1.マルティーナの独白
まず、私の話をさせて頂こう。
マルティーナ・ワールヴォル、伯爵家の五人兄妹の末っ子である。
上に四人の兄がおり、物心ついた頃から剣を握り、魔法を発動させ、馬に乗り、モンスターを倒して遊んでいた。
兄達に令嬢扱いをされ始めたのは十歳からだった。
互いの両親立ち会いの元、婚約者のジェイコブ・ブロードと対面してから。
貴族としてのマナーは教え込まれていたが、兄の影響でマルティーナは何処か男らしい振る舞いをしていた。
ジェイコブとの対面の際、彼は何とも嫌そうな顔をし、マルティーナを叱責した。
自分の婚約者として、恥ずかしくない振る舞いをして欲しい。
今のままのマルティーナを横に置きたくはない。
そう彼は言った。
マルティーナの両親は、娘が令嬢らしくない自覚はあったので、大人しくマルティーナに令嬢らしい振る舞いを求めた。
マルティーナに影響を与えた兄達にも、マルティーナを令嬢扱いする様にと口酸っぱくした。
急に令嬢になれと言われても、成れない。
騎士の振る舞いを教えてくれた兄達が突然自分を令嬢扱いするもので、とても怖かった記憶がある。
その後もマルティーナは隠れて剣と魔法の鍛錬は行ったし、兄達が騎士を目指している様子を陰から伺っていた。
お陰で、令嬢として振る舞う事を覚えた裏で、騎士としての腕も上げた。
何処に出しても恥ずかしくない令嬢に仕上がったとは思っていたが、ジェイコブはいくら頑張れど、褒めてくれることは無かった。
ジェイコブがどれだけ努力しようと、私が邪魔だったからだ。
剣は嗜む程度だと言った所で、ジェイコブと手合わせをすれば圧勝。
魔力の少ないジェイコブは威力の大きな魔法を出せないが、私はぽんぽん魔法を繰り出す。
他にもあるが、羅列すれば長くなるので割愛させて頂く。
私は、負けず嫌いである。
ジェイコブに馬鹿にされて言われっぱなしなのは性に合わなかった。
寝食を犠牲にしつつ、努力に努力を重ねた結果なのだから、完膚なきまでに叩き潰した。
そのお陰で、婚約者に嫌われるのを加速させたが、後悔はしていない。
本当に悔しいのであれば、ジェイコブも努力すべきだ。
ジェイコブが努力していないわけではないのは分かっているが、私は天才でも何でもない。
彼も幼い頃から剣を握り、魔法を使っていたと聞く。
私に会うまでは、まだ見ぬ婚約者を守る為に強くなるのだと鍛錬に精を出していたと。
彼の中では、か弱く美しい令嬢が婚約者だと思っていたのだろう。
実際に会って、そこにいたのは、気が強くキツイ顔の令嬢。
歳を重ねるにつれ、ジェイコブとの仲は悪くなり、貴族学園に入る頃には目も合わせてくれなくなった。
私は敵対心などは欠片も持ち合わせていないのにも関わらず。
まるで親の仇かの様に私を毛嫌いする。
貴族学園に入ってから、理想の令嬢に出会った衝撃は凄かったのだろう。
そして、その理想が自分に振り返ってくれたことも。
お陰で私は針の筵。
か弱く美しい令嬢を嫉妬に身を任せ虐める、気の強く顔のキツい令嬢だと思われている。
どちらが強かなんて、考えずとも分かる。
人を掌で転がし、被害者面でいけしゃあしゃあと嘯くあの令嬢こそ図太いだろう。
私は負けるつもりなど全く無い。
どう反撃するべきか。
ワールヴォル家の家訓は『売られた喧嘩も降ってくる喧嘩も負けてはいけない』だ。
家訓に則り、マルティーナは負けるつもりは無い。
間違いなく、これは喧嘩だ。
持てる力を総動員し、迎え撃つしか無いだろう。
血の気が強いヒロインって何しでかすか分からないから可愛いですよね。