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でもその日は違った。そのいつもと何ら変わらない風景のなかにひとつ、彼の存在があった。その時に聞きそびれてしまったので、今でもなぜ彼がそこにいたのかはわからない。

夕日、歩行信号、人の群れ、その手前に彼はいた。切符売り場と売店の中間に立っている柱に、待ち合わせをしていたかのように四年前と同じスーツ姿で立っていた。

私は周りを確かめることもなく、自分と目が合っているのだと全身が信じたまま近付き、声をかけた。


「お久しぶりです。」


そんなはずはないのに、待っていたよというような柔らかい微笑みだった。


「おぉ、久しぶり。こっち帰ってきたの?」


「はい、もう帰ってきます。来月に。」


お互いもっと驚くべきはずところなのに、先週もこうして話していたかのように自然だった。

結局こういうことなのだ、私は思う。

繋がっているということは、何かが変わったとしても二人に流れる空気だけは変わらないこと。そしてこの四年間、一度も会わずとも、私はただこの感覚を信じていたのだと。


それから私の就職先のことや彼の今の職場のことについてお互い当たり障りなく話した後、私は率直に言った。

「何か美味しいもの作りたいです。」


彼が「おっ」と小さく驚いたのを聞いて、今度帰ってきたときに、と私が付け加えると続けて笑った。

「うん、食べたい、美味しいもの。」


今アパートで一人暮らししているんだ、と彼は方角を指差した。坂をのぼって右に、あの店を通り過ぎて…。

駅の出口の向こうに目をやりながら想像する、どれもよく見知った道。単純だけれど、彼が説明する道はただそれだけで何だかわくわくする線に

なる。

「じゃ、またメールで。」

二人で意味もなく笑いながら手を振って、秘密の約束を確認した。それだけで胸の奥からぐっと幸せが込み上げる。幸せがどういうものなのかきかれても説明はできないけれど、こういう彼とのちょっとした瞬間が私にそれを感じさせてくれる。

それはもうずっと長いこと変わっていない。

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