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記憶喪失令嬢と公爵様の婚約生活  作者: すず
第一章 記憶喪失編
16/64

16.孤児院2

 あれから更に二年が経った。ルイス様による教育改革からまる三年だ。俺達の教育は現在進行形で未だ続けられている。


 この間うっかり知ってしまったが、ルイス様はこの教育改革のデータを取っているそうだ。俺達はモルモットですかい? ちび達にはとてもじゃないが言えなかった。


 今日はちび達を連れて街に買い物に来ていた。孤児院最年長の俺は、腰の悪い院長先生の代わりにこうして保護者役になることが多い。ちび達も成長して一人でおつかいも余裕である。可愛い弟妹の成長がとても嬉しい。じじくさいというツッコミは余計である。


「アシュ兄ちゃん、手芸屋で生地見てきてもいい?」


 この子はシーラ。引っ込み思案で人見知りが激しかったが、自分で作った服を売っているおかげでハキハキした子に成長した。せがまれて一緒にレース編みを習ったのはいい思い出だ。ちなみに、うちの稼ぎ頭である。

 

「あぁ、荷物持ちにアデルを連れてきな。アデル、頼んだぞー」

「任せとけ、アシュ! じゃ、行ってくるな~」


 護衛兼荷物持ちに行かせたのはアデル。孤児院一のヤンチャ坊主でいじめっ子だったが、すっかり頼りがいのある奴になった。軍に入りたいらしく、日々腕を磨いている。貴族と接する事も考慮して苦手なマナーも覚えたから、シーラの長い買い物に付き合うくらいの配慮は出来るだろう。


「アシュ兄、今月少し余裕あるから苗買ってきていい? 今から育てれば初夏に収穫できるから食費が浮く!」


 この守銭奴……いや、節約家はうちの経営担当のイェンス。領主様からの孤児院運営費をやりくりしては貯金している。数年後のリフォームを夢見ているそうだ。経営手腕は大人顔負けで、傾きかけた店を見事復活させたりもした。今では商店からも経営相談されているそうだ。インドア派だが自衛は出来るから一人で行かせても大丈夫だろう。


「ついでにハンナに頼まれてた食材も買ってくるよ。また後でね~」


 ハンナはうちの料理番。何を作らせても美味い。街にある食堂のメニュー開発を手伝ったりもしているそうだ。最近は、健康志向にと薬草にハマりだした。そのおかげで薬も作れるようになっていた。俺の次に年上なだけあって、世話焼きのしっかり者へと成長した。もはや孤児院のおかんである。


 城勤めの侍女になりたいと言っていたリンダは、先月からフェーンベルグ公爵邸で見習いを始めた。住み込みのためほとんど孤児院を卒業したようなものだが、休みの日は帰ってきて家事を手伝ってくれる。いずれフェーンベルグ家の御墨付きを貰えたらお城の侍女試験を受けに王都へ行くそうだ。


 手先が器用で物作りが得意なニックは、今日は留守番だ。うるさい俺達がいない隙に、院長先生のために手すりを作ると言っていた。装飾が美しい家具や小物を作っては売ったりもしている。シーラと同じく中々に稼いでいる。


 一人になった俺は、市場をぷらぷら歩く事にした。店主と客の会話、歩いている人の表情、商品の種類……様々なものに注意を払う。市場は絶好の情報源だ。当たり前の日常会話にも大事な情報が隠されていたりする。一応これも訓練の一環だ。


「昨日酔っぱらいが酒場で喧嘩しててよぉ」

「いらっしゃーい! 今日は魚がオススメだよ!」

「ねぇねぇ、新しく出来たカフェ行った? ケーキがすごく美味しいの!」


 あ、そのケーキはハンナが監修したやつだ。


「聞いた? 王都で貴族の子供が誘拐されたって」

「お母さーん、あれ欲しいー」

「この間さ、がらの悪い人がいたのよ。何だか怖いわ~」

「寄ってけ寄ってけー! 新鮮な野菜だぞ、」


 あの子供は無事保護されたけどなー。そんで犯人は逃亡中。がらの悪い奴か……少し気になるなぁ。


 途中、出来たてふかふかの蒸しパンを買い、市場を進む。この蒸しパンほのかに甘くて美味いんだよなー。


 ここフェーンベルグ公爵領は、優秀な領主様の統治のおかげであまり物騒な事件はない。それでも、大きい街なだけあって事件がないわけではない。悪い奴なんてどこにでも湧いて出るもんなので注意を払うには越したことがない。


「ん?」


 目を留めたのは道の隅に佇む子供だった。黒いローブで体をすっぽり覆っている。随分変わった格好だ。顔立ちからすれば女の子だろう。無表情のまま市場の雑踏を眺めている。


 格好からすると…旅人……? 親でも待ってるのか?


 何となく気になって屋台を覗くふりをしながら、その子を観察。しばらくしても親が来る気配はない。どうやら一人のようだ。何が気になるのか、じーっと市場を見つめていた。


「どーした、誰かとはぐれたのかー?」


 根っからの兄貴分体質のためか、小さい子が一人でいるとつい気になってしまい声をかけた。女の子はこちらを見るも無表情のまま。焦げ茶色の大きな瞳がじっと見上げてくる。


「あれ? 言葉……分かる?」

「…………(こくり)」


 あ、頷いた。感情が読めない子だなー。よく見ればローブもぼろぼろ、髪もボサボサ。まさか孤児……?


