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第56話

最初に目に入ってきたのは見知らぬ天井……ではないな。


めちゃくちゃ見覚えのある天井だし、なんなら一番馴染みのある自室である。

どうやら俺は一命を取り留めたらしく、毎朝起きている自分のベッドの上だった。


「起きたか」


声のする方へ顔を向けると、そこには東堂燐音が佇んでいた。


あの、これエロゲーですよね?

こういう場合美少女が看病してくれて、枕元で一緒に眠っちゃうパターンではないんですかね。

その美少女の寝顔に見惚れた主人公と目が合っちゃって赤面するまでがお仕事だと思うんですけど!


俺、主人公じゃないけどね。


かくいう東堂燐音さん……暗闇に浮かぶシルエットから強者感が出てるんですけど!

その肩に立てかけた刀が無駄にカッコいいんですけど!


「すまない! やりすぎた!」


燐音は立ち上がりこちらの方へやって来ると、突如頭を下げてきた。

これは俺への謝罪ということはわかるのだが、戦った後にも言ったが、お互い合意の下でやったようなものだ。


だから謝る必要などない……というよりも。


「燐音先輩……俺の方こそ弱くてすみません」


その言葉に燐音は目を見開く。

俺はむしろ燐音に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


ここまで努力を怠った気持などないが、燐音との戦いでそうではないということを感じ取ってしまった。

アンチシステムとして圧倒的な強さを誇る東堂燐音には負けて当然、と考えるのが普通かもしれない。


だが見てしまったのだ、可能性を。

絶対に勝てないシステムという存在ではない東堂燐音を。

一撃必殺の居合を受けてなお生きているこの現状が。


あり得るのだ。ならば東堂燐音を超えることは不可能ではないはず。

そしてそれが一つの希望にもなる。


(つまり。主人公が絶対に勝てない東堂燐音よりも強くなれば生き残れるってことだよな!)


本編では主人公来栖が絶対に勝てない相手。

そもそも近づかなければ敵対すらしないのだが、挑めば必殺の居合で一撃だ。

現在の来栖を見る限り、本編と同じ成長速度で間違いないだろう。

なので、俺が東堂燐音と同じかそれ以上の強さを手に入れれば、少なくとも本編クリアの羅栖墓撃破の結果を変えることができる自力がつく。


明確な基準ができたことに感謝すれど、謝られるようなことではない。


「何を言っている! お前は十分強かった。私の居合を受けて立っている者など誰一人としていなかったのだ」


どんだけ化け物なんだよこの人。

東堂流というからには師範もいるはずで、だがそんな人たちでさえ相手にならないということなのだろう。


「ありがとうがざいます。その言葉で自信がつきました。俺は東堂燐音の前に初めて立てた男ということですね」

「ああ、お前は初めて私が認めた男だ」


あれ? なんだこの甘い空間は?

ベッドの横に膝をついた燐音は俺の手を握っている……。


「だから敬語なんてやめてくれ。寂しいじゃないか。戦っている時のお前はカッコよかったぞ」


甘いセリフを言われ顔が赤くなる。

花菱さんからのアプローチで女性耐性はついたと思っていたが、胸の高鳴りがそうじゃないといっている。


「あ、ありがとうござ……ありがとう……話してくれるか?」


俺の言葉に燐音がショックを受けたような表情をして、そっと握っていた()()()()()


「ああ! 違う違う! 燐音の抱えている問題のことだ。別に手を離してくれという意味じゃない!」

「そ、そうか!」


()()()()()()を勘違いしたようだ。

なので訂正をすると再び手を握りなおしてきた……なんで?


「こんなことをしてしまった後に頼むのも悪いとは思っている。だが、小鳥の話を聞く限り私の問題を解決するにはお前の力が必要なようだ。私は己の問題を解決できるならこの身がどうなっても構わないと思っている。だから羅栖墓、お前が私に協力してくれるというなら……私のことは好きにしてくれていい」


おおい! 最強剣士とはいえ女子高生ですよね!? 頭も悪くなさそうだから自分を好きにしていいという言葉の意味が男にどう取られるかわかってるはずだよな!


「ふふっ。こんな武骨な女は興味はないか? 一応東堂の道場にいるときは結構な人数から告白されたこともあるんだがな。不満なら……」

「ちょっ! ちょっと待った! 別に不満とかではないけど、もっと自分を大事にした方がいい! そんなことしなくても協力するから!」

「ありがとう。だが、それほどのことなんだ。自分の命を懸けても惜しくないぐらいの問題なんだよ。それに、お前は私を大事にしてくれないのか? そんな男ではないと確信しているといったら卑怯な女だと罵るか?」


な、なんだ。一回戦っただけでこんなことになるのか?

それとも東堂燐音の話を聞けば納得できることなのか?

どちらにしても健全な男子高校生としては結構くるものがある。


俺が考えていると、自分の体の上に何かがのしかかってきた。


「前払いでもいいんだぞ」


いつの間にか胸元をはだけさせた燐音が迫ってきていた。

燐音の顔は可憐同様整っており、美しい銀髪が頭の後ろできっちりと結われていた。


がっちりとホールドされているようで、動こうとしても力が入りきらなかった。

自由に動く両手で燐音を押しのけようと手を伸ばしたが、それを許してはくれなかった。


「あんっ!」


いやいやちょっと待て! 事故ではなく故意であることは確かなのだが、それは俺の意思では断じてない!

燐音の両胸を揉んだことは事実なのだが、それは燐音が俺の手を掴んでそう誘導したからである!


「へ、変な声出すな! というか()()!」

「ああ、全部()()()。だから私とお前は一蓮托生、運命共同体というやつだ」


理由になっていないと思うのだが……しかし、ここまでされて健全な男子高校生の理性は決壊してしまっていた。


「そんなこと私が許しませんわよ!」


俺の貞操が脅かされている部屋に、もう一人の女の声が鳴り響いた。



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