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第59話 東堂可憐

 カラスが飛び交う夕暮れ時。

 オレンジ色に照らされた東堂とういう大きな看板を一人の青年がくぐる。


「お、お邪魔しま~す」

「今日はお休みだから誰もいないよ」


 恐る恐るといった様子で道場へ入ってくる来栖を見て思わず笑ってしまう。

 剣鬼ダンジョンへ羅栖墓を誘ったのだが、あいにくお姉ちゃんとの約束と(かぶ)ってしまい一緒にはこられなかった。


 代わりにと、羅栖墓が推薦してくれたのが来栖勝利だったのだ。

 確かに来栖君はダンジョン攻略の時パーティーを組んだことはある。

 正直、その時はパーティー内で一番実力が低かったと思う。


 そこから考えると、来栖君では剣鬼ダンジョンは荷が重いと言わざるを得ない。

 だからといって実力があれば誰でもいいというわけではない。

 剣鬼ダンジョンは二人専用ダンジョンでもあるのだ。このダンジョンはそもそも二人の相性が良くなければ入ることすら叶わない。


 自分の予定では、お姉ちゃんと攻略する計画だったのだが、その姉は五年間失踪した。

 そして今は失踪した理由を片付けるために……恐らく命を賭けて戦っている。

 姉とはそういう人なのだ。実力がある分何でも自分ひとりで解決しようとする。


 今回はどうしても羅栖墓の力が必要ということだから頼ったに過ぎないはずである。

 でなければあの姉が他人を頼ることなどあり得ないのだ。


 強すぎるが故、他人を不幸にしてしまう。

 自分の強さに周りが合わせられないならそれは足かせとなってしまう。

 足並みを揃えれば問題ないのだが、姉にそんな器用なことはできない。


 だから私が強くなる。

 そう決めたのはいつの頃だっただろうか、自分が姉の横に立てるようになれば変わるはず。

 一人では周りを巻き込んで不幸にするだけだろうが、二人なら私がカバーできる。


 だが最近本当に私が必要か疑問に感じることがある。

 嫉妬だ。


 その対象は羅栖墓である。

 羅栖墓は姉と同じ高みにいると思う。

 だからこそ一人で戦うことが多いと思っている。


 羅栖墓が燐音の横に立ったなら?


 それは私の目指していた形かもしれない……いや、そうなのだ。

 羅栖墓が羨ましい。妬ましい。


 だけどそれだけじゃない気持ちもある。


(この気持ちは……お姉ちゃんへの嫉妬?)


 燐音の隣に羅栖墓が立つということは逆も同じ。

 羅栖墓の隣に立っているのは燐音ということになる。

 お似合いの二人……私では到底叶わない二人の巡りあわせは、運命すら感じさせる。


(だけど! 私は諦めきれない! お姉ちゃんの隣にも、羅栖墓の隣にも立てるように絶対なる)


 中等部の時には天才と持て囃された。

 だが上には赤獅子がいた。

 彼を見るたび嫉妬もした。羅栖墓や燐音に抱いた想いと同じだ。


 永遠の二番手。

 いくら天才と言われようと、いくら将来を期待されようと自分の欲しいものに手が届かない二番目。

 そんな立ち位置なんて真っ平ごめんだ。


 だからこそ今から私は一番を目指す。

 燐音と羅栖墓の一番隣にいるのは東堂可憐である。


「可憐……あの人は誰?」


 決意を胸に歩を進めていると来栖君が誰かを見つけた。

 私は陰に隠れるその人の前へ迷わず進む。

 返答のない私に来栖君は困惑顔だったが、こちらの真剣な表情を見て黙ってついてきてくれた。


「私は今から剣鬼(けんき)を倒しに行きます……お父さん」


 額から頬にかけて大きな古傷は走るその顔は、武道者として一線を潜り抜けてきた証拠である。

 だからこそ生半可な気持ちでこの扉を開くことは許さない。


「可憐……お前は十分に強くなった。ワシが認めよう。だがこの奥にいる鬼はそれだけでは足りぬ」


 経験者は語る。

 東堂流師範である父も、もちろん剣鬼を倒している。

 その時はお母さんと一緒にダンジョンへ入ったらしいが、苦戦は免れなかったらしい。

 今生きている人で、この東堂流免許皆伝の試練を乗り切った人物はお父さんを入れて二人。


 東堂燐音。


 どういうわけか燐音は一人でダンジョンを攻略したと言い張っていた。

 お父さんいわくそれはあり得ないので、相方を隠しているだけだろうと言っていた。

 その直後の失踪。


 家族が心配しないわけないので全力で捜索をしたのだが、結局は見つからず。

 まさか学園の中にいるなんて思いもしなかった。


「大丈夫。来栖君もいる」

「嘘だな」


 私の言葉に容赦なく否定の刃を突き立てる。


「お前は焦っている。何があったかは聞かんが、それでは命を落とすぞ?」


 私はお父さんの言葉を受け、胸に手を当てて考える……うん、大丈夫。


「大丈夫。私には信じてるものがある」


 私の言葉の後には静寂が訪れた。

 お父さんは少し目をつむった後、再び視線を私へ向けて言った。


「分かった。だが少しだけお前と話がしたい。来栖君といったか? 悪いが少しの間席を外してくれないかね?」


 別の部屋で待つよう来栖君を案内しお父さんと二人きりになる。


「分かっているな? あの男の子はダンジョンでは全く役に立たない。それどころか連れて行くからにはお前が責任を持って連れ帰らねばならん」

「うん。分かってる」


 剣鬼ダンジョンは高難易度ダンジョンだ。

 挑める人数が少ないということもあるが、敵も強いのだ。


「ふぅ。お前は何も分かっていない」


 お父さんは困ったというような顔をしてため息をついた。

 私が何を分かっていないというのだろう。そもそも命を賭ける程の覚悟はとうの昔に出来ている。


「いいか? あのダンジョンは男女のペアでしか入れない」


 何を今さら言うのだろう。そんなことは東堂の門下生ならば誰もが知っていることだ。

 付け加えるなら、親しい男女という条件がある。例外で女同士もあったようだが、それは不可能に近いらしい。

 だからこそお姉ちゃんはモテたし、誰もが燐音と組みたいと思っていた。


「お母さんはな、剣鬼ダンジョンでお前達を身籠ったんだ」


 何を言っているのだろうこの人は……。

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