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四季怪々 僕らと黒い噂達  作者: 島倉大大主
Chapter1
18/57

17:満車と占いマシーン

「皆さん、どうもこんにちは。オッサン、ことユウジロウです。

 いやあ、いきなりですがね、今日はあれです、ゲーセンに来てます。

 はい、こちらが本日の保護者、ニューカマーのキングオジョーさん……なげぇな。キンジョーさんでいいや。キンジョーさん! 今日はよろしくお願いいたしますよ、ホントにもう」

「よろしくお願いいたします。愚妹(ぐまい)がお世話になっております」

「よろしくお願いいたします~。お、一応聞いときますか。なんか怖い噂とか知ってます? 

 うん、何で不思議そうな顔してるかな。これ、そういう番組なんですよ?」

「グルメではなく?」

「グルメではなく」

「そうですわねえ、あまり怖くはありませんが――『満車(まんしゃ)』という噂をご存知でしょうか」

「いやあ、うちの怪奇ポストにもそういうのは無かったなあ。それは、あれですか、車と関係するお話ですか?」

「はい、そうです。男のかたが夜中に散歩をしております」

「あれ、始まってる?」

「月が出ておりました。ですから微妙に明るいのですね。そういう夜は色々あると聞きますが、果たして、男のかたは路地に入ると前方斜め右、約一五メートルに駐車場が見えて参りました……」

「あの、妙に細かいっすね。しかも、なんか溜めてますよね、今? そういう演出、ちょっとアレかな~」

「ライト、下から赤でお願いします」

「今、昼間っすね。ライト無理っすね。赤は無いっすね」

「その駐車場、車が一台も停車していない。夜中だから当たり前。

 その時、がたんと後ろで音がした。

 びくり。

 男はさっと振り返る。静かな住宅地。すると家の影から猫が一匹とことこと出てきて、道路を横切るのを見たのでありました」

「怪談? 講談? そのしわがれ声、雰囲気最高っすね」

「『なんだ、猫か』。男はふっと肩の力を抜き、前を向きなおる。

 すると、違和感。

 圧倒的な違和感。

 思わず足を止める。駐車場が――『満車』なのです。

 今振り返って、前に向き直る数秒で、『満車』なのです。

 男は思わず一歩踏み出しました。違和感があっても怖さはない。

 だって『満車』なんだもの」

「なんすか、そのだって人間だもの、みたいなやつ」

「だが、次の瞬間、『うわぁぁああうええおああ!』。男は悲鳴を上げ、駐車場を背に逃げ出しました。何故なら『満車』だったからです。それが月明かりに見えたのです。

 駐車場が一瞬で『満車』。

 そして、車の中は『満員』。

 真っ黒い人影が、車という車にぎっっっちりと乗って頭をぶるんぶるんと振っていたのでした……おしまい」

「……ガチじゃん……」

「ガチです。ところで、私の略称がちょっと、いただけませんね。ご存じありませんか、特撮モノのロボット怪獣?」

「えー、個人的には知っておりますが、この番組はそういう番組じゃねーんですよ。え? なんで僕、睨まれてるの? 痛っ! つねらないで! 絡みづれぇなー、おい。

 えー、つーわけで本日は噂の検証です。ヤンさんがですね、お客さんから『絶対に当たる占いマシーン』という話を聞いた、と。なんですかね、絶対当たるってーと、占いじゃなくて予言じゃないですか。どうですか委員長? カメラの後ろで相変わらずの顔をしておりますが」

「シラネーよ。早く階段降りろよ」

「冷たいですねえ、ゾクゾクします。ヒョウモンさんはどうですか、そこら辺」

「そこら辺って、どこら辺? まあ、ともかくプリクラ撮ろうぜ!」

「まあ素敵! さあ、撮りましょう!」


 とオジョーさんがヒョウモンさんを押しながら、ずんずん階段を降りていく所でカットです。打ち合わせなしの一発撮りで、流れるように全員紹介できたオープニングです。今でも割とお気に入りですね、ここ。


 階段を降りると、すぐにゲームセンターでした。

 ヤンさんが言うには、一番奥に隠し部屋みたいなのがある、とのことですがこんなピキューンピキューンとうるさくピカピカチカチカ明るい場所に隠し部屋? と首を捻りつつも店員さんの所にカメラを構えて向かいます。

 勿論、上で撮影を始める前に、許可は取ってあります。お客さんがいるので肖像権の問題を考え、カメラは足元を映す感じで、と説明したところ、カウンターに集まってきていた常連さん達が、俺はOK! 俺も俺も! とプチ盛り上がり。

 じゃあ、ってことでインタビューを始めるわけですが、皆さん結構うまくてですね、サクラ雇ってるのかと掲示板で聞かれたのも仕方なし、という感じです。


 質問は二つ。常連さん達はそのマシーンを知ってますか? 

 そして、それは何処にありますか? 

 事前に場所は聞いてますので、常連さん達の、おー知ってる知ってる、それはあの奥にあるぜ、という答えと共にカメラがゆっくりと右を向き――


「……え!?」


 委員長が小さく声を上げ、常連さん達とヒョウモンさんが中腰になり、椅子がガタッと鳴りました。


 一瞬、ゲームセンター中の音がふっと消えたのです。


 これ、よく掲示板で論争になってる部分ですが、まあ、仕込みとか加工の類は一切していません。音はすぐに戻りましたし、動画の秒数を見るに一秒にも満たないはずなんです。

 なのに、やけに長く感じる。初回にそう感じるのは判るんです。でも判ってて、観直してもやっぱり長く感じるんです。ここもデータをいじって云々という書き込みを見かけますが、うーん、ばーちゃんはそこまでの技術は持ってないような……。

 まあ、ともかくざわつく店員さんと常連さん達を残して、僕達はゆっくりと前進していきます。ちょっと古い格闘ゲームの看板が置いてある開けっ放しの扉を潜りました。

 そこは古いゲームが置いてある小部屋でした。店員さんの説明では僕らが産まれるよりもずっと前のゲームがゴロゴロしているそうで、店長さんが趣味で置いているそうです。

 ここら辺、一応モザイクをかけておきましたが、書き込みだと音で判っちゃう人達もいて、とても興味深かったです。


 僕達があと何年も先に今のゲームの音を聞いたら、やっぱりすぐに判るんでしょうね。

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