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ゆきキャン▲

 

 クワハと別れて三日が過ぎた。


 青い空に澄んだ空気。

 荷馬車に揺られる俺ダル黒豚。


「みてみてー。雪だぞー。」


 首を伸ばして遠くを見ると、真っ白な地面と茶色の土の境界線がくっきりと見えた。

 境界線は見える限り真っ直ぐ横に伸びている。


「あの白いとこから雪です」


 誰かが思い付きで定規を使って一本線を引いてみた的な光景である。


「なんかメチャクチャ分かりやすいな…」


 だいぶ空気も冷えてきたので、クワハからもらった毛皮のコートを着込む。もこもこして温かい。


「ダルも着るぞ。ほら、腕出して」


 ダルの分のコートをせっせと着せていく。

 何だかダルという娘は保護欲をかきたてるのだ。俺より強いはずなんだけど。


「あっ! いいなー! ヒューヒュー!」


 はっとした。

 ネッサに監視されている。これは今後うかつに動けないのでは。

 ダルに見えない分厚いバリアが張られてしまったような気分になる。

 うーむ…何か対策を講じたいところ。


「ネッサ、これなーんだ」


 後ろ手にみかんを持って聞いてみる。ちょっと意地悪かもしれないと思った。


「みかん! あ、それよりトオル見て、雪Pちゃんだよ珍しい!」

「え?どこどこ?」

「ほらあの境界線のとこ行ったり来たりしてる!」


 ほんとに居た。反復横跳び的な動きを繰り返している。

 っていうかどういう仕組なんだこの篭手電話。


「(トオル、これからダルとの触れ合いは邪魔しないようにするよ! ごめんね!)」

「うへぇ」

「トール。どしたのー。」


 頭の中に直接声が聞こえてきた。なんでもありかな。




 そうこうしてるうちに荷馬車が止まる。


「おうここまでだ、 降りてくれチャンピオン。楽しかったぜ」

「ありがとー。」

「おじさん、たくさんお世話になりました! またどこかで」


 荷馬車のおじさんは俺たちにみかんを渡すと、背中越し手を上げながら去っていった。



 目の前には雪と土の境界線がある。

 ダルと黒豚に目配せをする。

 多分、考えることは同じだろう。


「せーのっ」


 ぴょんっ。


 俺たちは4人同時に雪道へと踏み入ることに成功した!


「いえーい! 楽しくなってきたねー! ぽりぽり」

「(おいここから先はポテチは無しだ、生身はつらいんだぞ)」

「うへぇ」

「ネッサ。どしたのー。」


 なるほど、脳内会話は俺からもいけるらしい。





 山まで続く雪の薄く積もった道を歩いていく。

 ハイパースカイツリーの屋上の雲の上を歩くのとあんまり変わらないなと思った。


 ぼすっ。


 何かが後ろから体にぶつかった感触がして振り返る。


「我慢できなかったー。」


 ダルが手に雪玉を持って笑っていた。金髪と雪景色が絶妙なコントラストを生んでいていつもの三倍くらい天使である。

 だがここは心を鬼にする。


「ダル。俺たちはこれから雪山に登るのだ。体力は温存しなくてはならない」


 ひゅんっ。

 飛んでくる雪玉を剣豪モードで回避する。


「なので雪合戦に興じている場合ではないのでござ」


 ひゅんっひゅんっひゅんっ。

 べちゃっ。


「わはははー。サムライやぶれたり。」


 全然話聞いてねえ! そして何だあのショットガン投法は。


「覚悟しろよダル、俺の雪玉でべちゃべちゃにしてやるぜ!」



 …


 ……


 ………



「っふぇくしょい!」

「ずびびー。」


 山の麓に到着した俺達はびしょ濡れになっていた。


「結構暗くなってきたし、そこの洞窟でキャンプしようか」


 ちょうど人一人分くらいの幅の穴が空いている洞窟を見つけていた。

 中は結構広くて地面の凹凸も少ない、いい感じの部屋になっている。


「とりあえず暖の確保だな、薪を探そう」


 クワハから貰った備品を入り口にどさっと下ろし、周囲を見回してみる。

 真っ白な地面に岩がゴロゴロしているだけだった。


「木材無しっと」


 俺は天を仰いだ。

 焚き火無しでキャンプとか一体どうすればいいんだ…。


「 今ググったんだけど、蓄熱暖房っていう方法があるみたいだよ!」


 おお、すでにインターネットを駆使している…恐るべし魔法使い。


「石を温めて洞窟内に置いておけば暖かくなるかも!」

「ちょっとやってみるか。*火の玉*」


 もう幾度となく使った十八番魔法を近くの石に撃ち込んでみる。


 どごーん。


 石が粉々になった。


「なんか違う…」

「あははは! 火の玉は爆発系の魔法だからねぇ。ダルさん出番ですよ!」

「まかせろー。*火の風*」


 ぼぼぼぼ。


 ダルの両手から勢いよく石に向かって炎が噴射される。


 ぼぼぼぼ。


 石が輝き始めた、めっちゃ熱そう。このままやると溶岩になるのかな。


「もういい頃合いじゃないでしょうか」

「あいよー。」

「どれどれ、どんな具合かな」


 手をかざしてみる。そこに焚き火があるような暖かさを感じた。


「おー。ぽかぽかー。」

「これなら薪は無くてもよさそうだな」


 洞窟の部屋内にもう一個焼石を作り、びしょ濡れになったコートを乾かす。


 気付けば辺りはすっかり暗くなっており、焼石の明かりでぼんやり周りが見える程度になっていた。


「黒豚殿、ちょっと明かりになってくれ」

「明かりになります」

「*照明*」


 ぺかーん。


 黒豚が光源となり、洞窟内が昼のような明るさになった。


「ふふ。どうみてもジルわんじゃないのにねー。」

「似てませんでしたか」


 ダルがニコニコしながら黒豚を撫でている。

 その横で俺はクワハから貰った真っ黒なテントの設営を開始した。


「(ダルが笑ってるよ! こんなにいい笑顔する子だったなんて!)」

「(わかる。俺もその気持を最近味わったよ)」


 とんてんかん。

 とんてんかん。


 脳内会話をしながらテントの設営を済ませていく。



「じゃーん!テントできたぞー」


 ダルと黒豚が駆け寄り、中に入ってきた。


「見てみてー。焼きみかんー。」


 何してるんだろうと思ったらみかんを焼いていたらしい。洞窟内にみかんの香りが充満していい感じだ。


「丁度いいし、飯にするか」

「やったー。」




 こうして俺たちの北の山脈横断大作戦は順調な出だしとなった。

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