4.マルティーナと家族会議
帰宅するや否や、私は居間に呼ばれた。
荷物を自室に置き、居間に向かうと、家族が勢揃いしている。
あぁ、嫌な予感がする。
私が席に着くのを確認し、まず口を開いたのは父だった。
「最近瞬間移動で帰ってきているだろう。ジェイコブと喧嘩をしたのか?」
「えぇ、馬車に乗せてくれませんの」
侍女が置いてくれた紅茶を一口飲む。
父は険しい顔になり、私を見つめた。
ジェイコブのしている事は、貴族として、婚約者として恥ずべき事である。
貴族令嬢は、一人で歩くものではない。いつ何処で危険に巻き込まれるか分からないからだ。
せめて代わりの馬車を用意するなり、護衛を充てがうべきだった。
「なぜティナを馬車に乗せない?」
「他の女に懸想して、私がその女を怪我させたからだと主張しております」
「怪我させたのか?」
「いいえ、そんな時間の無駄するわけありません」
婚約者が居るのに、他の女に手を出すなど、ワールヴォル家から婚約破棄されてもおかしくない状況である。
実際、ワールヴォル家は伯爵で、ブロード家は子爵。
私はジェイコブと結婚すれば子爵に下ることにはなるが、今はまだ私は伯爵令嬢であり、階級は上だ。
「ジェイコブは昔からティナを毛嫌いしてはいたが…、この婚約の意味を理解していないのか?」
「確実にそうでしょう。でなければこんな馬鹿なことしませんもの」
父は頭を抱えてしまった。
この婚約はワールヴォル家とブロード家のつながりを深くする為のもので、仲のいい互いの両親が決めたものだ。
ずっと静観していた四男のアルノルド、アル兄さんが手を挙げる。
アル兄さんは貴族学園の三年生で、もしかしたら私の噂は学年を超えて耳に挟んでいるのかも知れない。
「一年の噂は三年にも届いてる。なんでもティナが嫉妬に狂って婚約者に愛されている令嬢を害してるってね。俺は聞いた時笑っちゃった」
「ティナ自体、ジェイコブに興味ないよな。喧嘩相手だしな」
アル兄さんの言葉に返事を返したのは、三男のシルヴィオ、ヴィオ兄さんだ。
ヴィオ兄さんは去年貴族学園を卒業し、今は騎士団に入っている。
歳の近いアル兄さんとヴィオ兄さんは、私がジェイコブに馬鹿にされない為に躍起になっていたのを応援し、手助けしてくれた。
長男のダンテ、ダン兄さんと次男のエルモ兄さんは腕を組んで黙っている。
二人とも今は騎士団で活躍している。
ちなみに父は第二騎士団の団長をしている。
第一夫人のアメリア、アメリア母様がおずおずと口を開く。
「ティナは、どうして反撃しないのです…?諦めてしまっているの?」
私の母親は第二夫人のカーラである。
つまり、アメリア母様とは血の繋がりは無い。私の実母は産後に命を落としてしまったが、赤子の私を育ててくれたのは他ならぬアメリア母様だ。
兄様達はアメリア母様の子で、血は半分しか繋がっていない。
だが、アメリア母様に可愛がられ、兄達にはよく遊んでもらった。
アメリア母様はワールヴォル家に嫁いできたので、赤毛に緑目だ。
ワールヴォル家は銀髪に色素の薄い青の瞳を持つ。父や兄達、私もそうだ。
この部屋の中で異なる色彩を持つアメリア母様は目立つことこの上ない。
色濃い色彩にそぐわず、性格は控えめだが。
私はアメリア母様ににこりと微笑む。
「諦めてませんわ。反撃のチャンスを窺ってますの!それで、相談があるのですけれども」
「聞かせてみろ」
ずっとだんまりを決め込んでいたダン兄さんが身を乗り出す。
なんだかんだ、私を一番可愛がっているのはダン兄さんだ。
「さっき妖精界に行って、記憶の瞳を見せてもらいました。似た様なものが作れたら、証拠集めが簡単だと思いまして」
「映像で残すのか。確かに文字だと偽証を疑われるな」
ダン兄さんは、私を褒めたくて仕方ないらしい。頭を撫でたそうに手がわきわきしている。
後で思う存分撫でてもらうことにしよう。
「構造は理解できたのか?素材は何を使う。モンスターの瞳か?」
「そうですね、知能の高いモンスターの瞳と魔石があれば」
エルモ兄さんも何故か乗り気になっているらしく、私に聞いてくる。
この感じだとエルモ兄さんが調達してくれるか、もしくは一緒に討伐しに行ってくれそうだ。
エルモ兄さんは騎士だが、魔導士としても名を知られている。
学生時代に、良く魔導具を作っていた。なんでも、同じクラスの魔導士を目指す友人と競っていたと聞いた。
「そう言えばドラゴンが最近出るらしいな。狩りに行くか」
「個人的に行って良いものなんですか?」
「片目貰うだけだ」
ダン兄さんは立ち上がり、脇に置いていた剣を腰に佩いた。
頭を抱えていた父と、心配そうにこちらを見つめるアメリア母様を置いて、私たち五人兄妹は早速ドラゴンが出ると言う森に向かう。
もうお分かりだろうが、ワールヴォル家の五人兄妹は、とても脳筋である。
この兄妹は放置してると暴れまくりそうだなって思いました。