B9F 魔法
「何でこんな大掛かりな迷宮を作ったんだ?」
曲がりくねった道を進みながら訪ねてみる。
「戦うためさー。世界と。」
ニヤリ、と笑ったような気がした。実際は無表情なのだが。ダルは多分、感情豊かな娘だと思う。ジョークも言うし。
しばらく進むとダルが振り返り、口元に人差し指を当てて、「しー。」とやってきた。
「あそこに見えるの、わかるー? 静かにね…。」
そっと角から顔を出すと、少し開けた小部屋に白いもこもこの群れが見えるのがわかった。
「お、あれはうさぎかな?」
「そうそうー。うさぎ。」
「うさぎがどうかしたの?」
「魔法、みせてあげよっかー。」
言うやいなや、見る見るダルの雰囲気が変わっていく。
でた。本気モード。
でも相手うさぎなんだけど、どうするつもりだろう。
「 *聖なる糞女神ヴェルトのビッチよ、力を貸し給え* 」
なにこの詠唱?てか口わっる。
「 *降り注ぐは三つの元素、二では少なく、四では多い、まして五などはもってのほか* 」
うさぎ達の上空に魔法陣が現れる。
「 *聖なる手榴弾* 」
カラカラカラと小部屋中に降り注ぐ無数の小型の球体。
「角に隠れてー。あぶないよー。」
ちょうど3秒くらい経過したあとに、ずどーんと強烈な閃光。遅れて肌が焼けるような爆風が通り過ぎた。
「ギャアアア!!」
「ごめんー。数増やしすぎたー。ヒール。ヒール。ふーふー。」
軽く火傷していた俺の腕にダルの息が吹きかけられると、すっと痛みが引いていった。
これも魔法だろうか、すごい。
「早く覚えたいでしょー?がんばって上めざそうねー。」
「お、おう…とりあえずはヒールだけでいいかな…」
黒くなってしまった元うさぎ達の小部屋に入る。心なしか広くなっている気がします。
「むごいことを…」
「うさぎって危険生物なんだよー。」
部屋の中央に豪華な装飾の宝箱が置いてあった。
「どうするー? 開けるー?」
「もちろん! お宝ゲットだぜ!」
任せてーというとダルが先に開けにいってしまう。俺も開けたかった…。
ヒュンッ、と唐突に。
一本の矢がダルの頭に刺さった。
「グエー。」
その場に倒れるダル。
「おい!? ダル!? しっかりしろ!」
俺を一人にしないでくれ……もうあんな目には…
「あいったー。」
起き上がり頭から矢を引き抜くダル。
「不死王の特殊技能。自動回復レベル2。」
ゆっくり振り返ると、血塗れの顔でドヤ顔しながら教えてくれた。
なんでもありかな?
「ほらお宝だよー。こっちおいでー。」
「お、おう…」
宝箱の豪華な内装に鎮座していたのは一振りの剣?っぽいシルエットの何かだった。