第57話
平和だ。
いや、現代日本と比べると全然平和ではないのだが、先日の騒動を乗り越えた俺にとって日常とはとても平和に感じるのである。
こうやって授業を受けに学園へ通い、時々ダンジョン調査隊の話を聞いて手伝いを頼まれたり。他チームの勧誘を受けたり。
あの夜は本当に貞操が危なかった。
我王が童貞かどうかしらないが、少なくとも俺が我王になってからは女性経験はない。
そんな中あんなアプローチを美人から受けたら我慢できるはずもない。
日ごろから花菱さんから積極的なアピールをされているが、それは外で、他の人の目もある場所でだ。
そんなチャンス……ではなくピンチ……いや、チャンスでいいのか。
一応花菱さんは許嫁のままだが、俺は受け入れたわけではない。
むしろ断ろうと考えている。
それを考えると東堂燐音と男女の関係になり、それを理由に花菱京華という俺の死神から離れるということができたかもしれない。
だが、そんなことが行われる直前。花菱京華が乱入してきたのだ。
実はあの時屋敷には俺の関係者が一同に集まっており、別部屋で待機していたそうだ。
本当は俺が目を覚ますまで千聖や花菱さんが看病すると言っていたそうだが、その役割を東堂燐音が譲ってくれないかと懇願してきたそうだ。
理由は、俺を傷つけてしまった贖罪だけでなく、目を覚ましたら俺が一番気にしているであろう東堂燐音の問題を話してあげようと考えているからだとか。
病み上がりの俺にそれは負担ではないかという話もあったのだが、実は、目を覚ましたら元気いっぱいに回復するとユハナが保証したそうだ。
吸血鬼であるユハナは俺の血を吸うことにより、俺の体が血液を作るよう促したようだ。
吸血鬼は人の血を吸う習性から、吸われる人間が血液不足に陥らないように増血効果が備わっているのだとか。
それに加え回復効果もあるので、俺が起きた時は元気いっぱいになっているというからくりなのだ。
まさか吸血行為にそんな効果があるなんて思ってもみなかった。
以前吸血されたときはそんなことは一切感じなかったからだ。
ということで翌日には何事もなく学園へ登校という運びとなっているのだ。
あの夜に東堂燐音から話を聞けなかったので、本日放課後ということなのだが……。
「羅栖墓、今日の放課後手伝って欲しい」
東堂燐音の妹、可憐から頼みごとをされてしまっている。
内容を聞いてみると、燐音が羅栖墓に秘密を話すことを知っている。
当然可憐も聞きたいが、燐音がそれを許すはずもない。
なので、羅栖墓が燐音に認められたように、自分も燐音に認められれば秘密を聞けるという寸法らしい。
「それで方法は? まさか燐音に挑むのか? やめておけ、あいつは俺より強い。俺に勝てない可憐では無理だ」
「分かっている。お姉ちゃんは強い。だけど東堂流として認められる方法ならある」
ここまで聞いて俺はピンときた。
これは東堂可憐ルートのイベントだ。
東堂家には一つのダンジョンが存在する。東堂家の地下にあるそのダンジョンは”剣鬼ダンジョン”と呼ばれ、東堂流免許皆伝の最後の試験として挑むダンジョンなのだ。
姉が出て行ったのは自分が不甲斐ないからだと思っている可憐は、主人公来栖と共にダンジョンへ挑むのだ。
「剣鬼ダンジョンだな?」
「知っているの!? やっぱりお姉ちゃんに聞いたんだ。ならダンジョンを踏破すれば認められる」
別に燐音からきいたわけではない。ゲーム知識として知っているだけだ。
だが……。
「燐音の話次第だな。俺はこれから燐音のために動くから、そんな暇がない可能性のほうが高い。それに、俺が燐音の問題を解決できたら話を聞かせて貰えるかもしれないだろ?」
「それはいつ? 明日? 一年後? 私はもうすでに五年待っている」
なるほど。これ以上待つつもりはないということ、自分ができることをやっていこうという考えか。
「わかった。だけど俺が協力できない可能性を考えて、他の候補も考えておこう」
俺の提案に可憐は驚く。
「羅栖墓もしかしてダンジョンのこと知っている?」
「まあな。剣鬼ダンジョンは相性のいい男女でしか入ることができないだろ?」
そう、”剣鬼ダンジョン”。別名”カップリングダンジョン”というリア充ダンジョンなのだ。