平成最後のウィスタリア!
ー地球のとある街ー
私、倉武エルクは転生者です。前世では『佐藤剛史』と言う29歳の若造…若造?でした。彼女は無く、童貞のまま亡くなりました。
因みに異世界転生では有りません、どうやら輪廻転生を果たした様です。
いつだったかのクリスマスの日に、とある山にてロッククライムを楽しんでいたら、崖崩れに遭って命を落としてしまいました。
ーーーと、思った次の瞬間、謎のフワフワとした宇宙空間の様な場所に連れ込まれた私は、光輝く謎の人物に転生してみないか?と問い掛けられました。
私は思わず二つ返事で了承しちゃいました。
そうして気がつくと、私は美しくプチプチと光を包み込む様な金糸の髪と自分で見ても可愛らしい顔立ち。エメラルドグリーンの瞳と165センチの身長。そして豊かな胸と、16年分の記憶を持って鏡の前に立って居ました。恐らくイギリスか何処かのハーフです。クォーターかも知れません。
英語?外国語?何それ美味しいの?
ーーーうん、寧ろいきなりオッサンの記憶が放り込まれたと言う方が正しいかも知れません。
因みに昔からですが、私はとても病弱で、すぐに身体を壊してしまうのが難点です。医者の先生によれば、身体の免疫機能が悪く、激しい運動は厳禁。それさえ守れば投薬で普通に生活出来るそうです。
多少、難は有りますが、私は元気です。
ーーーーそれにしても美少女の下着姿が眼前に広がるとはなんと言うご褒美?
ーーーじゃなくて、さっさと着替えて親友に会いに行かなくてはですよね。
その親友ですが、実は幼少の頃、小学4年の時に引っ越してしまい、つい最近また戻って来てくれたみたいでした。
名前は羽根戸亜里寿と言います。
茶色いショートカットに焦げ茶色の瞳。138センチの小さな身体はまるで小学生の頃から変わって無いみたいでとても可愛らしいです。顔立ちも子供っぽくてほっぺたモチモチです。
彼女はとてもとても元気でいつも笑顔でお姉さん肌だったのですが、久し振りに会った彼女は陰が差して居ました。どうやら両親は小さな頃に事故で亡くなり、唯一の肉親で在る祖母を頼りに此方に戻ったものの、程無くして病に倒れ、そのまま天に召されて天涯孤独となったそうです。
そんな彼女は再会した当初、一切心を開きませんでした。何を話しても鬱陶しそうに、邪魔そうに払い退けました。
しかし私の体当たりの本心のぶつけ合いの末、心を開いてくれました。
ーーーー因みにその日は高熱を出しましたが。
さて、今日は平成最後の日です。
こんな日こそ、大切な人と過ごしたいと父、岩具郎と母、ミューリィを説得した所、亜里寿となら良いと言ってくれたので、私は歓喜して支度を始めたのでした。
つまりアレです。オッサン邪魔。
ー
ーーー
ーーーーー
自然に囲まれた木造りの街を歩きながら、私は待ち合わせの場所へと向かいました。
なんと言いますか、この街は田舎街と言った感じですが、そこはかと無く明光風靡な面持ちで、京都とは違いますが豊かな自然の風情さが溢れてる風景です。
鬱蒼としてる訳では有りません。無いんです。違うっつってんだろ。
しばらくして公園へと辿り着き、私は目的の少女を見付けて駆け寄りました。
「亜里寿!遅れてごめんなさい!」
「んぁ?こんばんはエルク…走るのやめなよ、転ぶよ?」
亜里寿の声につい歓喜した私は思わず彼女のほっぺたを両手でもにもにしてやりました。
とても鬱陶しそうにしてる亜里寿でしたが、手に持つスマホを着ていたニットのカーディガンのポケットにしまうと、私の手をペシンと払いました。こーのツンデレにゃんこめ!!
「ねぇ亜里寿、今日はその…あなたの家に泊まってもいい?」
私はモジモジしながら彼女に問い掛けます。
「…断ってもそのつもりでしょ?…ったく、お節介女なんだから。」
「何よもう…私が亜里寿の事が好きな事、知ってる癖に。」
「は!?」
ーーーは?
待てやオッサン。いやオッサンの私。何勝手な事言ってやがる。子供相手に一目惚れかよ!?キモっ!!
亜里寿これドン引きしてますよ?私もドン引きだわ!!
こんな子供体型に欲情する29歳のオッサンとかマジキモ過ぎて草も生えんわ!!
ーーーと、自分の中で葛藤してると亜里寿は私にしゃがむ様に促しました。
…あぁこれお仕置きだなぁ………と涙目で言われるままにすると、
ちゅっ
………私の唇に亜里寿の暖かく柔らかな唇が…って、細かく描写すんなや。
自分の唇を手で覆いながら耳まで真っ赤に染めた亜里寿が顔を反らしながら言いました。
「………キスまでだから。……それ以上期待しないでよ…?」
流石の私でも余りの可愛さに胸が高鳴りました。多分、私も顔真っ赤で誰かに見られるのが恥ずかしくなってるんだと思います。
亜里寿と目が合うと、彼女は目を逸らし、私は笑顔で彼女の腕に手を添えて歩き始めました。
ー
ーーー
ーーーーー
ーーー気付いたら、周囲はとっぷりと夜の帷に包まれて居て、私達は自分達が通う高校の前に立って居ました。
市立岩門学園です。男女共学の一般的な偏差値の高校です。
私は少し魔が差して、亜里寿に囁き掛けました。
「ゴールデンウィーク中で閉まってるけど、ちょっとだけ入ってみない?」
亜里寿は冷たい視線を私に向けますが、次には「仕方ないなぁ」と了承しちゃいました。
あれ?意外と乗り気なんじゃ無いですかね?ツンデレにゃんこさんは。
いつも開いてる部活棟から繋がる渡り廊下を伝い、こっそりと校内に侵入した私達ですが、もしも警備をしてる宿直の先生とかが居たら絶対に怒られますよね?それとも日付けが変わる瞬間に新元号になるこの日にはやはり誰も居ないのでしょうか?
