プロローグ
婚約破棄もの書いてみたくて、衝動を抑えきれず書き始めました。
私には、婚約者がいる。
親同士が決めた婚約であり、家の繋がりを重視したものである。
幼い頃から婚約者と仲を深めてはいたが、彼には嫌われている自覚はあった。
そんな関係性のまま、婚約者に好かれる努力を怠っていた私はまんまと女狐に婚約者をかっさらわれた。
貴族学校で、運命の出会いを果たしたらしい婚約者と令嬢は、私の目を盗み愛を育む。
嫉妬に狂った私、マルティーナは、執拗に陰湿な虐めを繰り広げている。
ーーーとの噂が真しやかに学園内で蔓延している。
だが、丁度良かった。
幸いにも私は彼を愛してはいない。
寧ろ婚約破棄をし、辺境に住む貴族のもとにでも輿入れしたかった。
だって、息の詰まるような貴婦人なんて向いていない。
煌びやかなドレスを着て、高いヒールを鳴らし、宝石で固める。そんな生活これっぽっちも興味がない。
剣を振り、馬で平野を駆け、モンスターと遭遇すれば魔法と剣を持って討伐して。
そんな生活がしたい。それを余儀なくされる生活を送りたい。
さて、もうお分かりの事だろうが、私、マルティーナ・ワールヴォルは普通の令嬢ではない。
兄に囲まれ育った私は、遊びの一環で剣を振り、楽しいと魔法をぶつけ合い、競争を楽しむ為に馬に乗り、野山に散策しに行きモンスターを屠っていた。
騎士を多く輩出するワールヴォル家に産まれ落ちた私は、いつしかそこいらの騎士と並び立てる程の力を手に入れた。
婚約者、ジェイコブ・ブロードは子爵家の次男である。彼の家は文官になる者が多い。
政治的権力はあまり無く、後ろ盾の弱いジェイコブに伯爵家の娘を嫁がせ、家の繋がりを持たせる事で後押しする。
よくある話だ。
自分よりも腕っ節の強い女が婚約者だと言うのは、男としての矜持が許さなかったのだろう。
慎ましさが無いと怒鳴り、品が無いと詰り、頭が悪いと罵倒された。
だが、彼が婚約破棄を言い出さなかったのは、親からの圧力があったからだ。
本当は婚約破棄したくて堪らないだろうに、顔を真っ赤にしてマルティーナの言動に一々難癖をつける。
面倒なので文句を言われる度に直し、先回りして勉学に励んだ。
お陰でマナーは一通り、身体に染み込んでいる。
とは言え、婚約者の目の届かない場所では剣を振るい、魔法の鍛錬も続けた。
何処に出しても恥ずかしくない令嬢にはなれたものの、ジェイコブがマルティーナに愛を囁く事は無かった。
マルティーナが頑張れば頑張るほど、どうも彼の逆鱗に触れるらしかった。
そして、貴族学園で出会った令嬢、エリザベス・ランティーヌと衝撃的な出逢いを果たした婚約者は恋に落ちた。
恋は盲目とはよく言ったもので、エリザベスの発言は、白を黒とし、黒を白とした。
つまり、マルティーナに虐められたとエリザベスが泣きつけば事実がなくともそうなるし、マルティーナに物を隠されたと困っていればマルティーナが悪いと罵倒される。
全く、身に覚えが無い。
マルティーナは学園内での茶会はよくすっぽかすし、友人と呼べるべき存在も皆無で基本的に図書室に入り浸っている。
そもそも、エリザベスと関わる機会がないのだ。
だが、丁度良い。
マルティーナは婚約破棄をして、より理想の婚約をしたい。
この機会を存分に利用させてもらい、婚約破棄をさせて貰おう。
まずは敵のことを知らなければならない。
マルティーナは、ほくそ笑んだ。
婚約破棄の絶好のチャンスが訪れたと。
マルティーナは最悪力でねじ伏せればいいやくらいにしか思ってないです。