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僕の夢の話  作者: 夏川 流美
2/4

――2――

 家でのんびりジュースを呷りつつ、テレビを見ていた。昼時は面白い番組がやっていないので、点いているのは単なるニュースだ。芸能人の不倫疑惑だとか、有名な飯屋の紹介だとかを間に挟みつつ、煽り運転、児童虐待、殺害事件など…………様々な毛色のニュースが流れていく。

 そう、別に見たいニュースがあったわけじゃない。くだらない番組を見るくらいなら、ニュースを見たほうがマシなだけ。だから。


「――関連があるとして、警察は捜査を進めています」


 幼馴染だった人が死んだと知って、僕は動揺を抑えられなかった。鼓動が早くなっていく。まさか、と笑い飛ばしたい口角は上がらない。指先がカタカタと震える。上手く力が入らない。

 つい一ヶ月前だろうか。彼女のSNSで、誕生日を祝ったのは。高校から進路が分かれ、頻繁に話す仲ではなかった。それでも遊びに誘われたら行くし、遊びに誘ったら来てくれた。程よい距離感の中で、お互いの道を歩いていたというのに。


 信じられない気持ちで、彼女のSNSを見に行く。最新の呟きは数時間前。しかしそれを呟いたのは彼女の姉のようで、妹が亡くなりました、との内容を丁寧に、寂しげに、悔しげに書かれていた。

 認めたくないと思いながらも、ぽたぽたと目から大粒の涙が落ちていく。あっという間に視界は歪みきって、漏れ出る嗚咽を止めることは出来なかった。

 最後に送ったメッセージを見返す。この時、もっと話していれば良かった。この時、どこか遊びに誘えば良かった。そんな些細なことでも、何か違かったら彼女が死ぬことは無かったんじゃないかと、後悔の念が押し寄せる。もう遅いなんてことは、分かっていた。*


 せめて葬式の日程を聞こうと思い、メッセージを送る。しかし実際に送信されたメッセージはどういうことか「今から遊びに行こうよ」の一文だった。相手に失礼極まりない上、そもそもこんなこと送ろうなんて考えていなかった。ちゃんと日程聞こうと思ってメッセージを送ったはずなのに、何故こんな文が送信されてしまったのだろうか。

 早く取り消して、聞き直さなければ。でも僕の指先は固く動かず、取り消す前に相手から返信が来てしまった。


「突然なに?笑じゃあ駅前集合ね!」


 拍子抜け…………どころじゃない。死んでしまった人におかしなメッセージを送ったのに、咎められない。更には生前の彼女のような……いや、彼女そのままの言葉遣いで返信が来た。僕は何も返信はせずに、SNSを閉じた。

 頭が回っていない気がする。どこかぼんやりと、僕の行動を違うところから見ているようだ。それでも僕はただ、駅前に行くために準備を進めた。



――駅前に着いた。大勢の足音と、発車の音楽、電車が重たそうに動き出す音を耳に、再度彼女のSNSを開く。特に新しいメッセージは来ておらず、家を出る前に見た陽気なメッセージが残っていた。

 本当に、彼女は来るのだろうか。ニュースにもなって、SNSでは死んでいることを公開していたのに。バグで送られてきたメッセージ、なんてことはないだろうか。ニュースで読み上げられた彼女の名前を思い出し、涙ぐむ。一人で勝手に涙目になっているせいか、何人もの通行人にじろじろと見られたが、僕はそんなこと気にしている余裕はなかった。

 もしニュースもSNSも、すべて何かの間違いで彼女がここに来てくれたら、どれほど嬉しいことか。そう、考えていたときだった。


「おまたせ、待ったー?」


 後ろから聞き覚えのある声で話しかけられた。声の主と目を合わせると、そこには紛れもなく幼馴染の彼女が笑って立っていた。

 来てくれた。生きていたんだ。止まっていた涙が溢れ出す。困惑して慰めてくれる彼女に「何でもない」と答えて、僕は思う。


 あぁ、良かった。きっとあれは夢だったんだ。

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