表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶喪失令嬢と公爵様の婚約生活  作者: すず
第二章 婚約生活編
53/64

15.赤髪の情報屋

サイラスのお話です。

中盤に残酷表現ありなので苦手な方はスルーして下さい(>_<)

 『情報屋』ーーーそれがオレの生業(なりわい)だ。


 サイラスは生粋の北方民族の生まれだ。燃えるような赤い髪が北方民族の特徴でもあった。


 北方民族は小さな部族ごとに散らばって暮らしている。山間にある小さな村、そこがサイラスの故郷であった。


 住んでいるのは三十人にも満たず、一番近い街までも険しい山道しかないため、商人も滅多に来ない。自給自足の閉ざされた世界。それでもサイラスは、両親や友に囲まれて幸せであった。


 そんな幸せが崩れ去ったのは、いつもより雪の深いある冬のことだった。


 異変の始まりは、村で体調を崩す者が現れたことだ。最初は風邪かと思われたが、その者は寝込んでたった数日で亡くなってしまった。


 そして、次第に同じように咳や高熱を出す者がぽつぽつと現れた。呼吸がおかしくなる者、血の混じった(たん)が出る者……症状も多岐にわたっていた。その者達も数日から数週間の闘病の末に息を引き取った。


 ここまで異変が続くと、村では何かの病ではないのかという話が出始めた。村にあった薬も効かず、倒れる人はじわじわと増えていく。誰もが未知の状況に強い恐怖を感じていた。


 ついにはサイラスの両親も高熱に倒れてしまった。父の身体には黒い痣ができ、母は胸の痛みにうなされるようになった。


「父さん、母さん、待ってて!街に行って薬もらってくる!」


 サイラスは僅かなお金を握りしめて街へと向かった。普通に街まで行くと丸一日はかかる。雪の積もった山道だともっと時間がかかるだろう。サイラスは、雪に足をとられ転ぼうとも、寒さで手足の感覚がなくなろうとも、ひたすらに街を目指した。


 街に着いたのは、村を出て一日半ほどが経ってからだ。サイラスは空腹も顧みず急いで薬屋へと向かった。


「父さんと母さんが……村のみんなの具合が悪いんだ。買えるだけの薬を売ってくれ」


 サイラスは駆け込んだ薬屋で村の状況を話した。何とか治る薬を買おうと、症状を詳しく話す。しかし、話を聞いた薬師は青ざめた顔色に変わっていった。


「ウチにはその病に効く薬なんてない!さっさと出ていきなっ!」

「でもっ!みんな苦しんでるだ!薬をーーー」

「よそで買っとくれ!」


 結局サイラスは追い出されるように店を出た。この街の薬屋はここしかない。ここに薬がないとなると別の街に行かざるを得ない。


 この時のサイラスは、薬を手に入れることで頭がいっぱいだったのだ。薬屋の店主が症状を聞いて顔色を変えたことには気付かなかった。サイラスは休む間もなく、さらに半日をかけて隣の街へと向かった。


 サイラスが何とか薬を買って村の近くまで戻ってきたのは、村を出て既に六日が経っていた。子供の体力では疲労困憊だったが、歩みが止まることはなかった。


ーーーこれで父さんも母さんも、村のみんなが良くなる!


 はやる気持ちを抑えて足場の悪い雪道を進む。そんな時、サイラスは木立の奥に気になるものを見つけた。


 たくさんの足跡、おそらくつい最近のものだろう。盗賊でも出たのだろうか。サイラスは警戒を強め、足跡から離れるように遠回りをするはめになった。早く帰らなければいけないが、後をつけられて盗賊に村を襲撃されてはたまったものではない。


 いつもより時間をかけて村の近くまで戻ったサイラスは異変を感じた。焦げ付くようなものすごい臭い。山火事かと思うも火の手は見当たらない。不思議に思いながら歩みを進める。


「…………何があった…………」


 ようやく辿り着いた生まれ故郷を前に、サイラスは呆然となった。


 真っ黒に焼け落ちた家、燃え尽きた畑、原型を留めない村。しんと静まりかえり人の気配はまるで感じない。


 サイラスは無意識に自分の家と思われる場所へと歩みを進めた。途中、黒焦げのーー人のようなものが目に入る。嗅いだことのない異臭に鼻を押さえながらある場所で足を止めた。


