース! ユーグレース!」
「殿下、私この台詞を言うのは100回は超えていると思うのですが、最後にもう一度だけ……」
見苦しく私に赦しを乞おうとする姿に、もはや私は笑えてきた。さっきまで私を裁いてやろう、とした堂々としたあほヅラの方がまだマシです。
「『見苦しいので、おやめくださいませ』」
微笑んでお見送りする時には、意気消沈していましたし、キリアン様は鬼の様な形相で私を睨んでましたがそこは殿下を慮る所じゃなのかな。末長くお幸せに。
そう思って彼らの退場を見送ると同時に、私を庇ってくれた皆さんにお礼を言おうと思ったら、一斉に跪かれまして。
「?!」
「ユーグレース嬢、私なら貴女を裏切る真似はしません。殿下への忠心、見事な3年間でした。どうか私と婚約を」
「表立って貴女を守れなかった事を許されたい。俺からの婚約の申し出を受けてくれるのなら、今後一生、貴女と貴女の住む国の為に剣を振るう事を誓う」
「貴女の行いはとても立派でした。私が全ての傷を癒す栄誉に預かれたら幸いです……、婚約の申し込みを受けてくれませんか?」
「貴族も悪いもんじゃねぇと、アンタが3年間の不遇に負けない姿で思った。俺と婚約してくれ、必ずアンタを守ってみせるぜ」
今日一番のビックリに、頭が完全に思考停止しました。
お互いに睨み付けあって火花を散らしているようですが、私、今婚約破棄したばかりですので?!
断罪と婚約破棄と、この婚約の申し込みに、私はとにかくこの場を逃げ出そう、としか思えず、後日お手紙をお送りします、と宣言してこの場を後にした。
(び、びっくりしたー!)
——かくして、この後の私はこの4名からの婚約してムーブに振り回される事になるのだけれど、それはまた、違うお話なので……。
ありがとうございました!
特に続きませんので好きなルートを想像してお楽しみください!
今夜から連載もの連載再開します!