エレベーター
ウィィ…ン。
二人を乗せたエレベーターのドアが閉じ、ゆっくりと上昇を始めた。
「迷宮とは一体…。」
「実際、階段で上がろうとするとすごいよ? 位置バラバラだし罠とかなぞなぞとか一杯用意してあるからね!」
エレベーターの窓越しに外を見ると、階層ごとに天井の高さが違っていたり、壁のデザインが違っていたりと中々凝っているのが分かった。中には青空が見えるフロアもあった。なんで?
正直、年甲斐もなくワクワクしている。これは俺の大好きなファンタジー世界だ。ネッサの思惑はともかく、つまらない現実世界から遠ざけてくれて感謝している。
「トオルも疲れてるみたいだったしね!私もこの世界に興味があったしでWIN-WINなんだよ?」
「ありがてえ…。もう俺の身体あんまり未練ないから好きにしていいよ」
「あははは! まだしばらく傷心中だねえ! 大丈夫、悪いようにはしないから」
「ねえー。アニメってどんなのー?」
「おう、今流行ってるのは魔法少女モノでな……」
……
女の子おじさんとロリータ不死王と天才魔法使い(篭手)の会話は途切れる事なく続く。
あれ。俺、こんなに長く人と話したのって何年ぶりだっけ。
凍りついていた心臓が、止まっていた時間が、ゆっくりと動き始めているような感覚。むず痒い心地よさを享受しながら、言葉を紡いでいく。
チーン。
不意にエレベーターが上昇を止める。階層の表示は地上を指していた。
結構長かったな。
「おっ、着いたみたいだな。いざゆかん冒険の旅!」
……。
あれ?
隣にいたはずのダルの姿が見当たらない。
「お、おーい? ダル? どこいった?」
自分の声だけがカゴ内に反響し、元からそこには誰もいなかったのかのような静寂が充満した。
「ネッサ?」
篭手も光を失っている。
ガゴン、とカゴが揺れると。
再び、下降を開始した。