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だるだる洞窟探検隊

 

 みのむしの夢を見る。

 ゆっさゆっさと揺れる緑の世界。

 今日も晴天、風の吹くまま、なすがまま。

 小さなお隣さんに何度かぶつかる。

 ごめんねごめんね。

 いいのさー。ぽかぽか暖かいからー。



 ゆっさゆっさ。


「起きろー。寝すぎると死ぬぞー。」

「んあー」


 ダルが寝袋ごと俺を揺すっていた。これはこれで気持ちいい。あんな夢も見るわけだ。

 名残惜しさを感じながらもぞもぞと寝袋から脱出する。


 それにしてもダルはやっぱり早起きだ。それとも俺が寝坊助なんだろうか。

 テントから出て洞窟の外を覗いてみる。


 外の明るさは何だか薄ぼんやりとしていてはっきりしない。

 冷たい風と雪が寝ぼけ顔にあたり半強制的に覚醒を促す。


 というか。



 びゅるるびゅおー。



 吹雪いていた。


「これは一回休みかな…」

「吹雪の中を歩くのは自殺行為です」


 ムラも起きていた。そもそも寝るのかわかんないけど。

 ネッサは寝てるんだろうなぁ。一応声かけてみるか。


「ハローハローネッサ、起きてる?」


 反応無し、寝息さえ聞こえない。もしかしたら留守かもしれない。

 うーむこうなるとやる事がないぞ。


 外からはごうごうと雪が吹き込んでいる。


「よし、こういう時は体力温存。二度寝しよっか」


 すごすごとテントに戻り、みのむしモードに心を切り替えようとするとダルが袖を引っ張った。


「まってー。洞窟探検しよー。」


 元気いっぱいなダル先生。

 あまり気にしていなかったが、今いる部屋から更に奥の方に続く穴があり、吹き込む風もそちらへ流れている。


「レアアイテムがあるかもしれません」


 ムラもノリノリである。こうなると俺だけ寝るわけにはいかないよね。


「よーし、行くかー! 荷物片付けるの手伝ってくれー」


 皆寝袋やテントをたたんでいく。ダルは早く洞窟探検をしたいのか、かなり手際がよかった。

 朝食を済ませ、すっかり乾いたコートを着込む。


「ではいざ秘境とお宝をもとめて! だるだる探検隊、しゅっぱーつ」

「おー。」

「楽しみです」


 黒豚に照明をかけてゆっくりと部屋奥の道を行く。

 まあ俺も男の子なのでまんざらでもなかった。やっぱロマンだよねこういうの。


 壁にはぼんやりと緑色に発光する苔がところどころに生えており、洞窟の輪郭がよく分かるので歩きやすい。

 天井は結構高めで、つららのような石がいくつもこちらへ手を伸ばしている。


「あれ降ってきたら痛そうー。」

「多分そう簡単には落ちてこないと思うけど…」


 ごごごごご。


 突如地響きが鳴り、洞窟全体が揺れだす。


「うお! 地震だ」

「あわわわわ。」


 ずどっずどっずどどど。


 壁際で体を丸めてやり過ごす。少しずつ振動が無くなっていき、静寂を取り戻した。


「トール。うしろ見てー。」


 体を起こし、来た道を振り返る。


 天井のつらら石が無数に突き刺さって道が無くなっていた。


「まじかよ……」

「遭難ですね」

「まかせてー。*火の」

「待ってダル! 崩落しちゃう」


 咄嗟に静止する。

 今まさに崩落が起きたのだ。刺激を与えて同じことが起これば生き埋めになる可能性だってある。


「とりあえず進むしかないな」


 俺たちは再び前に歩き出した。



 ─




 ───




 ────





 どれくらい歩いただろうか。外の明かりがないから時間の感覚も分からない。

 今思えば俺があそこで皆を止めて、吹雪が止むまで待てばこんな事にはならなかったはずだ。

 頭上のつらら石が地獄へようこそと言わんばかりに手を伸ばしている。


「地獄は上にあり、か。ふふふふ」

「だいじょぶー?」


 ダルに覗き込まれて、はっとした。

 いかんいかん弱気になっては。過ぎた事を悔やんでも仕方がないのだ。

