現状と率直な感想
前書きって何かくんだろ…2話です
ドワーフの都、ウェスタリア。この町はファンタジー風のゲームなんかによくある、鉱山の街といった風の街だった。一仕事終えた炭鉱夫達が酒場で騒ぎ、鍛冶屋の工房からは鉄を打つ音が聞こえてくる。店先では元気のいい声が響き、通行人は時折足を止めて商品を眺めている。
「賑やかな街だね」
「そうでしょう。ここが我らドワーフの都、鉄と鍛冶の街ウェスタリアなのです!」
ゴリラが誇らしげに言った。それもそうだろう。ドヤ顔をしたくなるのが分かるほどの賑わいで、とても救世主が必要な風には見えない。
「ですが、この賑わいもいつまでもつやら…」
「そんなに深刻なのかい?」
「はい。我らドワーフの未来に関わることなのです」
ゴリラの顔に影が差す。どうやら思ったより事態は深刻らしい。……だめだ、なんか耐えられない。空気を変えよう。
「ところで、ここまで案内してもらってから言うのもなんだけど、君たちの名前を教えてよ。名前を知らないと、なんて読んだらいいのかわからないからね」
「こっ、これは大変失礼いたしました。まだ名乗っていませんでした」
「興奮していたとはいえ救世主様にとんだご無礼を……!」
気づいてなかったらしい。いやボクもだけれど。
「気にしなくていいよ。ボクもさっきふと思っただけなんだ。」
「本当に申し訳ございません。私はゴルドと申します。こちらが……」
「ルリアと申します。」
ゴリラがゴルドで幼女がルリアか。ゴリラゴリラ言ってたけれど名前までなんかゴリラっぽいな。確かに名は体を表すっていうけれど。
「ゴルドにルリアね。ボクはヒカル。よろしくね」
「おお、救世主様のご尊名はヒカル様と」
「なんと神々しいお名前……!」
「うえぇ!?別に普通の名前でしょ?それに様なんてやめてよ、なんだかこそばゆい」
「しかし……」
「いいから、さん……もなんだかなぁ。とにかく、呼び捨てでも構わないし、くんとかちゃんとかでいいから!」
「そ、そのようにお呼びするわけには!」
「いいから、とにかく様はやめて」
「では、せめてヒカル殿と…」
「殿って……まあ、それでいいや」
様よりはずっとマシだからね。
「おおゴルド、よくぞ戻った!」
なんか威厳がありそうな声が聞こえてきたぞ。
「父上!なぜここまで、屋敷で待っているのではなかったのですか」
「待ちきれなくてな、来てしまったのだ。ルリアもご苦労。またゴルドに振り回されて疲れただろう」
「いえ、ガルド様。慣れていますので」
ゴリ……ゴルドのお父さんらしい人物はなんというか、こう、ゴルドを老けさせて威厳とゴリラを足したような人物だった。ゴリゴリしい。
「うむ、今後もゴルドを頼むぞ。して、そちらは」
「はい、父上。こちらが予言の救世主様、ヒカル殿です」
「おお、やはり。予言にあった通りの外見をしていらっしゃる。ふむ……」
父ゴリラ、ガルドがこちらを品定めするように見ている。なんかムズムズする。
「お初にお目にかかります、ヒカル様。私はドワーフの族長を務めております。ガルドと申します」
「族長!?は、初めまして、ヒカルです」
父ゴリラ偉い人だった。通りで威厳があるわけだよ。ていうか父上ってことはゴルド、君も結構偉い人だったんだ!?ゴリラとか呼んでごめんなさい。
「よろしくお願いいたします。さて、歩き疲れているでしょう。屋敷へご案内します」
「お、お願いします」
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ガルドに案内されて着いた屋敷は、それはもう立派なものだった。さすがにお城とまではいかないけれど、領主の屋敷、とかそういう感じの立派なお屋敷だった。さらに通された応接室には、鍛冶の街らしくピカピカの鎧や盾、繊細な、しかし派手すぎない装飾の施された剣なんかが飾ってあった。
