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四季怪々 僕らと黒い噂達  作者: 島倉大大主
Chapter4
44/57

1:報せ

 今でも不思議に思います。


 幾ら忙しかったとはいえ、幾らああいう事の後で気が抜けていたとはいえ、僕が委員長の事をまるで気にかけないで一月過ごしてしまうなんてことがあるだろうか、と。

 でも、実際には、僕は八月中に委員長と何度か遊んだりダベったりしているのに、委員長が何を目的としていたかをすっかりと忘れてしまっていたのです。


 その報せは新学期が始まって一週間ちょっと経った、九月十三日の夕方に飛び込んできました。


 その日は昼ごろに、ばーちゃんが延び延びになっていた『占いマシーン』をアップしました。今まで何度か試すも、不具合が出てアップロードに失敗したり、データが飛んだりと、所謂『呪われた回』だったのですが、『あの屋敷』の編集がようやく終わり、屋敷の管理人さんからすぐに掲載許可が出たので、ついでにアップしてみるか、と試したらあっさりと成功。ばーちゃんは、喜んだものの、一服している間に妙な不安に襲われたそうです。

 なんでいきなり成功したんだ?

 その疑問は僕が帰宅した瞬間に書き込まれたコメントで氷解したそうです。

 僕は靴を脱ぐ間もなく大声で呼ばれ、慌ててばーちゃんの部屋に行くと、ばーちゃんはモニターを指差しています。


 ――(くだん)の予言――


 そんな単語でコメント欄が溢れかえっています。くだん? と僕がばーちゃんに聞きます。

 なんじゃ、そりゃ?

「くだん、ってのは予言をする化け物だよ。牛の頭をした女性で、とんでもない事が起きる時にこの世に生を受け、予言をして死んでいく――だったかな?」

 牛――女。ああ、占いマシーンの電飾のあれか。

「それだけじゃない。あんたが委員長ちゃんと占いマシーンで出したあの紙、あれまだ持ってるかい?」


 ギョッとしました。


 本当にあの時あの瞬間まで、あの紙の事をすっかり忘れていたのです。

 僕は立ちあがると、机の引き出しを探し始めました。紙はすぐに見つかりました。なのに、僕は猛烈なある感情に襲われていたのです。


 ――遅すぎた――


 ばーちゃんは紙を二枚に並べると、下の擦れた文字を指さしました。

「コメント欄に、ほら! この文字を右から交互に読んで、次は左に交互に――」


『ねがいはかなうでしょう。た――ね――け――の――なら』

『ねがいはかなうでしょう。ふ――す――に――る――れ』


『た――す――け――る――なら――』

『ふ――ね――に――の――れ』


「助けるなら……船に乗れ」

 僕とばーちゃんは顔を見合わせました。

 助ける? 誰を……助ける? そんなもの、決まって――

 僕が行動を起こす前に、ばーちゃんがスマホを取り出して電話をかけました。委員長の家です。十秒コールして、僕を見ます。

「帰りは一緒だった?」

「い、いや! 今日は、風邪で休みって百合ちゃん先生が――」

 僕は言い終わらないうちに玄関に走りました。ばーちゃんがすぐに別の所に電話をかけるのがちらりと目に映りました。


 家を飛び出して、まだ暑さの残る夕方の町を走ります。

 通行人も、道路を走る車も、空を飛びまわる烏達も、全てがゆっくりに思える中、僕は精一杯に走るのですが、悪い夢の中のようにちっとも速く走れません。汗が吹き出し、耳の奥でどくどくと血管が収縮し、食いしばった口の端から涎が後方へ飛んでいきます。

 委員長行きつけのスーパーの駐車場を横切り、例の鉄柵にやっぱり紙がいっぱい結ばれてるのをちらりと見つつ、スロープを転がるように下ります。上がってくる自転車のおばさんに悲鳴を上げさせ、ごめんなさいと喘ぐように言って、僕はもう駄目と判っているのに、何とかなってくれ、と走り続けました。

 委員長の家の前に救急車が止まっているのが見えました。

 僕はそれでも、走って走って、そして――聞いた話では、委員長が担架で乗せられる正にその時、救急隊員の前に気絶しながらゴロゴロと転がってきたそうです。


 僕も救急車で運ばれたそうで、目が覚めると病院のベッドの上でした。

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