準々決勝に舞う魔剣士俺と快速電車
今日は準々決勝ということもあり、各ブロックは1試合のみしかない。今までより長い時間控室で待機している。ヴァイキングのおじさんが恋しい。
体育座りになり、身体の小さな震えを認識する。ビビっているといえばビビっているが、これは武者震いも含んだものだ。
「大丈夫ですか? 獣化しましょうか?」
心配してくれる魔剣ムラ様。でも大丈夫。
「いや、これでいい…今むにむにしたらおかしな事になる」
ゆっくりと剣を動かし、感覚を確かめる。軽すぎず、重すぎない。切っ先の移動はなめらかに。
剣がよく手に馴染む。達人になったような気分になる。
立ったまま目を閉じ、入場の合図を待つ。
「牛の門、レベル2トオル選手!」
俺は不敵な笑みを浮かべながら入場する。かっこよさを醸し出すためにモデル歩きで。
「今はLVブーストかかってるのでレベル2は詐欺ですね」
「元々俺のレベルだろ」
「剣術ブーストもあります」
万能感がすごい。正直ダルにも勝てる気がする。
「Pちゃんの門、魔法爺ディンク選手!」
見た目こそ完全に牛になっているが、目がギラついている。
ホーク戦のように欺くつもりは無さそうだ。まあ今さらバレバレだしな。
「それでは、はじめッ!」
ディンクの四肢に小さな魔法陣が現れる、身体強化だ。
剣を構え、迎え撃つ準備を一瞬で整える。牛に出来る動きは限られているのだ。
見て分かるほどにディンクの四肢の筋肉が収縮していくのが分かる。爆発3秒前ってところか。
「まずい。 避けてください!」
剣に引っ張られるようにして横に転がり込む。
同時に、大きな爆発音とともに弾丸が真横を通り抜けた。
「…は?」
すぐさま体勢を取り直して確認する。
牛が反対側に移動していた。途中に足跡はない。突進を通り越して跳躍したらしい。
「勇者より早いですね。受けたら死にます」
ホークよく生きてたな。快速電車にぶつかるようなもんだろこれ。
「次、きますよ」
爆発。一瞬で真横を通り抜けるあの世行きの電車。やばすぎる。
心臓の鼓動が最高潮に達し、全身から冷や汗が吹き出ている。
爆発。通り過ぎる牛の赤い目が俺を見ている。次はとるぞ、と。
震えが止まらなくなる。
爆発。
なのに、何故か口角が上がってしまう。
5度目の爆発。転がる事を止める。
半身を反らし、横に構えた剣を左手で支える。
通り過ぎるディンクを切っ先が撫でていく。
結局それが、魔法爺ディンクの終電となった。




