表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/43

始まりの終わりに

 

 ゆっさゆっさ。


「うおーい。ここで寝たらしぬぞー。」


 ゆっさゆっさ。

 ダルに揺らされて目を覚ます。

 つらら石の天井、壁には緑の苔。少し肌寒さを感じる。

 どうやらここは洞窟の中みたいだ。


「ん…あれ、銀河鉄道は?」

「なにそれー。」


 覚えてないのか。

 周りを見ると地下鉄行きのマンホールも無くなっている。

 うーん。夢だった?


「夢だと思った方がいいです」


 黒豚が反応した。ってことはやっぱ夢じゃないのか。なんていうだろう、アハ体験みたいなやつ?

 よく見ると黒豚の額に赤い宝石が埋め込まれていた。


「黒豚殿、雰囲気変わった?」

「これはお土産です」


 何だか嬉しそう。普段から淡白なムラにしては珍しい反応だ。

 しかしお土産か、やっぱり誰かと会ってたんだな。


「もしかして、夢の中で女神に会った?」


 ダルが疑問符を飛ばしまくってるけどごめん、もうちょっとだけ耐えてくれ。


「いえ。あれは女神ではないです。もっと上位の……やばいやつです」

「やばいやつなのか」

「やばいやつです」


 なんか露骨に説明端折られてるようでモヤモヤする。いつも簡潔な言葉選ぶくせに。


 まあいいか、まずはこの窮地を何とかしなければ。

 今俺たちがいるのは入り口を塞がれた地下深い洞窟。

 なんとか出口を探さないといけない。


「トール。出口あったぞー。」

「は?」


 少し前を見に行っていたダルが、帰ってくるなり妙な事を言った。

 出口ったって、もっと上の方目指さなきゃ見つからないはずなんだけど…。


「とにかくこいこいー。すごいぜー。」


 言われるままに着いていく。

 すると、10秒も歩かないうちに突然、巨大な出口が現れた。


「なんだこりゃ…地下じゃないのか?ここ」


 外はもう夜になっていた。月明かりが雪に反射して不思議と明るい。

 そして吹雪はすっかり止んでいた。


 ゆっくり外に踏み出してみる。

 目の前には雪以外何もなかった。高くも低くもない、平坦な雪原。地平線がどこまでも続いている。

 あの険しい山脈はどこに行ったのだろうか。


 振り返ってみると更に異様な光景が目に入った。

 山脈が途中から、すっぱりと切断されているかのように終わっていた。

 カットされたケーキのようである。今出てきた洞窟の出口は、カットケーキの中段のイチゴみたいなものだろうか。洞窟出口の断面なんてめったにお目にかかれないと思うけど。


「とんでもない手抜きですね」


 手抜きか。確かにしっくりくる表現だと思った。

 この山は半分ハリボテみたいなものだ。


「もしかしてここが最果て?」

「そうですね。もう少し雪原側へいくと女神がいると思います」


 もう少しと言われても、見える限り雪以外何もないんだけど。

 まあムラが言うならそうなんだろう。

 ふとダルと目が合う。視線をそらさずこちらをじーっと見つめている。


「はらぺーにょ。」

「とうがらし?」

「お腹が空いたと言っています」


 すごいぞムラ。通訳まで出来るようになったのか。


「まあ夜になってしまったし、洞窟まで戻ってキャンプしようか」

「おけー。」


 俺はテント張り、ダルは焼石作り、黒豚は照明。

 誰が指示するでもなくそれぞれの役割をこなしていく。


 とんてんかん。ぼぼぼ。ぺかーん。