「誰かとはぐれたなら一緒に探すぞー?」

「…………(ふるふる)」

「んー? もしかして、一人で来たのか?」

「…………(こくり)」

「あれ。んじゃ、迷子ではない…? ちゃんと帰るとこあるのか?」

「…………(こくり)」

「うわ、悪い。余計なお世話だったなー」

「…………(こくり)」


 頷くんかいっ! 迷子扱いして悪かったな。


「悪い悪い、お詫びにこれやるよ。出来たてふっかふかで美味いぞー」


 先程買った蒸しパンを差し出すと無表情のまま受け取った。わずかに不思議そうな表情になったので、少しちぎって自分で食べてみせる事にした。こんな庶民的なものを食べたことがないのだろうか。


「こうやって…ちぎって食べてもいい。かぶりついてもいい。……うん、やっぱ出来たては美味い」

「…………」


 俺が食べたのを確認した後、女の子は蒸しパンをふにふにと触りだした。くるくる回しながら観察。くんくん匂いを嗅ぐ。手についたパンを舐める。あららら、随分警戒してんなー。


 それから、ようやく一口かじった。


「………………っ」


 無表情のままだがほんの少し目を見開いた。分かりにくい表情の変化だったが、伊達に人間観察はしていない。どうやらお気に召したようだ。はむはむと食べる仕草が小動物みたいで可愛い。


「一人なら路地裏には入るなよー? そんで暗くなる前にちゃんと帰るんだぞー」


 ぽんぽんと頭を撫でると無表情ながらもじっとこちらを見上げてきた。しばらくしてから、女の子はこくりと頷き人混みの中へと消えていった。


 うーん……不思議な子だった。



◆◆◆◆◆



 翌日、孤児院にルイス様とモーリスがやってきた。この二人が来るのはもう慣れたものである。ちび達は一緒に来た先生達とそれぞれ勉強をしている。

 

「ほい、これ。課題のやつです」

 

 ルイス様に書面を渡す。細々と書き込んだそれをモーリスも一緒になって覗き込んでいた。


「……へぇ、図面だけでよくここまで」

「おや、本当ですね。これは中々……ふむ……」


 ルイス様に出されていた課題とは『侵入経路と脱出経路を示す事』だ。渡されていたのはフェーンベルグ公爵邸の見取図。ルイス様の部屋まで『侵入』して無事『脱出』する方法を考えるというものだった。()()を集め、()()()()()()()()()()という事を考慮して課題に当たれという回りくどいアドバイス付き。


 いったい俺は何をさせられてんだろうか。普通、領主様の家に侵入しようなんて誰も思わないだろ。


「アシュトン、一応説明してくれるか?」

「へいへい。まず敷地内への侵入は、比較的使用人の数が減る昼。西側の大きな木は邸内から死角にあり庭師もあまり行かないエリアなんでそこを使う。建物内への侵入は、使用人達が会議をする22:00前後。公爵邸の人達は出会ったらまず勝てないから移動は慎重に。ルイス様の部屋からの脱出は、陽動と時間稼ぎに窓を開けてから隠し通路で裏門手前まで。あとは塀を飛び越えて終了」


 本当この課題はいやらしい。()()を集めろとは、そのまんま。見取図だけに囚われず、人の動きや邸内の特徴を探せということ。()()()()()()()()()()という事を考慮するとは、使用人達の動きをよりリアルに考慮しろという事。おかげで泥棒のように屋敷の情報を集めまくった。こんなのを一週間でやれとは悪魔か、このご子息様は。


「すごいな、隠し通路まで見つけたのか。案外いけるんじゃないか……よし、アシュトン。この方法でーーー」 

「しませんよっ!」


 試してみようとか言おうとしたな。何言い出すんだこの人。わくわくしながら言うんじゃねーよ。


「ルイス様、流石に公爵邸への侵入はまずいです。ここまで育てた貴重な人材が失われるのはもったいないです」

「そうか……それなら仕方ない」


 えっ……俺、死ぬ事前提? 何かさらりと公爵家の使用人の怖さを垣間見た気がすんだけど。


「それでは、次はここの侵入経路を考えてくれないか? 相手は六人前後。十分な武器を保有している。対して侵入する側は三人」


 そう言って一枚の見取図を渡された。二階建ての普通の家のようだ。リビングや寝室など人がいることを想定してマークが印されていた。


「あぁ、それと三人のうち動くのは一人だけで想定してくれ。もちろん六人全員制圧する方向でな」

「はぁ!? それって一対六ってこと!?」

「そうなるな。メインで動く一人はアシュトンの力量を基準にして構わない」


 ルイス様は挑発するようにニヤリと笑った。この顔は……難題を出して楽しんでやがるな。モーリスも楽しそうに笑っている。三年の付き合いでこの二人の性格はよーく把握済みだ。


「あぁ……はいはい、やってみますよ……ったく」

「提出は、三日後で。期待しているよ。なぁ、モーリス」

「ええ、アシュトンなら出来るでしょうね。とても楽しみです」


 ちっ! 本当この二人性格悪いな。

本編と違ってアシュトンの話し口調で描いております。

この方が、ルイスの腹黒さがよく分かるかなぁと。少年時代でもルイスはルイスです。


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