「父さん……?母さん…………?」


 サイラスの家も無惨に焼け焦げて崩れ落ちていた。残骸の中へ足を踏み入れると煤が舞い上がる。かじかむ手で何か見つけられないかと煤の中を無我夢中でかき分けた。しかし、真っ黒なそこからは何も見つけられなかった。


 誰かいないかと村をあちこち探したサイラスは、あるものを見つけた。帰ってくる途中にも見た、たくさんの足跡だ。まさか盗賊に襲われたのだろうか。村は病人が大半を占めていたのでひとたまりもなかっただろう。


 状況が飲み込めなかったサイラスは、近くの木のうろで数日を過ごした。逃げのびた村人が現れないかひたすら待ち続けた。父も母も帰ってくるに違いない。飢えは雪を食べてしのいでいた。


 二日経ってサイラスは、ようやく腰を上げた。隣村には父の妹が住んでいたはずだ。もしかしたら父さんも母さんもそっちに逃げているのかも知れない。それなら早く薬を届けなくてはと雪道を駆け抜けた。


「サイラス!あぁ……良かった……あなたは無事だったのね!」


 何とか辿り着いた隣村で、サイラスを見つけた叔母は泣きながらボロボロの小さな体を抱きしめてくれた。叔母の夫……叔父も、ふらふらになったサイラスを手厚くもてなしてくれた。


「叔母さん、父さんと母さんは?ここに来てる?」


 サイラスの問いかけに叔母は、ますます泣き出してしまった。代わりに話してくれたのは、悼ましそうにサイラスを見る叔父であった。


「サイラス……街の軍人が村を焼き払ったんだ」

「えっ…………?」

「俺らが行ったときには、村の……みんなは………」


 言葉を詰まらせ泣き出してしまった叔父を見て、サイラスの頭の中では色々なことが繋がった。


 たくさんの足跡は軍人のもの。真っ白な雪には赤黒い何かが染みていたの。あれは煤や泥ではなかったのだ。


「なんで………オレ………薬…………」


 ポロポロと溢れ出る涙で視界が滲む。薬の入った小さなポーチを握りしめると、叔父に抱きしめられた。声を枯らすほどに泣き崩れたサイラスは、極度の疲労と脱水症状からそのまま眠るように気を失った。


 それから一年、サイラスは叔母夫婦のもとで世話になった。その間に住んでいた村に訪れては、焼け焦げた人のようなものを埋葬し続けた。


 父と母らしき亡骸には会えていない。人らしきものは、生前の姿など少しも残していなかったのだ。埋葬が全て終わると叔母夫婦の元を旅立った。


 目立つ赤髪をバンダナで隠し、様々な場所を渡り歩いた。辿り着いた街で日銭を稼ぎ、金が貯まればまた旅へ出る。そんな生活が数年経った頃、サイラスはようやく求めていた真実を手に入れた。


 サイラスの故郷は、恐ろしい病に冒されており、他の街へ蔓延する前に焼き討ちにあったのだ。村の人は病にかかっているかなど関係なく全員殺された。寝たきりの病人はそのまま火にまかれて死んだそうだ。指示をしたのは街を管理する貴族。実行したのは街の軍人。


 『一人の子供が助けを求めに来て、村が病に冒されていることを知ったらしい』


 この言葉を知った時、サイラスはどうしようもなく叫びたかった。その子供とは自分なのだ。自分がみんなを殺した。


 今さらどうしようもない事態にサイラスは北の地から逃げ出した。悲しくて、申し訳なくて、苦しくて………村のみんなの墓の前で謝ることすらも怖くて出来なかった。


 東、王都、西、南……少し滞在してはすぐに流れる。そんな生活をしていると色々な情報を得ることが多くなった。 


 人より少し記憶力の良いサイラスは、たくさんの情報を頭に入れる事が出来た。数年前の情報でも引き出しを開けるように思い出すことが出来る。それを活かして、見よう見まねで情報屋を始めた。