 あっという間にキャンプの設営が終わった。

 輝く焼石を囲みながら皆でマンガ肉を食べる。


「はやいねー。」

「二回目ともなれば俺たちも手慣れたもんだな」

「そういえばネッサは呼ばないんですか?」


 すっかり忘れてた。

 夜だけど大丈夫かな、一応やってみよう。


「もしもしハローネッサ」

「お…おぉ……はろー」


 一応繋がったけどなんだか元気がない。何かあったんだろうか。


「ネッサー?だいじょぶー?」

「うん…朝から土木のバイトしてて……」

「んぐっごほっ」


 マンガ肉が喉に詰まる。異世界に転移までしてバイトしてたのか。なんてシュールなんだ。


「笑うなぁ…こっちは何をするにもお金が必要なんだよぉ……」

「うんうん、わかるわかる」


 苦しいほど分かる。貯金あんまりなくてごめんね。

 失業手当とかで数カ月分の生活費は余裕であったと思うけど、ネッサの事だから趣味に全力なんだろう。


「ネッサー。明日女神に会うよー。」

「おお! 早かったね」

「早かったのかなぁ、今日一日がめちゃくちゃ長く感じたよ」

「遭難してました」



 ネッサの土木バイトと俺たちの遭難自慢で盛り上がる夕食。

 二回目のキャンプも何事もなく、楽しく過ごす事ができた。





 そして夜が明けた!





 気持ちいいくらいの快晴。風も穏やか。

 昨日の出目が嘘のように、俺たちの出発が世界に祝福されている。


「では、山に敬礼!」

「けいれいー。」

「ありがとうございました」


 3人でぱっくりと割れた山にお辞儀をする。


「まわれー、右!」

「くるり。」

「まわりました」


 そして、永遠に続く雪の平原に向けて歩き始めた。

 いざ歩いてみると、積雪はせいぜい足首程度だったので難なく進むことが出来る。




 しばらく歩き続けると、段々と雲行きが怪しくなってきた。いつの間にか雪が降り始めている。


「これ吹雪くやつでは。いったん戻る?」

「もう近いです。進みましょう」

「本気かよ…」


 地図も何もない、ムラだけが頼りなのだ。言う通りにそのまま前へ前へ進んでいく。



 悪い事に予想は的中し、猛吹雪になっていった。

 容赦無く身体にぶつかる白い風。

 どこを向いても白、白、白。

 雪しか無い。


 少しずつ現在の進行方向が分からなくなってくる。


 ふと、後ろからぽんぽんと肩を叩かれた。


 ダルだと思うが、今振り向けば完全に方向を見失ってしまう。



 前へ歩きながらダルを感じる。多分、本人は勇気づけているつもりなんだろう。


 こちらはそれ以上の効果があった。ダルが叩いてくれているから進行方向が分かるのだ。


 ありがとうと言いたいが声は吹雪にかき消されて届かない。ならばしっかりと前に進むのみだ。


 ごつん。


 何かにぶつかった。

 視界はただ白いだけで何なのかよくわからない。


 ふと、気付けば右手に魔剣モードのムラが握られていた。赤い宝石が鈍く光っている。


 ムラがこのタイミングで剣になるって事は何か意味があるはず。

 剣に出来ることと言えば斬る事だ。他に用途は思いつかない。

 何を斬る?ここにいるのは俺とダルくらいで、あとは木も岩もない広大な平原があるだけのはず。


 あれ?俺は何にぶつかったんだ?


 ぽんぽん、と相変わらず一生懸命に俺を叩いてくれるダルは、変わらずに背後にいる。


 左手を前に伸ばしてみる。


 ぺた。


 平べったい何かが目の前にある。

 これを斬れって事なんだな?いいのか?斬っちゃうぞ?


