第53話 東堂燐音
今日はあと1話夜20時頃更新予定。
いつも通りの場所、いつも通りの道、いつも通りの結果。
それらどれをとっても私を苛立たせるには十分過ぎた。
また今日も無意味な日を過ごしてしまった。
上手く行かない日々が続くと、まるで世界が私を虐めているかのような錯覚に陥ってしまう。
今日もできることを終え、己とタッグを組んでくれている仲間の所へ帰還する。
近代的な校舎の横に不自然に現れる森林地帯。
その中にある木造家屋の一軒家。
仲間はこの火に弱そうな場所で日々過激な実験を行っている。
その中でも得意分野が爆発物というのだから、拠点を構える場所を盛大に間違っているのは誰の目にも明らかだろう。
扉を開くために建物へ近づくと、いつもと違う様子に気づく。
「人……小鳥に友達はいないはず」
拠点である木造家屋に仲間以外の気配を感じたのだ。
おかしい。この建物は認識疎外の術式を展開させているはずだ。
これは小鳥が開発した術式展開デバイスで、今のところ認識疎外と防音機能二種類の開発に成功している。
小鳥の認識疎外効果を突破するほどの実力者なら小鳥の身柄が心配だが、そんな雰囲気でもないようだ。
談笑というのだろうか、普通に会話をしているし、音が聞こえてくるということは防音機能をオフにしているということだ。
その状況からまず危険はないと悟る。
なので堂々と正面玄関の扉から入る。
「お、お姉ちゃん!」
その場の空気が凍る。
不覚にも己自身も止まってしまった。
なんせ五年近くも会っていなかった妹の姿があったのだから。
そこから妹である可憐に、帰ってきてほしいとか、なんで出て行ったのかなど色々聞かれたがどの質問にも答えてやることができなかった。
無理だ。
可憐を巻き込まないために家を出たのに今更戻るなんて。
それに、抱えている問題は未だ解決に至っていない。
小鳥が我王という人物を紹介してきた。
前々から話は聞いていたが、こんな悪役顔のやつに私の問題を軽々しく話すなどできるはずもない。
一応小鳥の紹介なので無碍にはしないが、正直期待感など皆無だ。
(小鳥があれだけ推すなら一応確認はしてやるか)
私の問題に巻き込むというのに試す行為をしようとしている。
矛盾している行動だが強さは最低限必要だ。それも飛びぬけた実力でなければそもそも死んでしまう。
妹一行を追い出し、小鳥から我王の自宅を聞き出す。
「ふふっ。彼に会いに行くんだね?」
わかりきったことを聞いてくる小鳥はどこか嬉しげだった。
「小鳥がいうんだったら試してやるさ。実際あの我王という奴だけ実力が計れなかったからな」
「おや? 他の面々は不合格かい?」
「まるで我王がすでに合格しているような言い方だな? 言っておくが、私は相手の実力を推し量るのは苦手だ」
「花菱や君の妹は十分強者の位置にいると思うけどな。それに、実力を推し量れないのは我王千聖の方じゃないのかい?」
「ふっ。花菱や可憐は人間の域を出ることはできないさ。我王千聖は将来が未知数というだけだろ。それに私好みではない」
「はははっ! 化け物の君が言うなら違いない」
小鳥はいつもの調子で化け物呼ばわりしてくる。
「化け物か……確かに私は化け物だな」
小鳥は自虐気味の私を慰めたりはしない。
とうに言葉など無意味な域に達しているのだ。それゆえに私は言葉だけの信頼など信じはしない。
「紅茶を淹れたからとりあえず座りなよ。我王のこと聞きたいだろ?」
「なんだ? この前話してたじゃないか。一年生で一番の有望株だって」
「はははっ! あの時君は興味なさそうにしてたじゃないか。そんな人に全て話すと思うかい?」
「会って確かめれば問題ない」
そう。結果が全てなのだ。だから今話を聞こうか聞かまいが何も変わらない。
「彼は全人類史上初のダンジョン踏破者だ。それも仮想ダンジョンではないよ?」
ピクリと眉が反応してしまったが、それだけだ。我王が強いという話でしかない。
「ふふふっ。興味が出てきたかな? もちろん君の問題を知っている私がこれだけ推すんだ。期待してくれたまえよ」
「もったいぶるな! 話せ……」
「やっと聞く気になったかい。なら話そうじゃないか。こんな話つまらない聞き手に話すもんじゃないからね!」
まるで大物を釣ったかのような喜びようだ。
普段から私が小鳥の話を真面目に聞いていない仕返しをしたいのだろう。
「我王は鬼の支配者だ。恐らくね」
「それは!」
「そう。ただ鬼の力を借りている奴らとは違う。鬼そのものといってもいい。そしてそれは君の妹を助ける力だと私が仮説しているものだ」
我王 羅栖墓。
絶対に会って確かめなければならないことが出来た。