 最初は苦労もしたが、思いのほか自分には向いていたようで、すぐに顧客がつくようになった。悲しみを忘れようと、人懐っこい性格を演じたのも幸いして、広い人脈を築くことも出来た。


 情報屋だけで生活できるようになっても、貴族や軍人が嫌いなのは変わらない。あいつらはオレ達の事なんて守っちゃくれない。


 情報を売るかどうかは全てオレ次第だ。





「~~~♪」

「あぁ?随分ご機嫌だな、サイラス」


 鼻歌を歌いながらエールを傾けるサイラスに、ひょろい男が話しかけてきた。


「当たり前じゃん。こんな運命的な出会いがあるなんて……あぁ!セシリアちゃんが嫁に欲しい!」


 うっとりと目を細めるサイラスに男は呆れた顔をした。この男は表の酒場から、セシリア達をサイラスの元へ案内した人物だ。


「あの嬢ちゃん、涼しい顔してカウンティングしたっつーんだろ。俺も見たかったぜ」

「ワンセットで勝負に挑んだオレも悪かったよ。山札も半分になってたのにさー。世間知らずのお嬢様だと油断した」


 セシリアは可愛らしい微笑みの裏で虎視眈々と勝ちを狙っていたのだ。おそらく、確実に勝てる確信がなければ『もう一度練習してもいいですか』など言っていたのかもしれない。思い出したサイラスは、笑みを深めた。


「本当、あの勝負はシビれたねー!可愛いのにしたたかなところも超たまんない!」

「酔ったフリした俺にも堂々とお前に会えるか聞いてきたもんな。大胆っつーか肝が据わってるっつーか……」

「そんなとこが超そそられる!」


 女好きと言われているサイラスだが、実際は少し違う。暗闇の中にある焼け焦げた村……木のうろで誰かを待ち続けた日々。それらが怖くて、暗闇で一人になりたくないから女を抱いていた。


 しかし、セシリアへの惚れ込み具合は今までと様子が違っていた。男もそれに気付いて眉間に皺を寄せている。


「けどよ、あの子と一緒にいたのはここの領主なんだろ?」

「そ、若き当主サマのルイス・フェーンベルグだね。セシリアちゃんは、その婚約者。確かちょっと前に死にかけてるはずだよ」


 情報屋なだけあり、サイラスはセシリアが死にかけた事も把握していた。当然その犯人が誰なのかも知っている。あの時はいつものように貴族間のトラブルだと思っていた。まさかこんな形で出会うとは思いもしなかった。


「領主サマはセシリアちゃんにベタ惚れみたいだし。あー、もう何とかなんないかなぁ。セシリアちゃんが嫁に欲しいよ~」

「バカ言うな。領主を敵に回したっていいことなんざねーぞ」

「じゃ、愛人でもいいや~」

「アホか!」


 サイラスは口を尖らせて男を見た。夢くらい見たっていいではないか。


「それより居場所がバレたんだ。すぐに移動すんだろ?」


 サイラスは居場所が特定されるとすぐ移動すると決めていた。面倒な争いも避けられるし、言いがかりもつけられたくないからだ。この男は、いつの頃からかサイラスと旅を共にしていた。


「えーでも、セシリアちゃんがまた来てくれるかもしんないじゃん」

「現実を見ろ!だいたいお前だって軍に力なんて貸したくねぇんだろ!」


 男の言う通り、最初サイラスはセシリアに情報なんてあげないつもりであった。それはセシリアの後ろにいた二人も感じていただろう。しかし、思いのほかセシリアが面白い子ですっかり気に入ってしまったのだ。


 さらにセシリアが聞きたいと言った『王家の秘宝』については、レスター商会の狸じじいが関わっている。そいつがセシリアに目をつけていたのも知っていたので、手を貸すことに決めたのだ。


 きっとレスター商会は、あの嫉妬深い領主サマに叩き潰されるだろう。レスター商会がどうなるかも見てみたい。あわよくば、あの凛とした美しい花にもう一度会いたい。


「よーし、決めた!次の拠点は王都にしよう!」


 そうしてサイラスは仕事にかこつけてセシリアを追うことを決めたのであった。

サイラスは男二人旅をしてます。

街でセシリアに手を振ったのは可愛い女の子を見つけてはしゃいでただけです(笑)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