 特に口に出したわけではないけどムラの宝石がめちゃくちゃ点滅を繰り返している。

 よし斬ろう。


 右手を振り上げ、


 ぶんっ。



 目の前の()に向かって振り下ろした。



 ぱりぃん。





 吹雪が完全に止んだ。



 雪があった地面の代わりに黒檀の床の上に立っていた。

 淡い黄色の照明が部屋全体を照らしている。

 空調が行き届いているのか、とても暖かい。


 巨大な水槽の前に立っていた人が目玉をまん丸にしてこちらへ振り向いていた。


「ええ!? あなたたち誰? 一体どこから…」


 目を見張るような長い銀髪。真っ白なワンピース。そして真っ白な翼が背中から生えている。

 光を照り返す白色が彼女のシルエットをあやふやにしている。簡単に言うと眩しい。


 一目見て女神だと分かった。


「やいやい。ヴェルトだな。かくごー。」

「いやちょっと待てダル。順序があるだろ、ダルのは最後にしよう」


 いきなり殴りかかりに行こうとするダルをなんとか静止する。


「えー…? 勇者をやっつけた子達…? どうやってここに…」


 なんかやたらキョドってる。ぜんぜん女神っぽくない。


「こんにちは。ヴェルト」


 黒豚ムラが前に出る。なんだかこいつの方が威厳あるきがする。


「あー! デバッガ! 持ち場は…?」

「嫌になりました。辞めます」

「えぇ~~…」


 頭を抱えはじめる女神様。

 どうしよう、伝えたいこといっぱいあるんだけどタイミングが分かんないぞ。


「ヴェルトはあんまり要領が良くありません」


 うわ、本人の前でよく言うなぁ。俺たちもいるのに。


「ちょっ! あなた上司になんて事言うのよ…皆見てるでしょ」


 あ、それ今俺も思ったよ。シンパシー感じちゃうね。

 しかし上下関係があったのか。


「ふふふ。この宝石が分かりますか?」

「えぇ!? 会ってきたの…?」

「はい。今の勇者システムは変化が乏しいし時代遅れとか言ってました」

「そんな…」

「あと単純に作り込みが甘い。怠けるなって」

「あわわわわわ……」

「さあ、交代の時間です」


 完全に置いてけぼりな俺たち。多分、下克上的な事が起ころうとしているのは分かった。


「あ、あのお話だけでもいいですか?」


 そんな雰囲気じゃないけど一応聞いてみる。


「勝手に進めてしまってすみません。クワハの悲願は僕がなんとかします。説教とか殴ったりは向こうでお願いします。僕はすぐにでも怠惰な女神様の代わりにワールド再生成に取り掛かりたいので」


 淡々と話したあと、ムラの宝石が一際強く輝いた。

 光の奔流が俺たちを飲み込んでいく。


「あーれー。」


 寄せては返す波のように光が体を揺らしている。

 暖かくて、優しい感覚。



 ざざーん。


 ざざーん。




 目を覚ますと、砂浜で寝ていた。

 温かい水が手に当たって気持ち良い。

 隣にいるダルも目を覚ましているようだ。寝っ転がったまま空を見ている。


「ダルどのー、生きてるかー」

「おうともー。」


 二人で空を見ながら生存を確認する。


「よし、起きるぞー」

「あいよー。」


 ゆっくり身体を起こして周りを見渡す。

 まず前方。青い空、青い海、地平線。

 それから後方。ざわざわと揺れる木々、森。看板が立っていて大きな文字で「ハワイ」と書いてある。

 横には白い鞘の刀が落ちていた。


 ダルが刀を拾い上げる。


「なによこれー! 私が何したのよー! 」


 刀が泣きそうな声をあげている。ムラと違ってとても感情的だなぁとなんとなく考えていた。


「えい。ちょっぷちょっぷ。」


 なんとなく刀の正体が分かったのかダルがチョップ攻撃を始めた。


「ぎゃー! いたいいたいやめてー! あやまるからー!」


 とりあえず現状に頭がついていかないからネッサに連絡しよう。


「もしもしハローネッ…」


 籠手が…。


「ないねー…。」



 ざざーん。



 ざざーん。



 寄せては返す波。



 すすり泣く白銀の刀。



 ここは無人島。



 俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ

この話は、これで終わりです。


ここまでお読みいただきありがとうございました!

また、一ヶ月間追いかけてくれた方、とても励みになりました。ありがとうございます!


近いうちに設定を少し引きずった作品を連載するかもしれません。今度はどっしり構えてのんびりと。

まあ、それはまた、別のお話です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