カードゲームの世界へ
俺、札川翔太のテンションは、いよいよ天にまで届くのではと思われるほどに高くなっていた。太陽熱を反射したアスファルトが空気を歪ませている8月某日、本日が俺の17回目の誕生日なのだ。目の前には誕生日プレゼント、大人気カードゲーム「ファイトマスターズ」の最新弾1ボックスセットが置かれている。
ボックスセット1つの値段は4000円を少し超すくらいだ。17歳にもなったヤツが、4000円程度の商品でここまで喜ぶかとツッコまれるかもしれないが、これは仕方のないことだ。事情がある。物心つく前に両親を亡くしてしまった俺は、いまは高校の寮で一人暮らしをしている。頼れる親戚も少なく、目下の収入は自分で稼いだバイト代のみ。要はものすごく貧乏なのだ。だからこの誕生日プレゼントも、自分のお金で買ったものだ。自分へのご褒美といった方がいいかもしれない。
スマホのカメラでボックスの写真を撮った後、恐ろしく丁寧な手つきで箱を覆っているビニールを剥がす。何しろ箱の開封なんて初めてだ。嫌でも緊張してしまう。箱を開け、最初のパックを手に取る。全30パック、鬼が出るか蛇が出るか、さあ開封の始まりだ。
「!!うおおおおおお!シャロだあああああ!!」
最初のパックから、いきなりレアカードを引くことができた。
「暗黒将軍シャロ」。この弾のトップレアの一つだ。パワーや効果も強いが、なによりこのカードには恐ろしい長所がある。イラストアド。どちらかと言えば硬派なイラストが多いこのゲームにおいて、可愛い金髪の女の子であるシャロのイラストは珍しかった。また、デーモンタイプのモンスターだけあって、その人を見下すような目つきがいいという人もいるとかいないとか。
いきなりレアカードを引くことができた。今日は幸先が良い。勢いに乗ってどんどん開けていこう。
ふと俺は首を傾げた。2パック目から出てきたカードの内の4枚目、このカードには絵柄と効果が全く書かれていない。ファイトマスターズのカード特有の縁取りはあるのだが、絵は真っ白だし、効果テキストやパワーも見当たらない。
「不良品か・・・?」
首をかしげながらそのカードを見つめてみる。その真っ白な絵柄に、思わず吸い込まれそうになる。不良品はとりあえず放っておいて、次のパックに行こうともおもうのだが、なぜだか俺はそのカードから目が離せないでいた。
次の瞬間、そのカードが光った。そして俺は意識を失った。
「・・・!?」
目が覚めると、そこには全く別の光景が広がっていた。平原だ。俺は当たりを見渡して、次の瞬間目に入ってきたものを数秒みつめ、自分の感覚器を疑った。
ファイトマスターズのカードに書かれている、モンスターたちがそこにいた。中には俺が持ってるカードに書かれたヤツもいる。彼らはウォリアータイプ、つまり人型の戦士のような見た目のモンスターたちだった。彼らの険しい表情を見ると、まるでこれから戦闘が始まりそうな雰囲気だ。
そんな俺の洞察は、すぐに当たっていることが分かった。平原の向こうの森から、また別のモンスターたちが飛び出してきた。出てきたのはビーストタイプ、動物に似た姿を持ったモンスターたちだ。アイツらの内何匹かが書かれたカードも、確か俺は持っていたはずだった。
「GRRRRR・・・」
「オオオオオオ!!!」
ウォリアータイプとビーストタイプ、二つの集団の距離は段々と詰まっていき、戦闘が開始された。初めて見る鬼気迫る戦闘、闘争に、俺はただ口を開けてみているしかなかった。ヒト型のウォリアータイプと、動物型のビーストタイプとの戦闘は、昔歴史の授業で見た縄文時代の狩りのビデオを思い出させた。
「GGYAAAA!!!!」
「ハッ!セイ!トウリャー!」
しばらくすると、なんとなく戦闘の情勢が呑み込めてきた。いまのところの戦闘は全くの互角と言ってよかった。双方の負傷者(ビーストタイプのほうは負傷した動物?)の数はほぼ同じだった。しかし、このまま戦闘が続くと、ビーストタイプの集団の方が有利なのかとも思われた。ウォリアータイプのモンスターの中には、息が切れ、戦闘開始当初の動きからは数段落ちてしまっているものがいた。それに対し、ビーストタイプの方は動物的な動きで、スタミナ切れを全く感じさせない。現に少しずつ、戦況はビーストタイプの方に傾いてきているようだった。
さて、このままビーストタイプの集団が勝ってしまうと、いろいろマズいことになる。目が覚めた俺が最初にいた場所は平原、ウォリアータイプが戦闘前に陣地にしていた場所だ。そしてこれはさっき気づいたことだが、俺の腰には細い剣が差されている。これらを総合すると、俺はウォリアータイプのモンスターとしてこの世界に飛ばされたようだった。もしこのままビーストタイプのモンスターが戦闘に勝ってしまうと、俺も襲われる可能性がある。
先ほどまでの激しい戦闘を見ていると、自分が加勢したところでどれだけの助けになるかは分からない。むしろ足手まといになる可能性だってある。でも俺は、何もしないままやられることは嫌だった。実際に戦闘が行われている場所からは20メートルくらいの場所で、俺は人生で初めて剣を抜いた。