私はそんなスリリングなこの状況に思わず笑っちゃいました。
逆に亜里寿は震えてました。寒いのでしょうか?
「暗い学校って怖いよね…」
あぁ成る程。確かにいつもと勝手が違ってとても怖いです。………怖いのですが、何故でしょう?
私の中にオッサンが居るからでしょうか?ちっとも恐怖を感じません。
ただただ震える亜里寿の可愛さを堪能………じゃねーわ!
………早くも思考がオッサンに汚染されて来てる気がします。
まぁ兎にも角にも、私達は自分達の教室や色々な教科で使う部屋、保健室等を見て回り、やがて屋上の前までやって来ました。
流石に開いてないだろうと思いましたが、何と無くドアノブに手を掛けてみると………開いてました。
いや不用心過ぎやしませんか?簡単に侵入出来た事含めて。
いつもは立ち入れない空間と言うのはとても気になる物で、私は亜里寿に声を掛けて屋上へと侵入………侵入?
…とにかく屋上に出ました。
するとそこには………
今まさに18禁な行為を終えたばかりと言った様子の沙梨阿先輩と、間楠先輩がいらっしゃいました。
沙梨阿先輩はちょっと色黒ですが、黒髪ショートでスポーティな美人さんです。陸上部のエースだそうです。噂に寄れば、色白で小さな可愛い妹さんが居るらしいです。
間楠先輩は体格が良くて、強面なアメフト部のリーダーとかなんとか。不良のリーダーもしてるとお聞きします。正直言って悪い噂や評判ばかりでとても怖いのですが?
二人は私達の一つ上の先輩なのですが、間楠先輩はどうやら留年してるそうです…
「あーらぁ?貴女は確かぁ…エルクちゃん?有名人さんがどうしてこんな所に居るのかしらぁん?」
「えぇーと、私達はちょっと…2人で想い出を作ろうと…」
…と、言った私の陰から小さな亜里寿が顔をちょろっと出しました。
それを見て狐のお面みたいに顔を歪ませて笑う沙梨阿先輩からの提案なのですが。
「あのね?この事、他言無用ね?分かるよね?言ったらどうなるか…」
「えぇ、まぁ…はい、私達も人の事は言えませんので…」
「うんうん、いい子いい子。………でねん?あたし達運命共同体、そんな訳で今から宿直室に行く訳だけどぉ、貴女達もいらっしゃい。」
ーーーはい?
「協力者さんに言えば2人増えた位なんて事無い訳よ。きっと寝床を貸してくれるわん。」
なんか勝手にイベントが進んでますよ?
ーーーまぁ結局私達は先輩達には逆らえず、連行される身となったのでした。
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ーーー
ーーーーー
ーーー宿直室へと辿り着いた私達は、先程までなるべく明かりから遠ざけて居たので、その部屋に居るのがある人だと知ると何故だか安心してしまいました。
そこに居たのは海外から来て下さったらしい保険医のピオス先生でした。青っぽい髪をポニテに纏めた美人さんです。いつもやる気が無さそうな顔をしています。
簡単な説明を受けたピオス先生は、アッサリ了承して寝床を整えてくれました。
「あぁ間楠くん。流石に女子ばかりの部屋に男子が居るのは不味いから、君が良ければ保健室を使いなさい。」
ピオス先生の流暢な日本語で諭すと、間楠先輩はこれまたアッサリと了承しちゃいました。
ーーーこの先輩、本当に怖い先輩なのでしょうか?
ーーーそうしてなんやかんやと宿泊の準備が整いましたが、三組しか布団は有りませんでした。
沙梨阿先輩はニンマリと顔を歪ませて言いました。
「あのねぇ、あたしって実は女の子の方も行けちゃう訳よ。…エルクちゃんさえ良ければ今夜どうかしらん?」
………亜里寿が全力で阻止してくれました。
私だって亜里寿と想い出を作りに来たって説明した筈ですよ?
冗談と言いながら引き下がってくれたので事無きを得ましたが、今度はピオス先生が
「それなら私が…」
と言った所で顔を真っ赤に染めてやめました。
この先生、冗談も言うんですね?照れ顔が可愛いです。ぐへへ…
………とまぁ結局私と亜里寿、ピオス先生と沙梨阿先輩は別々の布団に入ったみたいですが。
ーーーしかしまぁ最初は亜里寿の家で彼女の寂しさを紛らわせようと………いえ、これは言い訳ですね。
私が彼女と新しい年を越そうと思ったら、色々と状況が目紛しく変わりました。
この一日を亜里寿はどう思ってくれてるのでしょうか?
布団の中で彼女の小さな手を握ると、握り返してくれました。
そして…
「エルク…今日はその……ありがと」
亜里寿のか細い声は照れが混じって居て、そして照れ隠しなのか、私の胸に顔を埋めて来ました。
そんな愛しい親友の体温に。吐息に。…暖かさに微睡み。
こうして私達は、平成最後の火曜日にさよならを告げたのでした。
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