第1話
あれだ、俺はよく知っているゲームのキャラに転生ってやつを体験した。
しかも 我王 羅栖墓は冴えないお坊ちゃまで、悪役令嬢に主人公の邪魔ばかりさせておいて最後は、悪役令嬢が主人公に改心させられ俺は捨てられるという散々な役回りだったはずだ。
幸い、今俺の姿を確認するとゲームの時よりかなり若い。
もしかしたらまだ婚約前かもしれない。
コンコン!
俺の部屋に誰か訪ねてきた。
「羅栖墓様!お父上がお呼びでございます!」
「わかった今行く。」
「確か、我王 羅異堕だったかな?」
確かこの家系は代々鬼を封印してきた家系だ。
最後にこの羅異堕を殺して鬼の封印を解き、俺がとり憑かれてラスボスになったはず。
「父上お呼びでしょうか?」
確かこんな口調だったな。
今はロールプレイで役に徹しているが、正直実の父親という実感はないので、この敬語に気持などこもっていない。
「ああ、今日はお前に婚約の話があってな、この婚約で我王家と花菱家の協力関係を強固にするというものだ!」
我王家と花菱家は昔から魔族嫌いで、人間との対立を願っている。
そこの息子と娘が結婚することで関係を深め、お互いの活動に力をいれようという考えなのだろう。
「役立たずのお前がやっとこの家のために役にたつのだ! 光栄に思え! それとも鬼の間に入るか?」
我王家は昔から鬼の間に入り鬼の力を得るという儀式をやってきた。
鬼の間には鬼が封印されている。
そして、その部屋は鬼の瘴気が漂っており、中へ入るとその瘴気が精神を侵すのだ。
「ふんっ!なにもできない愚図が!わかったらさっさと退け!」
「嫌だ...」
俺は小さく呟いた。
このまま悪役令嬢との婚姻ルートで破滅するのは嫌だなと思っただけなのだが…。
「なに? 貴様嫌と言ったのか?」
「あ、ちが...」
「黙れ!鬼平!コイツを鬼の間に放り込め!」
俺はそのままゴツイ男に引きずられお札やらなんやらで封印されている鬼の間に放り込まれた。
扉が閉められると、奥にあった刀が震えだす。
鬼が反応しているのだ。
俺は今までこの部屋に入るとものの数分で気絶していた。
怖いと思う記憶が蘇るが、俺の今の心はむしろワクワクしていた。
おもむろに立ち上がり刀の傍に立った。
そのまま刀を手に取り鞘から刀を引き抜く。
それと同時に刀から禍々しいどす黒いオーラが溢れた。
やがて、その溢れ出たオーラが塊になり、”鬼”になった。
「ガハハハハハ! 俺を引き抜くことができるとはな! 良いだろう貴様を殺してこの世界を殺してやろう!」
――――――黒鬼
全身が真っ黒だが、何故か暗い部屋の中でもはっきりと見える。
鎧のような筋肉に覆われたその体から生えている毛が、炎が燃え盛っているかのように逆立っていた。