 全員無事に脱出するために、今はただ歩くのだ。


「ダル。ありがとう」


 前を歩くダルの両肩に手を乗せる。これだけで心が安らぐ。


「ふふー。私がいるから安心したまえー。」


 ダルも気を良くしたのか軽い足取りで進んでいく。

 うーん頼もしい。でも本当は守る側でいたいなぁなんて思ったり。



 気力が湧いてきたので、今度は今まで気付かないフリをしていた事について考えてみる。

 それは現在の位置である。


 方向感覚はとっくに無くなっているので、北に進めているかどうかは正直分からない。

 では高度はどくれいなのか。

 さっきのキャンプ地点からは一度も上向きの斜面を歩いていない。

 それどころかどんどん下降していて、滑り落ちるような道もたくさんあった。

 という事は、ここは間違いなく山の地下である。


「上に向かう道を探す必要があります」

「今までずっと一本道だったんだけどな」


 人が通れるようなところは全て下り坂だった。

 今俺たちがどれほどの地下にいるのか検討もつかない。

 あとどれくらいの上り坂を歩けば地上に出られるのだろうか。そもそも出口があるとも限らない。


 ぱんっぱんっ。


 顔をはたく。弱気になるために考えている訳じゃない。分析するのだ。

 アレをやってみよう。


 ぺろ。


 人差し指を舐めて空中にかざしてみる。

 出来る冒険者がやるアレだ。


「何かわかったー?」

「うーん、下からぬるい風が吹いてる?」


 地下にいるのに下から風が吹くなんて事があるのだろうか。空気の循環的なやつなのかな。

 何にせよ風を感じるということはそこが道ということだ。やはり歩き続けるのみである。



 しばらく下り続けると、平らな地面のところでダルが唐突に足を止めた。


「おー。なんだこれー。」


 もう見慣れた岩の下に鉄の蓋のようなものが少し顔をのぞかせている。

 よく見ないと気付かない発見だった。


「こんなところに人工物? ちょっと岩動かそうダル」


 ごろ…ごろごろ…ごろ。


 鉄の蓋が全貌を現す。

 錆一つ無い、のっぺりとした丸い鉄の蓋。大きさや形などは、ぱっと見マンホールだ。バツ印が向かって左上からいくつか刻印されて、右下には不自然な余白がある。


「これは…解析できません」


 ぺたぺたと触っていたムラが告げる。

 ムラの特殊能力的なやつでも分かんないらしい。


 よく見ると蓋の端っこのところにボタンみたいなのがついていた。


「どれどれ」

「ポチッとなー。」


 ダルに先を越される。


 うぃーん。


 突如鉄の蓋が八枚に割れ、それぞれ壁に吸い込まれていった。


 ぶおおー。


 ぽっかりと空いた穴からは生暖かい風が強めに吹いている。

 梯子が穴の下方向へ伸びているが、終点が闇に飲み込まれていて確認できない。


「ごくり…」

「秘境だー。」

「そこはやめた方がいいと思います」


 さっきまでノリノリだった黒豚が何故か及び腰だが、俺たち二人は行く気満々である。すぐそばにロマンがあるのだ。


「じゃ、じゃあダルがさっきボタン押したから今度は俺からな!」

「えー。れでぃふぁーすとー。」


 問答無用で梯子を掴む。ワクワクが止まらない。

 照明魔法をかけた黒豚に抱きついてもらってゆっくりと梯子を下る。


 こつーん。

 こつーん。


 吹き上げる温かい風が冷えきっていた身体に染み渡る。


 こつーん。

 こつーん。


 結構長いぞ、まさか降りた先がマグマなんて事ないよな。


「ダルー、ついてきてるかー?」

「すぐ上だよー。止まると踏むぞー。」


 安心した。ダルがいないと俺は一瞬でダメになると思う。



 こつーん。

 こつ。



 地面に到達する。



 振り向くと黒塗りの扉があり、赤い文字で非常口と書かれていた。

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