その2 ユキと知恵の樹
進めば進むほど不気味になっていく道を、それでも何気ない振りをしながら歩く。
「なんだってあんなとこにうさぎがいたのかしら」
話す相手もいないので、ユキは独り言をブツブツと呟く。
『ケッケッケ』
『ケタケタ、ケタケタ』
『ニッシッシ』
樹に近くなるにつれて、聞こえる笑い声も大きくなっていく。
「まぁ、顔まであるわ」
『ケタケタ』
「まるでハロウィンのカボチャみたい………笑うカボチャねぇ。不思議の国なら樹にいるのはチェシャ猫のはずなのに。私には案内人さえいないなんて……樹の実なら食べれるかしら?」
大胆にも果実に手を伸ばす。
『ちょっと待て!』
ユキに握られた実が悲鳴をあげる。
『よもや我らを食べようとは!大胆な!』
「……しゃべったわ!」
『なぜしゃべっらないと思った?』
「だって笑ってばかりだったじゃない?食べたらダメなの?」
『我らは食すためのものではない』
「じゃあなに?今さらたいしたことじゃ驚かないわ」
『我らは知恵の樹』
「ならなおさら食べなくっちゃ」
『話は最後まで聞かぬか!』
『ケタケタ、ケタケタ』
別の実が笑う。
「私疲れたわ」
朝は5時に起きて7時半には職場にいたのだ。それから1日クタクタになるまで働いた。
「何か悪いことした?なんだって私がこんな目にあわなきゃならないの?」
果実とは言え、ようやく出来た会話に、ユキの中の不満が爆発する。
「だいたいどこよ、ここ!!知恵の樹だって言うなら答えなさいよ!」
『ここはダイヤの国』
「ダイヤ?」
『国は合わせて4つ。そのうちの1つにすぎない』
「私は元の世界に帰りたいの。どうすれば帰れるの?」
たとえ辛い毎日でも、あの世界には両親や妹、家族がいるのだ。
『君はウサギだ。すでにこの世界の一部』
「うさぎ?私が?意味がわからないわ」
『進めばダイヤの城がある』
「そこに行けってこと?」
『可哀想なウサギよ。君は迷いこんでしまった』
「言われなくったってわかってるわ」
『君は女王に会わねばならぬ』
「その女王はどこにいるの?」
『………ケッケッケ』
「笑うなら引きちぎるわよ!」
『ケタケタ、ケタケタ』
果実はそれ以上は知らないとでも言うように笑うだけだ。
「いいわよ!わかったわよ!行けばいいんでしょう!」
どうせ今さら後戻りなんて出来ないのだ。