「それらはこの街最高峰の職人が作り上げたものです。我らドワーフの誇りですよ」
「とても綺麗ですね。街も活気があふれていました。なのにどうして救世主なんてものが必要なんです?」
「……わかりました。お話ししましょう」
———今より遥か昔、我らドワーフを含む精霊族が妖精郷の外、人族の大陸にも暮らしていたころのことです。すべての種族が手を取り合い、平和に暮らしていました。小さな諍いはあったものの、大きな争いに発展したことはなかったのです。いつまでもこの平和は続いていく。そう思って暮らしていました。
———ですがそんなある日、人族と精霊族の間でまた小さな揉め事がおこりました。最初の原因は誰も覚えていません。それにいつものようにまたすぐおさまるだろうと思われていました。しかし、そうはならなかった。永遠に続くと思われていた平和は、その日失われてしまったのです。
———それからは戦争の始まりです。最初は我ら精霊族の連合軍が優位を保っていました。じわじわと人族を追い詰め、現在の帝都を包囲するまで至ったのです。誰もが精霊族の勝利を確信しました。
———しかし、あと一歩で帝都を落とせるというところで、徐々に人族が勢いを取り戻し始めました。圧倒的な力を持つ人間が現れ始めたのです。その人間たちは次々に精霊族の将を討ち取っていきました。怯んだ連合軍は帝都から一時撤退し、作戦を練り直そうとしました。
———そこでさらなる予想外の出来事が精霊族を襲いました。人族が追撃を仕掛けてきたのです。つい先ほどまで自分たちが包囲していたはずで、追撃の余力などあるはずがない。そう考え撤退を選択したというのに、追撃を受けている。精霊族はひどく混乱しました。
———強力な人族の出現、予想外の追撃。不測の事態に見舞われた精霊族連合軍はのその後はひどいものでした。これまでの勢いが嘘のように、自らの領土に向かって逃げては迎撃しをかろうじて繰り返す日々。やっとの思いで精霊郷の手前まで来ることができたのです。そして、この戦争における最後の戦い。そこで圧倒的な力を持つ人族の一人を、各部族から最強と謳われる戦士たちが全力でぶつかることで討ち取ることに成功したのです。
———討ち取れたのならばなぜ今こうして救世主が必要になっているのかと思われるでしょう?それはこの時討ち取った人族の戦士の最後の言葉が原因といえるでしょう。その言葉は……
「ふっ、よくぞ私を討ち取った。しかし私を倒した程度でいい気になるなよ?……いいか精霊族よ、よく覚えておくがいい!私は帝都12将の中でも最弱だ!私より強いものがまだ……ごふっ」
「その言葉を聞き恐怖した我ら精霊族は、以来この精霊郷に強大な結界を張り、人族を刺激せず、また争いが起こらぬように静かに暮らしているのです」
「なるほど、よくわかったよ」
規模のでかいひきこもりってことね!
「各部族の伝説の勇士たちが全力で、しかも4人がかりでやっと仕留めた怪物。その怪物よりも強い人族が少なくともあと11人はいるという……。時が流れた今ではさらに増えているかもしれません。恐ろしや」
「確かに、本当の話なら末恐ろしいね」
「そうでしょうとも!私たちは伝え聞いただけなのですが、それでもこうして恐れ戦いてしまうほどです。直接対峙したご先祖様方は生きた心地がしなかったでしょう」
なるほど、精霊族の現状とどうしてそうなったかはわかった。つまり……
「つまり救世主のボクに、めちゃくちゃ強いだろう人族の戦士を倒してほしいのかい?」
「いえいえ、そのような危険なことを救世主様にお頼みするわけにはいきません!」
「違うの?てっきりそういうものかと思ったんだけど」
「我々はもう争いを望んでいません。ですので、救世主様には我らの未来、即ち発展の道を示していただきたいのです」
発展の道?