襲撃
俺、札川翔太(この世界ではショータと呼ばれている)とネムリア、ヨナタンの旅は今の所すこぶる順調だ。旅の最初の目標地点は、「獣酋長の森」。ここを治める獣酋長レオニダスに会い、彼が持つエネルギーを分けてもらうのが目的だ。
俺が元いた世界に帰るためには、13ものエネルギーを使って放つ呪文、「マグニフィセント・テレポート」の発動が必要らしい。そのためのエネルギーを集めて回ろうというのが俺の旅のコンセプトなのだ。そこに、ウォリアー集落の長老による厚意で、若い2人のウォリアーを同行者として付けてもらった。彼ら同行者にとってこの旅は、自分を高める修行になるそうだ。
それにしても、旅というからもうすこし険しいものだと思っていたが、今の所そんなことはない。敵モンスターと戦闘になることは数回あったが、その戦闘もすべて一瞬で終わってしまっている。
「あらら~もうおしまいですか~?」
なによりネムリアが強い!あのおっとりした顔の女の子のどこにそんなパワーが眠っているのか。大抵の敵はネムリアの一刀のもとに斬り伏せられ、それで戦闘は終わってしまう。俺やヨナタンにほとんど出る幕はない。
生真面目な性格のヨナタンはネムリアに頼り切りなのが悔しくてたまらないらしく、料理や洗濯などの面から俺たちを支えてくれている。
「今日の戦闘でも私はネムリアに頼りきりで・・・申し訳ありません長老様ァ!!」
今彼は泣きながら玉ねぎを刻んでいる。泣いているのは自分への不甲斐なさからなのか、それとも玉ねぎのせいなのか。というかこの世界の玉ねぎも切ると泣けてくるのか。若くてイカツイ男が泣きながら料理をしている絵はなんとなく面白い。
そんなわけで、戦闘方面はネムリア、それ以外はヨナタンが中心となってくれているため、俺のやることはそんなにない。今の所、2人と同行しているだけといっても過言ではないだろう。この世界にも慣れ始めてきたし、何か自分も貢献できないか、というのが俺の最近の悩みだ。
「そろそろ日が暮れてきたな。今日はここを寝床としようか。」
ヨナタンが言った。森のような場所に入ってから2時間程歩いただろうか。ヨナタンによると、この森は相当広いらしいが、この森をぬければいよいよ獣酋長の領地に入るそうだ。
「今日はけっこう歩きましたね~。早く眠りたいです~。」
そういってネムリアは懐から一枚のカードを取り出し、掲げた。カードから光が走り、次の瞬間には何もなかった森の広場の上に、木造の建物が立っていた。
上では説明していなかったが、これが俺たちの旅を楽にしてくれる大きな要因、「簡易居館ウォリアシオン」だ。ウォリアー集落のなかで魔法に長けた者が最近開発したものらしく、カードの中に一軒の家が入っているのだ。家を外に出すにはカードを掲げさえすればいい。このようにして俺たちは旅の中でも安住を確保しているのだ。おそらくこのウォリアシオンも、次の弾が発売されるときには俺の世界でもカードとして世に出ているのだろう。
「今日は俺が料理を作るよ。ネムリア、ヨナタン、なにか食べたいものはあr」
普段2人に頼りっきりな俺が料理を買って出ようとした瞬間、俺は辺りの空気が変わったことに気づいた。重い。胸が締め付けられるようだ。こんな感覚はこの世界でも、元の世界でも味わったことがない。
「・・・む、これは・・・」
「誰か来たみたいですね~」
俺以外の2人も良い異変に気が付いたようだ。2人は剣を抜き、身構える。
「こんなところに獲物が3人も・・・たまには森に散歩に行くものね・・・」
押し殺したような声と同時に、その影は上から降ってきた。俺はその姿を見て、その敵のパワー、能力を瞬時に把握していた。俺はこの世界にやってきてまだ僅かしか経っていないのに、なぜわかったかというと・・・
「シ、シャロ!?」
「暗黒将軍シャロ」。忘れもしない。俺がカード化してこの世界に来る前、俺はパックを開封していた。そこで引き当てたカードが、目の前にいる、このシャロなのだ。
