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記憶喪失令嬢と公爵様の婚約生活  作者: すず
第一章 記憶喪失編
18/64

18.孤児院4

「ようやく片がついたな」

「まさかこんなに動き回るハメになるなんて……ルイス様が鬼畜過ぎる……」


 ぐったりする俺とは違い、ルイス様は一仕事を終えすっきりした表情だ。


 あの日、死神(グリムリーパー)ことエマを助けたいと言った俺に、ルイス様はとある条件を突きつけてきた。彼女を飼っている人身売買組織を潰せば普通の女の子として生きられるからと言われれば手伝わない訳にはいかない。


 あの七人組の誘拐犯も犯罪組織の末端だったらしい。最終的には組織の本拠地である王都まで行ったし、何か軍の人達も出てきたし、えらく大事(おおごと)になっていた。


 保護した子供はエマを含めて四人。まだ幼い四歳の子供もいた。孤児を連れてきてはエマのように暗殺者として使っていたそうだ。腹立たしい話である。


 軍の調書や後始末など、全てが終わりフェーンベルグ公爵家へと連れてこられた俺は、畏れ多くもルイス様と二人でお茶をしていた。


死神(グリムリーパー)も含め保護した子供達は明日には孤児院へ来るはずだ。拾ったからにはちゃんと面倒を見ろよ?」

「もちろんですよ。最後まで責任は持ちますんで」


 ルイス様とエマの間に割って入ったあの時、エマは俺に気付いてギリギリで振り抜くナイフを止めた。初めて無表情が崩れ、動揺した顔を見せた。その顔は年相応のもので、とても冷酷な暗殺者には見えなかった。むしろ俺に気付いていただろうルイス様が本気で振り抜いてきた方が怖かった……。


「……というか、ルイス様。今回の件、全て計算済みでしょう?」

「計算とは?」


 あーもう、この笑顔マジでうさんくさいわ。本当末恐ろしい……いや、今でも十分恐いか。


「はぁ……あの時、子供に弱い俺が止めに入る事。エマを助けるためなら組織を潰すのにも手を貸す事。本当は誘拐犯よりも組織を潰す方が目的だったんじゃないすか?」

「あの場に死神(グリムリーパー)がいたのは想定外だ。あいつがアシュトンに対して敵意がなかった事も驚いたな」


 それ以外は否定しないって事は、当たりという事ですか……。俺もルイス様のこと分かってきたなぁ……(遠い目)


 よく分からないが俺はエマに何故かとても懐かれていた。調書の時も俺から離れようとしなかった。蒸しパンあげたのがよほど嬉しかったのだろうか。餌付けみたいだな……。


「でもまさか王都まで行くなんて……何だかんだで騒ぎを聞きつけた軍が駆けつけてくれて助かりましたよ。流石にたった二人で組織一つを潰すのは無謀ですって」

「ああ、軍には事前に情報をリークしておいたんだ。もう少し早く来ると思ったんだがな」


 …………前言撤回。軍が駆けつけたのもこの人の仕込みかよ。やっぱルイス様のことを知るにはまだまだ無理だった。


「だがこれで軍へ入った後、舐められる事はないだろうな」

「はっ……? 軍へ入る? 誰が??」

「言ってなかったか? 半年後の十五の誕生日に合わせて士官学校に入るんだ。それに合わせて俺とモーリスは王都の別邸へ移る。子供だとか次期公爵だとかでいちいち絡まれるのも面倒だからな。今回の件は良い箔付けになっただろう」


 えっ…まさかそっちが目的!? 散々人のことを手の上で転がしておいて箔付けが目的っ!?


 もうやだ……もう恐い……この人、どこまで頭が良いんだよ。




◆◆◆◆◆




 エマ達が孤児院にやってきた当初は普通の生活に中々馴染めず、俺達の事をそれはもう警戒していた。最年少の子でさえ獣のような目で威嚇するありさまだ。大人しく言うことを聞くのは食事の時くらいであった。まぁ、ハンナの飯は美味いからな。


 元暗殺者という事で基本的には俺が四人の面倒を見ていた。万が一何かあったら大変だからだ。普通の暮らし方を教え、文字の読み方も教え、やってはいけない事を根気強く教えた。ケンカをすれば両成敗でげんこつもした。あいつらのケンカ……軽い殺し合いだからな……(遠い目)


 その甲斐あり、今ではそう簡単に手が出ることはなくなりひと安心だ。孤児院で刃傷沙汰など本当勘弁である。


 数ヶ月が経つと、孤児院での生活にもそこそこ馴染んだようであった。


 最年少の四歳のブリジットはハンナに懐いて料理の手伝いをするようになった。院長先生にも懐いて、よく本を読んでもらっている。


 六歳のイザークはニックの作業を楽しそうに手伝っている。最近年相応に悪戯もするようになりアデルに叱られていた。


 残るエマとディルクはあまり変化がない。エマは少しなら喋るようになったが、相変わらずの無表情だ。ディルクは元からそこそこ笑う奴……いや、笑う以外が出来なかったようだが、ちょっとは感情が出るようになった。この二人は暗殺者として人を手にかけた事がある分、人と一線を引こうとするのだ。四六時中一緒に居たからか、俺には何とか警戒を緩めてくれている。


