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十分に水気の切った葉を一枚敷くと、手前に一つかみのタネを置いてひと巻き、空気を抜くようにしながら優しく両端をその上へ重ね合わせると、ころ、ころ、と慎重に転がして、最後の端を中へ折り込む。爪楊枝をさした方がいいのか悩んだが、思ったよりも形が整ったので、そのまま鍋の底に置いた。この作業が一番好きかもしれない。包みはあっという間に四つできた。トマトスープであれば間違いなく美味しいとわかっていながら、私の作るものはコンソメスープだった。誰もそんなこと言わないかもしれないけれど、自分ではそういうところが私の可愛くないところだと思う。
「どんな人がタイプなの?」
友達がそうきいてくると、悩みに悩んで「一緒にいて落ち着く人。」そんな風な答えをしてきた。
それって一体どんな人なんだろう、自分でもよくわからなかった。
「彼氏つくらないの?」
そうきかれれば、心の中では「つくらないんじゃなくてできないんだよ」と答えて、人前では何も言わず笑った。どうしてできないのか自分でもよくわからなかったからだ。
「あんまり恋愛興味ないの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど…」
彼氏が欲しい気持ちだとか人を愛したい気持ちだとかは人一倍あるはずなのに、なにか私には大きなものが欠けている気がする。みんなが当たり前のようにもっていて、私には手に取ることさえできないもの。でもその代わりに私はなにか別のものを手にしているのだと思う。
「まぁ、一人でも生きていけそうだもんね。」
いつもその一言で私の恋の話は終わった。そんなことないんだけどな、と一人悔いを残したままで。
キャベツの葉は一度茹でているものなので煮込む時間はそう長くない。巻き付けた形が崩れないよう弱めの中火でニ十分ほど待つ。
彼はソファで自分の腕を枕にうつぶせになって眠っていた。平日の疲れが残っているだろうと思い、買い出しから帰ると「できるまで寝ていてください。」と私は言っていた。
一連の作業が終わってもなお静かに眠る彼を見つめ、土曜日の昼間とはこんなに平和なものなんだと他人事のように思う。私の仕事が接客業で土日休みがとりづらく、結局再会してから三ヶ月近くが経っていた。
彼が眩しくないようカーテンを少し閉めにいくと、その些細な音に気付いたのかうーんと寝ぼけた声を出しながら彼は仰向けに寝返った。顔にのせた右腕の隙間から眩しそうに目を細め、
「なんでそんな嬉しそうなの?」
そう言って笑う。
「えっ?」
つられて私も笑った。そんなつもりはなかったし、人にそんなことを言われたのも初めてだった。自分にも人にもわからないものが、この人には見えるらしい。
「…うーん、良かった。」
左手を伸ばして立っている私の右手をとると、うんうんと彼は満足気に頷いた。
うんうん、うんうん。私も一緒になって頷く。
それから覆っていた腕も顔からおろすと
「すごく美味しそうな匂いがする。」
そう言った。
まだ夢の中にいるように幸せな表情。
あぁ、これで良かったんだ。そんな風に思える。
私の全てを今までを肯定するように、それは私を包み込んだ。
これで、良かったのだ。何も間違っていなかった。
今まで見ないようにしてきた不安がそっと拭われて、私はまだ自分に納得させていなかったのだと初めて気が付く。
あぁ、これで良かったのだ。
私はようやくここから一歩前に進んでいける。これからはちゃんと自分で自分の道を肯定しながら歩んでいける。
そんな絶対的な安心感を胸に、私は力を抜いて全てを委ねた。髪を撫でる彼の手と全身で感じる温もりに、私の欠けていたピースがきちんと埋まっていくようだった。
これからずっと、この幸せが続きますように。そう素直に神様にお願いをすると、私はそのまま目を瞑った。
2,3年前に書いたものを、加筆修正して投稿してみました。
こういうその人にしかわからないような特別なワンシーンが大好きです。
お読みいただきありがとうございました。