5エネルギー、パワー6000。1ターンに一度、自身のパワーを1000下げることで、3エネルギー以下のモンスターを墓地から蘇生できる。とても優秀な中量級モンスターといった感じで、元の世界ではトップレアだった。あと、カードとしてはイラストがいいということだったが、やはり現実で見てもシャロはとてもかわいい。長い金髪と、ボンテージのような服がよく合っている。モンスターなので年はよくわからないが、20歳は超えていない見た目だ。
「ショータ殿、ヤツを知っているのか?」
「お友達かなにかですか~」
そう聞いてくる2人に、元の世界でのカードとしての彼女は知っていると伝えた。
「私はあなたのことなんて知らないわ!これから魂をいただく人のことなんて、どうして知る必要があるのかしら!?」
そういってシャロが左腕を空に掲げる。次の瞬間には禍々しい剣が彼女の左腕に握られていた。剣を握ったシャロは翼を翻し、俺たち3人に向かって滑空してきた。
「おやおや~乱暴は、いけませんよっ!」
いち早くシャロの攻撃に反応したネムリアが、自分の剣を抜いて受け止める。口調からは考えられないような反応の速さだ。剣を交わした二人は、その衝撃で同じくらいの距離を後ろに吹き飛ばされた。
(シャロとネムリアは互角・・・。こっちには他にヨナタンと俺がいる。俺のパワーはたった1000とはいえ、いないよりはましだろう。俺の能力は使わなくても、なんとかこの場を切り抜けることができるか?)
そんなことを考えながら、チラと横にいるヨナタンを見る。なんだか表情がものすごく暗い。恐ろしく冷や汗をかいている。確かに今までになく強い敵だが、こっちにもネムリアがいる。そこまで絶望的な表情になるものか?
「ふ~、なかなかお強いですね~。それではヨナタン、ショータさん、」
体勢を立て直したネムリアが俺たち二人に声をかける。おそらく、「私が正面からいくからあなたたちはその隙に」、的な戦いの指示だろう。そう思って俺は耳を澄ませた。
「後はよろしくお願いします~・・・zzz」
彼女はそういうと、近くにあった木に寄りかかって眠りについてしまった。
綺麗な女の子が森で寝ているのはとっても絵になるな・・・!?寝ている!?
いやいや、俺の見間違いだろう。仮にも命のかかっている戦いの最中に眠れるはずなんてない。大体この寝つきの良さはなんだ。の○太くんですら座布団を枕代わりにしなければそこまで早く寝付けなかったはずだ。だからあれは作戦、寝たふりか何かですよね!そうですよねネムリアさん!ネムリアさん!?
「・・・『眠れる剣士ネムリア』。それがアイツの正式名称だ・・・。3エネルギーで6000という破格のパワーを誇る代わりに、アイツは莫大なデメリットを背負っている。1度攻撃したら、その後2ターンはああいうふうに眠ってしまって、攻撃できないんだ・・・」
ええええええええ!?
さっきのヨナタンの絶望的な表情はそのためだったのか。そりゃ絶望するさ。チームのエースが戦闘中に寝ちまってるんだから。
「っく、クハハハハハ!ちょっとは骨のあるやつかと思ったら、まさかすぐに寝ちゃうなんてね!そのままずっと寝かせておいてあげるわ!」
こっちのピンチを悟ったシャロが高笑いする。ネムリアの能力が本当なら、ここは俺とヨナタンの2人で凌ぐしかないらしい。少なくとも彼女が起きるまでの2ターンの間は。
「よ、ヨナタン、ところでヨナタン自身のパワーってどれくらい・・・」
ネムリアに隠れて何もしていなかったが、筋骨隆々なヨナタンだ。低くないパワーをもっているだろう。
「な、なんとも言いいくいのだが・・・私のパワーは500だ・・・」
ごごごごごご五百ゥ!?運動神経平均以下の高校生である俺のパワーが1000なのに、ヨナタンのパワーは500!?その筋肉はハリボテかなにかかよ!?バーベルは裏切らないんじゃなかったのかよ!?
「今更相談したって無駄よ!大丈夫、一瞬で楽にしてあげるから!」
シャロが再び翼を開いて滑空してくる。
あちらはパワー6000。こちらは二人だがパワー1000と500。なかなかに絶望的な状況だ。こうなったら能力を使わないなんて言っていられない。俺は覚悟を決めて、自分の剣を抜いた。




