エロゲに転生した俺は悪役令嬢に婚約破棄され復讐の鬼になるラスボスでした～最初でラスボスの力を手にいれて最強になってしまったようだ～

第55話

「流石にやりすぎだ燐音！」

東堂燐音が再び斬り結ぼうとしたとき、横から制止の声が飛んできた。

「こ、小鳥！　止めないでくれ！　今私は久しぶりの戦いを楽しんでいるんだ！」

「バカ！　我王の状態をよく見てみろ！　死ぬぞ！」

小鳥先輩が燐音の刀をおもちゃのアームのようなもので掴んで止めている。

興奮が冷めない燐音を叱責し、俺との間に入ってくれる。正直助かった気持ちでいっぱいだ。

よく見ると燐音が頬を上気させ顔が赤くなっていた。

さすがに立っているのが限界なので膝をつく。

「我王！　大丈夫か！」

小鳥先輩が駆け寄ってきて体を支えてくれる。

俺はそれに甘えさせてもらい、ゆっくりと地面に横たわった。

「これは……よく生きているな」

外から見たら生きていけないレベルの傷のようだ。俺の感覚でも結構ヤバい状態なので、ラスボス瀕死状態だ。

小鳥先輩は背負っていた大きなバッグから医療器具を次々と取り出す。

まるで今から大手術でも始めるかのようだ。

「馬鹿野郎！　ここまでするとは思わなかったぞ！　傷が深すぎる……輸血が必要だ、燐音今すぐ我王の家族を呼んで来い！」

「わ、わかった」

燐音はようやく冷静になってきたのだろう。小鳥先輩の言葉に素直に従っていた。

自分では見えないが、身体から相当量の出血をしているのだろう。治療に当たっている小鳥先輩の両手が真っ赤に染まっていた。

「傷は医療デバイスですぐ防げるが、問題は輸血量を確保できるか……病院に行っているいる暇はなさそうだ。我王、お前の肉親は妹だけか？」

なるほど。千聖なら兄妹だから輸血できる可能性があると踏んでいるのか。

「そうだな。千聖だけだ。それに、千聖は義理の妹だ」

「なんだと！」

小鳥先輩の顔が曇る。

これは結構ピンチだな。今まで我王の力が強くて死ぬなんて考えたこともなかった……いや、唯一主人公に倒されるというのは考えていたが。

考えが甘かったようだ。

現在ゲーム進行度でいえば序盤も序盤。主人公は今から強くなっていくような段階で、俺の障壁となるものはいないと心のどこかで思っていたのだろう。

実際、他の人達と対戦をしても、ダンジョン攻略をしても、己を越えてくるような存在はいなかった。

そんな環境が今のような低い意識を作り出してしまったのだろう。

東堂燐音と戦うことを選んだ時も死ぬ気などこれっぽっちもなかった。

無事では済まないだろうという考えはあったが、心のどこかで主人公の来栖以外に殺されることは無いと思っていたのだ。

俺はラスボスという地位に甘えていたのだ。

ここはもうゲームの中とは違う。

物語のレールに沿って進んでいくと考える方がおかしいのだ。

今回の出来事を教訓にそう学べたことは大きいが、俺に次はあるのだろうか？

ここで奇跡的に千聖が輸血対象者として合格しても、もしかしたら量が足りないなど不測の事態があるかもしれない。

「お兄さま！」

「連れて来たぞ！」

千聖と燐音が駆けつけてきた。その後ろにユハナの姿も見える。結構長い距離を走ってきたようで、千聖の息が切れていた。

我王のお屋敷ってバカでかいのよ。

「我王千聖！　今説明している時間が惜しい。羅栖墓の血が足りていない。そこの機械に君と羅栖墓の血を入れてくれ、羅栖墓の輸血に使えるか調べる」

「はい！」

千聖……自分の血を分けることに拒否感はないのだろうか。輸血を断る雰囲気ではない。

「結果が出ました！」

この世界は医療が進んでるのだろうか？　俺はそこら辺の知識はないので分からないが、こんなにも早く血の適合者かどうか判定できるものなのか。

「ダメか……近くの病院を当たるしかないか」

「それで間に合うんですか!?」

やはり適合しなかったようだ。

先ほど小鳥先輩は病院へ行っている暇はないと言っていた。

なんだか体の感覚が無いように感じるが、流石に危なくなってきているのだろう。

「なんとかして下さい！　あなた達がやったのでしょう！　お兄さまを傷つけられる人なんてそうそういません！」

千聖の言葉に燐音が下を向く。

「千聖……これは互いに了承して行った戦いだ。俺が死んでも恨むな」

「お兄さま！　そんな！」

「いいか？　お前は俺を高く買ってくれていて嬉しいよ。そんなお兄ちゃんが判断を下したんだ。これは必要なことだったんだよ」

東堂燐音の問題に首を突っ込もうと考えたのは俺だ。

それに足りるだけの実力がなかったと言うだけの話。

それで東堂燐音が負い目を感じる必要などない。

「東堂燐音。こんなこと言う必要はないと思うが、俺はお前を殺す気で戦った。だから俺が負けて死ぬならそれが必然なんだ。気にすることは無い」

命を賭けて戦ったならどちらかが死ぬのは当然の結果だろう。

実力を計るためだったとはいえ、それが死闘だったことに変わりはない。

「すまない。お前の力を引き出すためにここまでやってしまった。もう少しゆっくり見極めていればここまでする必要はなかったのかもしれない」

「時間が無かったんだろ？　分かるよ。あんたと斬り合ってみて感じた。確かに的確で強い剣だったが、焦っているようだった」

本当になんとなくだが、東堂燐音の抱えている問題を解決するにはもう時間がないのだろう。

そんな焦りが燐音からは感じ取れたのだ。

もうどうしようもない。そんな雰囲気が流れている時に一人、前に進み出てきた少女がいた。

「ユハナ……すまんな。俺が死んだあとは千聖と共に生きてくれ」

ダンジョンで救出した少女。ユハナが俺の顔を覗き込んできた。

彼女には悪いが、これからは俺無しでうやっていってくれなければならない。

「大丈夫……羅栖墓あなたは死なないわ」

ユハナはそう言うと、ゆっくり俺に沈み込むかのように顔を近づけてきた。