ラヴ&Pちゃん
時刻は夕方、空が段々と暗くなってきた頃。
今まで死闘を繰り広げていたアリーナには、大きなテーブルや椅子が運ばれ設置されている。
観客席にいた選手や一般客もアリーナに降りてきてお祭り騒ぎだ。
ずらりと並ぶ大量のみかん。他にもお菓子や紅茶や牛乳とか色々。
あと何故か俺のマンガ肉が皆に大ウケしているので、各テーブルにいっぱい置いといた。
「トール。やったねー。」
「実質世界最強です」
ダルと黒豚が喜びの踊りを踊っている。
なんだかまるで実感がない。
ただ、この大会で色々な事を学んだと思う。闘うということは単に傷つけ合うという事じゃない。
相手の裏をかいたり、かかれたり。分かっていて真正面から挑んだり。
一対一の、魂を込めた対話なのだ。
などと感傷に浸っていると魔王クワハが話しかけてきた。
「ふはははは! 流石はダルが認めた男だ。このあと授賞式があるから覚悟しておくように」
提灯のぼんやりとした明かりが黒髪の艶を際立たせている。黙っていれば美人という言葉があるけれど、クワハの場合はよく笑ってなお美人といった感じだ。
「あー。あーあーあー。」
ダルが頭を抱え始めた。牛乳飲みすぎたのかな。
「すまんなダル。我には公約を果たす義務がある。それでようやくこの大会が締め括られるのだ」
そう言うとまた笑いながら去って行ってしまった。
どゆこと?
頭から疑問符を飛ばしまくっていると黒豚がこっそり教えてくれた。
「主、優勝者にはミスリル装備一式の他に魔王からのほっぺにチューがあります」
そういえばそうだった。
ほ、ほ、ほっぺにチュー……。
そんなの、覚えている限り俺の人生で一度たりともないぞ。
どうしようダル、俺の初めてが美人なお姉さんに取られちゃうよダル。
チラッ。
「うー……。」
うなだれ、明らかに消沈していた。
胸の奥が苦しくなってくる。ちょっと浮かれすぎてたかも。
「よしダル、金魚すくい行くぞ金魚すくい!」
「お。おー。」
ダルの手を引いて歩き出す。
いつの間にか設置されていた屋台の一つ、金魚すくい的なやつのところまでやってきた。
赤いハッピをきた耳長のお姉さんが、おいでおいでしている。
「いらっしゃーい! Pちゃんすくいだよ」
屋台はPちゃんすくいだった。
屋台下のプールに目を向けると、気持ちよさそうにPちゃん達が泳いでいる。
赤いPちゃん、青いPちゃん、しましまのPちゃん。色々なPちゃんが体のサイズや色を超えて仲良くしている。
「Pちゃんは平和の象徴なんですよ。魔王様が保護してきたPちゃんがこの森にたくさんいるんです」
「なるほど」
「大会参加者は無料で一回だけPちゃんすくいができます!」
まんじゅうを一つずつ受け取る俺とダル。
「このおまんじゅうを食べさせて、その隙にほっぺたのあたりをすりすりしてください。食べきったあと懐いてたら勝ちです!」
なるほど。とりあえず言われた通りにやってみよう。
「私は赤いPちゃんー。トールの髪の色ー。」
言いながらチラチラ見てくるダルさん。おーけ。わかったぜ。
っていうかこの髪はネッサのカラーだと思うけど。
「じゃあ俺はブロンドのPちゃん。ダルさんカラーだ」
まんじゅうをクチバシの方まで持っていく。
ぱしっ。
三本目の前足でキャッチするとクチバシじゃない方の口でもぐもぐと食べ始める。
ほっぺたさわさわさわ。
嬉しそうに目を細めるPちゃん。
「こんにちわ」
え?喋った?
さわさわさわ。
「こんにちわ」
うーん、絶対喋ってる。こんにちわって言ってる間、まんじゅう食べる手止まってるもん。
「お、はやくもテイム完了ですね! そのPちゃんはあなたのお友達です」
Pちゃんを肩に乗せてくれるお姉さん。
結構ずっしりと重たかった。こんな小さな生き物でも生命を感じる。
「トール。私もPちゃんとったー。」
言うやいなや俺の肩に乗せてくるダル。右肩だけずっしりと重くなる。
狭い肩の上では赤いPちゃんとブロンドのPちゃんが体を寄せ合って目を細めている。
とてもほっこりする光景だ。
そして、唐突に左頬に柔らかいものがあたった。
すぐそばには真っ赤なドヤ顔を決めるダルがいた。
本当に色々な表情をするようになったなぁ、なんて。
冷静な振りをするけど俺も真っ赤だと思う。
「あらあらあらあら~~~~」
「ダルは一途ですね」
どこかでリベンジしてやろうと誓う俺であった。