「……邪魔」

「早い者勝ち~」

「「…………」」

「あー……はいはい、そこケンカしない」


 この二人は食事の席でさえこうしてケンカになりかける。ディルクは暗殺者として育った割には周りを見て判断出来るのだが、やはり喧嘩っ早い。この時はなぜか俺の隣の席を争った。まぁ食事の席で暴れようものならハンナから拳骨くらうけどな。それ以来、俺は左右に二人が座れるよう気を遣うことになった。


 俺のあとを付いてくるのは可愛い……可愛いのだが、早く皆にも心を開いてほしい。単純に二人の将来が心配である。この間なんて、街に買い物に行くから留守番をさせたらいつの間にか付いて……いや、あれは尾行だな(遠い目)


 エマとディルクは暗殺者として生きた時間が長すぎて、俺みたいに口やかましく世話をされるのが嬉しいらしい。離れがたいほどに好かれたのは嬉しいが、本気の尾行は怖いからやめてほしい。


 さらに一ヶ月ほど経つと、ディルクはアデルと一緒にいることが多くなった。よく中庭で模擬戦をしている。男同士ちゃんばら遊びが楽しいのかもしれない……ちょっとハイレベルだが。二人で切磋琢磨しあっている。


 エマの方はと言うと、いまだに俺以外とは距離がある。時々夜にうなされている事からすると、犯罪組織で受けた心の傷がまだ癒えないのだろう。


「エマはなー……長くあそこに居たみたいだし。俺が会った時にはもうあんな感じだったよ。笑ったのなんて見た事ないもん」

「そっかー。う~ん、笑えるようになればいいんだけどなぁ」


 珍しくエマが俺から離れている間、ディルクが色々教えてくれた。最近のディルクはこうして暗殺者だった頃の話しを聞かせてくれる。あまりにも普通に話すので少し拍子抜けだ。ちなみにエマは新しい服を作るためにシーラに連れていかれた。


 俺が頭を抱えて悩み出すと、ディルクはじっとこちらを見据えた。


「………アシュトンって素で善人だよなぁ」

「なんだそれ? 俺だって悪いことくらいしてるぞ」

「俺らほどじゃないだろ。ま、エマも俺も……ブリジットやイザークだって感謝してるって話し」


 突然訳の分からない事を言われたが、ディルクは楽しそうに笑っている。作り笑顔ではない。それにしても俺が善人とは……。善人というのは院長先生みたいな優しい人だろう。


「子供の面倒見るのは当然だろ。感謝されるような事はしてないって。新しい生活に慣れるため頑張ったお前らの方が偉い!」


 わしゃわしゃと頭を撫でてやるとディルクは恥ずかしげに小さく笑った。こういう表情も出来るようになってよかった。


 そんなある日、ルイス様が孤児院へとやってきた。モーリスは引っ越し準備で留守番らしい。いつもならエマが引っ付いてくるのだが、ルイス様が苦手らしくどこかへ行ってしまった。顔を合わせる前に身を隠すとは流石である。


 そういう訳で俺とルイス様は二人で応接室にいた。


「アシュトン、卒業まで半年を切ったが……どうするのか決めてるのか?」

「あ~……もうそんな時期かぁ。エマ達のこともあるから街で働きながらしばらくはここに通おうかと」

「子供達は大分ここに慣れたようだが?」


 確かに慣れてはいる。最近はエマだって一人で寝られるようになった。ブリジットとイザークはすっかりここに馴染んだし。ディルクは物分かりが良すぎて少し心配だが、馴染んではいる。


 俺が答えられずに悩んでいるとルイス様は、ニコリと満面の笑顔を見せた。その笑顔に一抹の不安が過る。


「実はな、働き口についてはこちらで用意してあるんだ。院長先生にも許可を貰っている」

「……はい?」


 俺本人は初耳なのだが。しかもこの笑顔……マジで嫌な予感しかしない。


「アシュトン、君は俺の元で働いてもらう事にした。二週間後、一緒に王都へ行くから準備しておくように」

「…………………はああぁぁぁっっ!!??」


 俺の大声は孤児院中に響き渡ったことだろう。こんな大声出したのなんて初めてだぞ……。


 そうして俺は、拒否権なしでルイス様に王都へ連れて行かれる事となったのだ。庭師とは表の顔。情報収集、潜入、戦闘何でもこなす使用人として雇われる事になった。


 この時になってようやく分かったのは、俺への教育は全てこのためだったという事だ。怖い……年下なのに怖い……怖すぎる。


 余談だが、俺が孤児院を強制卒業して二年後、エマがルイス様に雇われたとかで突然王都へとやってきた。


 今ではアデルは近衛である第一部隊の隊長補佐、ディルクはルイス様の第二部隊の副隊長。いったいどこまで計算していたのか。ルイス様の策略には一生勝てないと思う……。





 さらに余談だが、エマが雇われた経緯は意外だった。


「おい。……私も雇え」

「へぇ、俺を避けていたと思ったが……どこかで話しを聞いていたな」

「……私なら戦える。アシュには出来ない事も出来る」

「まぁね。アシュトンに殺しは出来ないだろうね。人が良すぎるからな」

「だから私がやる。雇えっ!」

「物騒な話だな。うちで働くなら表向き使用人の仕事が出来ないと無理だよ。その言葉使いも直さないとね」


 俺がルイス様の使用人に強制任命されたあの日、エマが自分からルイス様に直談判した事はつい最近まで知らなかったのである。

エマとディルクはライバルであり過酷な環境を生き抜いた同士でもあります。

仲が良いかというと……まぁそこそこです。


明日からは本編に戻ります。

孤児院’sの活躍もお楽しみに♪

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