異世界転生とファーストコンタクト
――――ここ、どこ?
気が付いたら真っ暗な空間の中にいた。どうしてこんなところにいるのか。駄目だ、まったくわからない。
確か今日は新しいゲームの発売日だったはずだ。開店前から並ぼうと意気揚々と家を出て、お店の目の前の横断歩道を渡ろうとして……っ!そうだ、横断歩道を渡っていたら居眠り運転のトラックが突っ込んできて……。
僕は、死んだのか?
考えたくもないことであるはずなのに、どこか納得したような感覚があるのは一度経験しているからなのだろう。そうするとここはあの世ということになるのか。ずいぶんと殺風景なところだな。とりあえず身体の感覚はあるので歩いてみよう。少しずつ目も慣れてきた。
壁らしきもの……というか壁だな、これ。岩の壁。目を凝らしてみると天井もそう高くはない。洞窟のような……洞窟だ。洞窟だよこれ。とりあえず、立ち上がって壁伝いに歩いて行こう。ここがあの世だったとしてもこんなに殺風景なだけのところだとは思いたくない。
……なんか、目線低くないか?すたすたと歩きながらふと違和感を覚えた。あとなんか髪も重い……長いような?少しだけ歩調が早まる。
「あー」
声が高い!一瞬本当に自分が出した声なのかわからないくらいだ。生前(?)は健全な男子高校生だったはずなのに、聞こえてきた声は鈴のような声だ。自分で言うのもなんだがかなりかわいい。……ってそうじゃない!なんだ、僕の身に何が起こっているんだ?
軽くパニックに陥りながら、ほとんど駆け足で進んでいると、気が付けば通路が大きくなっているようだった。小さいけれど明かりも見える。自然と歩みがさらに早くなっていく。
「つい……た!」
気づけば全力疾走していたらしい。息を切らしながらたどり着いたその場所は、松明で照らされた結構広めの場所だった。
「ここは……」
聞こえてきた声はさっき聞いたのと同じ、かわいらしい女の子のような声だった。
空間の真ん中には泉があり、中心には祠のようなものがある泉の水はかなり綺麗なようで、水面には周囲の風景を映し出している。そうだ、泉をのぞき込めば自分の姿をか悪人できる!
駆け足気味に泉に近づいてのぞき込む。そこには……。
「おん……なのこ?」
活発そうな褐色の肌に、透き通るような長い銀髪。そしてルビーのような真っ赤な瞳と子供のような小柄な体躯。
どうやら、僕はロリで美少女な所謂ドワーフに転生してしまったようだ。
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しばらく呆然として、少しずつ落ち着き始めたころ、誰かが近づいてくる気配がした。
「誰かいるのか!?」
声がしたほうを振り向いてみる。
「なんという……」
なんか筋骨隆々な大男とさっき見た自分と同じくらいの幼女が呆然とこっちを見ていた。なんだこれ。
「予言は……本当だったのね……」
幼女が何かを言っている。予言?いったい何のことやら。
「精霊種の未来が暗闇に閉ざされるとき、ドワーフの聖域に救世主が現れ、世界を救うだろう……おお、救世主様が降臨なされた!」
ゴリラがなんか言ってる。救世主?世界を救う??
「おお救世主様!」
幼女がついに僕に向かって拝み始めた。どうしろっていうのさ。とにかく話しかけてみよう。
「あ、あの~……」
「「救世主様―!」」
だめだ、二人とも一心不乱に拝んでいらっしゃる。とりあえず僕も混乱しているのでしばらく待とう。
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「落ち着いたかい?」
「「はい。見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありませんでした」
「うん、別にいいんだけどさ、実のところボクは状況が全く分かっていないんだ。だから色々と教えてくれると助かる」
「それは……」
「何から話したらよいのでしょう……」
ゴリラと幼女は困ったような反応をしている。うーん、とりあえず質問から始めてみようか。
「まず、ここはなんていう国なの?日本じゃあなさそうだけど」
「ニホン?聞いたことのない響きです。ここは精霊郷の西側。我らドワーフの都たるウェスタリアです」
「ウェスタリア?」
聞いたこともない。何県にあるんだよそこ。
「じゃあ次。救世主がどうのっていうのはどういうこと?」
「予言があったのです。我らの危機に救世主様が現れると」
「そしてあなた様の外見が、予言にあった救世主様の外見と一致しているのです」
「つまり、その救世主様がボクだっていうの?」
「「その通りでございます。救世主様」」
転生して早々、なあんだか面倒なことに巻き込まれたみたい……。
「じゃあ、その救世主っていうのがなんで必要なのか教えてほしい」
「それは……」
「話すと長くなります。ですので、詳しくお話しするために我らの族長にお会いしていただきたいのです」
「いきなりだね。ボク、この世界のことはこれっぽっちも知らないんだけれど……」
「存じ上げております」
なんでさ
「なんでさ」
声に出てた。
「予言にそうあったからです」
予言万能だね。
「ですので、この世界のことも含めて詳しくお話しするため、我らの族長に合っていただきたいのです」
「いかがでしょう?」
まあ、ここにいてもしょうがないか。
「……わかったよ。ただ、行きながら少しでもいいからこの世界について話してほしい」
「それはもちろんでございます」
「ではまいりましょう。我らの都、ウェスタリアへ!」
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しばらく歩いて洞窟を抜けると、今度は渓谷のような道を歩くことになった。
「まずはこの世界についてお話しましょう」
渓谷に出てしばらくすると、ゴリラがそう切り出した。
「たのむよ」
「この世界には我らドワーフを含む様々な種族が暮らしています。我らの他にはエルフ、ウンディーネ、サラマンダー、そして人族です」
「ふむふむ。ファンタジーだね」
「かつてはすべての種族が互いに手を取り合い、助け合いながら暮らしていました。しかし、大昔のある日、どのような理由でかはわかりませんが、人族とそれ以外の間で大規模な戦争が起こったのです」
「部族間の人口にそこまで差はないはずでした。しかしながらこの戦争に勝利したのは人族だったのです」
「明らかに戦力差おかしかったよね!?嘘でしょ!」
「本当のことです。そしてそれ以来、人族以外の種族は自らの領土に引きこもり、人族から隠れ互いに干渉することもなく住んできたのです」
人族すごい。何でその戦力差で勝てたし。
「それから数百年たった今でも人族に対する恐怖は色濃く残っており、我ら精霊族は細々と暮らしているのです」
そりゃそうだよね。そんな戦力差で負けたら人間怖くなるわ。
「精霊族っていうのは?」
「人族以外の4種族です。精霊郷に住み、精霊の加護を受けた種族のことです。もっとも、人族は我らのことを魔族と呼んでいるようですが」
幼女が答えてくれた。というか魔族って……。
「と、そろそろ見えてきました。あれが私たちの都、ウェスタリアです」
ゴリラが指す先を見てみると……
「おお!」
鉱山の街。ファンタジー風のゲームに出てくるような街が、眼前に広がっていた。
「あとの話は族長にまかせましょう。ささ、参りましょうぞ」
ゴリラに促されて街へ急ぐ。まだまだわからないことも多いし、混乱も完全になおったわけじゃない。けれど……
「なんだか、わくわくするじゃないか!」
生で見るファンタジーな風景に、ボクは何かを期待し始めていた。