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四季怪々 僕らと黒い噂達  作者: 島倉大大主
Chapter1
6/57

5:百合ちゃん先生

 僕達の担任、百合ちゃん先生は渾名と百万年光年離れた存在です。


 いつも紫のジャージを着て、お化粧もしてません。本人曰く、そんなもんせずとも美人は美人、らしいのです。確かに美人です。小学生の目から見てもスタイル抜群です。でも髪なんかテキトーに後ろで束ねているだけだし、学校の外であっても、いつもと同じ紫ジャージで、私服を持ってないんじゃないかという噂が立ってたりします。それでいて運動神経はとんでもない感じで、サッカーボールを蹴っ飛ばすと信じられないかもしれませんが、三階建ての校舎を飛び越えます。

 最も、百合ちゃん先生が言うには、先生の先生は更にすごい人で、蹴ったボールが空に吸い込まれて落ちてこなかったそうです。誰も信じてないですが、今となっては、多分そう言う事もあると思えます。


 まあ、そんな先生に朝の会の前に呼ばれ、放課後ちょっと面貸せよ、とヤンキー漫画みたいなことを言われたわけですよ。あっというまにクラスメートから、何やったの? と質問攻めです。

 僕は、色々と、と言葉を濁していたんですが、いつの間にやらみんなの質問が、一体いつからその番組は見れるんだ云々に変化。僕としましては、まだオープニングもできてない。昨日始めたばかりだしと同じ説明を何回も何回もする羽目になりました。テレビで質問攻めにされる大臣の気持ちがなんとなく判りました。


 放課後になり、帰りの会が始まると、クラスメートの一人が手を上げました。

 百合ちゃん先生が名前を呼ぶ前に、彼は立ち上がると『僕達も番組を作りたいです』と発言。クラス大いに沸き立つ――というね。僕の斜め後ろに座ってる委員長を見ると、しれっとした顔でおー、とかそうだそうだ、とか煽ってます。

 まあ、あれですよ、委員長なりの策略だったわけです。先生が僕達に許可を出さざるを得ない状況を作ろうとしたわけです。

 ただ、ちょいと盛り上がりすぎてしまった。

 余談ですが、後日この話を校長先生が聞いて面白がり――まあそれだけじゃないんでしょうけど――ともかくPTAを巻き込んで学校番組が動画配信されるようになるわけですが、委員長はえらいことになったわね~と、どこまでも他人事でした。

 実際この後、僕達そんな事を気にしているどころじゃなくなっちゃったんですけどね。


 まあ、ともかく、狂乱の教室は百合ちゃん先生の『やかましいっ』という弩ストレートな一喝で鎮静化。その件は職員会議にかける、で、オッサンと委員長は面貸せ、という感じになりました。あ、繰り返しますが、本当は名前でちゃんと呼んでますからね。

「さて、ブツを見せてもらおうか」

 職員室にて教職員とは一体? という台詞を発する百合ちゃん先生にUSBメモリを渡します。中身は例の『謎宇宙』と『空のマーク』です。時間を置いて、しかもパソコン越しに観ると、出来の良いCGっぽく見えました。

 百合ちゃん先生はすぐにPCのスイッチを切ると、僕にメモリを返しました。そのまま椅子の上に胡坐をかくと、くるくる回り始めました。無言でくるくる。一分二分と時間が経ち、僕と委員長は顔を見合わせました。


「百合ちゃんせんせ~、お茶どうですか~」

 ほわっとした明るい声と共に、隣のクラスの担任、自称ひなたぼっこ大好き、かりん先生がお茶を三杯もって、ほわほわオーラを出しつつ、やってきました。

「どうしたんですか~、回っちゃって~」

「かりん、あんたのクラス、あれどうなってる?」

 百合ちゃん先生はくるくる回り続けています。かりん先生は指を下唇に当てて、あれってなに~って感じでほわ~っとたっぷり十秒くらい考えて閃いたって顔をしました。

「あ! お化けの話ね? 最近多いのよね~」

「はぁ?」

 委員長と僕が同時に声を上げました。

「なんですか、それ? お化けって――この学校に出るんですか?」

「いや、最近お化けを見たっていう子が多くてな。先生たちの間でも何か対策を立てた方が良いんじゃねえかって話になって――」

「あらあら、そこら辺で。ね?」

 百合ちゃん先生の言葉をぴしゃりと冷たい声で止めた、かりん先生。しばらく僕らをじっと見た後、ゆっくりと手を上げ、がっ! と回り続ける百合ちゃん先生の頭を鷲掴みにして止めました。

「百合ちゃん先生、一体全体、なんでこんな話になっているんですかあ? 説明ぷりーず」

「いてえって、ちゃんと話すよ」

 委員長がちょっと僕の方に体を近づけてきました。僕も同じく委員長の方に体を近づけました。かりん先生、微笑んでるのに目が完全に笑っていなかったんです。


「おう、さっきのUSBもっかい貸して」

 百合ちゃん先生はかりん先生に動画を見せました。途端にかりん先生がつかつかと校長室の方に歩いて行ってしまいました。百合ちゃん先生はその後ろ姿が消えると、溜息をつきました。

「……先に言っとくけどさ、動画はアップする前にあたしんとこに持ってきて。基本的に他の子供が真似するような部分、まあ、工場に無断で入るとかそういう映像の公開は許可できないから」

 僕はあれ? と思いました。危ない場所に行った映像を公開するのはダメ。でも、『行くこと自体』はダメとは言わなかったんです。委員長を見ると、小さく頭を振りました。そこはツッコむなってことだと思いましたし、後で聞いたらその通りでした。

「つまり、その――番組は作っていいってことですか?」

「ああ。ただし必ず保護者とあたしのチェックを受ける事。それと下ネタとか絶対ダメだからな? わかってるか? あと面白くなさ過ぎたらボツな」

 わはははは、と豪快に笑う百合ちゃん先生。委員長が大変だなあ、と他人事のように呟くと、いや、お前の腕次第だぞ、と百合ちゃん先生。

「へ?」

「いや、だってこいつは進行役だもの、ボケとかツッコミとか、全部お前の――」

「あたしはカメラマンですから!」

 わははは、そういうところガンガン出してけよ面白いから! と百合ちゃん先生。僕も深く頷きます。すかさず委員長のチョップ。

「さて、話は終わりだ。これから職員会議が――」

「せんせ~、校長室にきてくださ~い」

 かりん先生のほわ~んとした声で、その場はお開きになりました。百合ちゃん先生は立ち上がると、僕の頭を二度三度とポンポンと叩きました。

「まあ、がんばれ。ただし無理はするな。何かあったらあたしに相談。OK?」


 その時の百合ちゃん先生の顔がやけに優しくて、昨日、あれだけ色々体験したけど割と平気だった僕なのに、凄くゾッとして鳥肌が立ったのでした。

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