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7.マルティーナとお茶会・前

本日(5月25日)の更新、1/2


機会は待たなくても、直ぐにやって来た。

懲りずに女狐ことエリザベスは身の程知らずにもお茶会への誘いの手紙をくれた。


この国は、貴族制だ。

爵位により、序列が決まっている訳で、学生だろうとそれは同じ筈。

私を馬鹿にしているのか、それも分からない程、頭が足りないのか。

考えてもちっとも理解出来なかった。


お茶会に参加すると返事を出すと、場所と時間が指定された返事が返って来た。

学校内にある、庭園。其処は良く生徒がお茶会を開く場所で、眺めも良く、設備もきちんと整っている。


相変わらず、授業中以外はずっと誰かに見張られた数日間を過ごし、お茶会当日。

ちなみに、エリザベスは面の皮がとても厚く、怪我が治っても私の代わりにブロード家が用意した馬車にジェイコブと一緒に乗って登下校している。


私は、家から瞬間移動。

婚約破棄したら宮廷魔法使い目指そうかと思ってしまう。貴族の令嬢に生まれた以上、家の為に結婚せねばなるまいが。


話が逸れた。

私の悪い癖だが、治る気はしない。と言うか、治すつもりがないので仕方がない。


私は、庭園に付いていた。

まともにエリザベスと顔を合わせるのは初めてでは無いだろうか。


胸につけたブローチ、監視の瞳には魔石をセットしてある。

きな臭くなってきたら監視の瞳を使って記録保存をしていこう。


エルモ兄さんと共に検証した結果、魔石一つに、およそ一時間分記録できる。

それだけあれば十分だ。


戦場に私は向かう。


お菓子が並べられたテーブルに、五人の令嬢が揃っている。

私に気がつくと、翡翠の髪に群青色の瞳を持つ令嬢が席を立ち、私を歓迎した。

遠目に見た事がある。エリザベスだ。


「ようこそおいでくださいました。歓迎いたします、マルティーナ様」

「こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。エリザベス様」


ばちり、と見えない火花が散る。

これは戦いである。しかも、私は一人きりの。


アル兄さんに今日がお茶会の日だと伝えてはいるが、ワールヴォル家は喧嘩の準備の手助けはしても、本番は何もしない。

自分の力で勝ってこそ。


笑みを崩さぬまま、席に座り、用意された紅茶を飲む。

毒などが仕込まれても良いよう、解毒剤は準備している。逆に、私が毒を盛ったと言われない為にも。

エリザベスが自ら毒を仕込み、飲み下す可能性も勿論視野に入れている。もし誰かが毒にあたっても解毒剤を飲ませるつもりできた。


だが、毒などは仕込まれておらず、表面的には穏やかな時間が過ぎていく。


「マルティーナ様はいつもご友人に囲まれ、私など到底話しかけられませんから。今日お話できて嬉しいですわ」


にこにこと笑顔でエリザベスは言うが、私に友達など居ない。

囲まれて居ると言うのは語弊がある。監視されて居るだけだ。しかも、目の前のこの女狐が差し向けている。

本当、どちらが腹黒いのか。


「まぁ、気にせずとも話しかけてくだされば宜しかったのに」

「そんな身の程知らずな事は出来ませんわ」

「今更、気にしませんわよ」


今更、と言う言葉にエリザベスはぴくりと眉を釣り上げた。

表情を取り繕うのは貴族として生きていく為に必要不可欠である。

私は鉄仮面の様に完璧な笑顔を貼り付けたまま。


「ごめんなさい、何か気に触る事言ってしまったかしら」

「い、いえ…」


わざとらしく手を口元に当て、眉尻を下げる。エリザベスは一瞬こちらを睨んだが、引きつった笑みを浮かべた。

心情が顔に出過ぎだ。男爵家と言えど、貴族。これでは足を掬われて終わるだろう。


当たり障りのない会話をしている中でも、一々エリザベスは私に突っ掛かってくる。


「マルティーナ様はAクラスでしたわよね。流石伯爵家のご令嬢ですわ。さぞ幼少期から素晴らしい教育を受けてこられたのでしょうね」

「血の滲む様な努力を致しましたわ。何しろ兄が優秀でしてね。比べられるもので」

「まぁ、それは大変ですわ。お兄様方は騎士として活躍されているとか」

「お陰様で」


あくまでも、私の努力は認めるつもりが無いらしい。

成績がいいのは、金を掛けているから。兄の方が優秀なのだろうと遠回しに突いてくる。

兄達が優秀なのは間違いないので、遠慮せず誇らせて頂く。兄達も努力をしてきた。それこそ、血反吐を吐く程。


紅茶を飲み干し、お菓子に手を伸ばす。

私は見た目こそキツイが、甘いものが好きだ。苦いものや辛いものが好きそうだとよく言われるが。


「あら、マルティーナ様のカップが空ですわね。注がせて頂きます」

「いえ、自分でやります」

「そんな!伯爵家のご令嬢ですもの、そんな事させる訳にはいきませんわ!」


演技かかった大声でエリザベスはマルティーナの静止を聞かず、近くにいた侍女を捕まえ、ティーポットを用意させる。

そして、ティーポットを手に近付いてくるエリザベス。

嫌な予感を瞬時に察知した私は、監視の瞳には魔力を流し、作動させる。

今から一時間分は場面の保存が出来る。


ずんずんと近付いてくるエリザベスは、少し俯き、ニヤリと口角を上げた。見えないと思っているのだろうが、丸見えである。

後ろに椅子を引き、少し距離を取った瞬間、悲痛な叫び声と共に、ティーポットが宙を舞う。


そう、熱湯が入ったティーポットが、私目掛けて、飛んで来た。


余りにもお粗末な展開にうっかり宙を舞うティーポットを眺めてしまったが、熱さと痛み、陶器の砕け散る音と悲鳴で我に返る。


転けたフリをしたエリザベスはティーポットを私にぶん投げ、テーブルクロスを掴んで倒れ込んだ。

私は熱湯を左半身に被り、雪崩れてきたテーブル上のティーカップやらお菓子やらにも襲われていた。


「ひ、ひどいですわ…!マルティーナ様!足を引っ掛けるなんて!」

「ご自分で転けたのでしょう?」

「いいえ!マルティーナ様ですわ!私が男爵家の娘だから、お茶会を台無しにしにきたんでしょう!」


お茶会を台無しにするなら、自分に被害が出ない様にしますが。

この女狐は何を言っているのだろうか。理解出来ずに首を傾げると、エリザベスは令嬢とは思えない恐ろしい表情で私を睨み付けた。


そもそも、私を呼んでおいて罪をなすりつけ、あまつさえ熱湯をかけておいて謝罪もないのは何事か。

まずは非礼を詫び怪我がないか確認してから糾弾すれば心証は良いものを。


本当に自分のことしか考えていない。

私の面子を潰すことしか考えていないのが丸見えである。


みっともなく地面に倒れ込んだまま私に憤慨するエリザベスに同調する様に、そこにいた令嬢達もやんややんやと私を責め立てる。


映像を撮られているとも知らず。

後々証拠としてこの映像を見せた時、どんな反応をするのだろう。


私は毅然と笑んで見せる。

紅茶やお菓子に塗れ、汚れた服装で。


さて、どちらが悪役に見えるだろう。


筆が乗って長くなったのでお茶会は二つに話を分けました。

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