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四季怪々 僕らと黒い噂達  作者: 島倉大大主
Final Chapter
56/57

5:かくて今に至ります

 寒い、と僕は目を覚ましました。すぐに頭痛と脱力感みたいな物が襲ってきて、しばらくあうあう言いましたが、なんとか回復。スマホを出して確認すると、そろそろ午後三時。結構時間が経っています。で、周囲を観察すると、どうやら自分が車ごと雪に埋められているという事に気がつきました。

 いや、外に出れないので、実際はどうかは判りませんよ?

 でも、まあ、窓の外がみっちり雪だし、寒いし、車は縦に傾いてるしね。こりゃ、あの烏みたく埋められてるな、と。

 となると、橋の欄干の下ってわけにはいかないわけで、はて自分はどこにいるのか、と。 

 多分ですが、あの橋を渡ってしばらく行ったところで車に乗り、そのまま来た方向に車は進んだから、感触としては橋の上あたりで捕まった、とか?

 僕はその旨、メールにて一斉送信しました。ですが、現在圏外ですので、返信が来たか等々は、まーったく判らず、というか、車ごとあの烏の死骸みたく埋められているわけだから、掘り出すことができないんじゃないかと思うわけです。


 ……うーん、これは詰んだか。


 ともかく観察ですね。車のキーは射しっぱなしになってますが、捻っても何も反応がありません。仕方なく、血でガビガビのシートに肘をつき、運転席の窓を見ますが、血がべっとりとついているのに、きっちり閉まっています。エンジンが止まってるのに、自動で窓は閉まるわけはない、と思うので、『歩むもの』がやったんでしょう。

 僕はキッチリと『密閉保存』されてるわけですね。几帳面なやつです。

 あいつが一体何の為に雪の中に保存するのか、それを知った所で、ここから出れるとは思えませんから、今は置いておきましょう。とにかく窓を割ることができれば、雪を掘って脱出できるかもしれません。

 と、いうわけで物色タイム。が、あの馬鹿野郎は車の中を綺麗にしておくっていう車乗りの鑑みたいな奴らしく、見つかったのは発煙筒やら車検証やらで、役に立ちそうにありません。発煙筒でワンチャン、ガラスを焼いてみたい衝動に駆られますが、雪で密閉されていますから、焼き切れなかったら窒息してしまうかもしれませんから却下です。

 後のシートを剥してみようと押したり引いたりしてみましたが、これも駄目。

 では、と自分の持ち物をチェック。ポットは、『歩むもの』にお茶をかけた時に落としてしまってありません。ポケットには家の鍵と小銭が三百十五円。小銭とか家の鍵を指に挟んで、窓を叩いてみますが、傷がつくだけで割れる気配は無し。しからば、とシートベルトの金具を振り回してぶつけてみますが、まったく同じ。ええい、ならば僕の肉体直々に、と腕に覚えのない小五のキックやパンチが窓に炸裂しますが、痛いだけでした。シートを掴んで両足でガンガンやるも、まったくダメダメのダメ。ってか、外の雪の所為でなんか強度が上がってるような……。


 かくて三十分ほど色々バタバタした僕は、カメラに向かって、どうもこんにちは、と遺言ビデオを作成することになり――やった! 僕は僕に追いついたぞ! いや、長かったなあ。一時間半近く喋ってるよ……。


 さて、ビデオのバッテリーも残り十パーセントを切りました。寒さも半端ないです。服の濡れてた部分がパリパリになってるってことは、これ、中の温度がもうマイナスいってるんでしょうかね?

 はあ、参った。

 この場合泣き叫んで、死にたくないとか言った方が良いんですかね? どうも、こう、動かずにじっと座ってるのが気持ち良いと言いますか――うーん、喋ることが無くなった途端に、意識がやばいな。やっぱり家でDVD見てるべきだったかな。

 まあ、あれですな、お約束の、みんなにお礼というやつを言っておきますか……ああ、成程ね。これ結構恥ずかしいんだ。ってか、仮に僕が生還した場合、この遺言とかアリガトウメッセージはとんでもない破壊力を持っちゃうわけで、どうするかな……うーん、委員長なら何て言いますかね? あー、やばい。マジで眠くなってき……ん? 

 なんか音が――アレが戻ってきた、のか? なんか揺れてる! あー、もう、くっそ! 武器、武器は――


 ああ、窓に! 窓に!!

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