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おはよう黒豚

 

 ふわふわとした無重力の世界。

 赤い髪の少女がにこにこと笑っている。


「トオル! 元気? 楽しくやってるかい?」


 ネッサだ。

 うん、向こうにいる時よりも全然楽しいよ。


「そりゃ良かった! ダルは元気かな? 仲良くできてるかな?」


 うん、最初は怖かったけどもう結構仲良し。


「そっかそっか! ところで力が欲しいか?」


 うん……うん?


 *契約完了だ*





 ベッドが深く沈み込むような重圧で目が覚める。

 金縛り……いや、誰かが俺にのしかかっている!


「おはよう、(あるじ)

「誰だお前!?」


 腹の上に乗っていた黒くて丸いモノが挨拶をしてベッドから降りた。

 まだ未明らしく、部屋が暗くてよく見えない。


 俺は急いで部屋の明かりをつける。寝起きなので眩しい。

 少しずつ目が慣れてくると、そいつと目が合った。


 全身を覆う黒くて艶々した毛に潰れた鼻、まん丸の目、小さなしっぽ。頭にはぐにゃりと曲がった角が二本生えている。サイズはダルよりちょっと小さいくらいだろうか。四足で歩いている。


「黒豚…?」


 実際見たこと無いけど、黒豚に貴族みたいな階級があるとして、それに角が生えたらこんな感じだろうか。


「黒豚じゃないです、僕は聖剣のムラ。主が中々契約してくれなかった剣です」


 自分は剣だと言い張る黒豚。なんだこれ。

 でも確かに壁にかけてあった剣が無くなっている。戦闘中やたら誘惑してくる剣だったけど、俺承諾したっけ。


「さっき契約完了しましたよ、うんって返事しました。寝てましたけど」

「…寝言では?」

「僕が問いかけて、主が返事をしました。寝ているかどうかは些末な問題です」


 むかー! 中々に慇懃無礼な態度が鼻につく黒豚だ。


「…それで契約内容ってどんなの?」


 寿命が半分とかだったら嫌だなぁ。


「僕は主に強力な力で協力します。主は僕を女神のところまで導いて欲しいです」


 なんかダジャレ挟んだ? まあいいや女神か、ヴェルトって名前だったっけな。何処にいるのか分からないけど案外余裕そう。


「それだけ? 敵を一人殺したら味方も一人殺さなきゃいけないとか、そういうのないの?」

「ないですよ。僕は聖剣ですから」


 自らを聖剣だと名乗る黒豚のムラ様。呪われてるんだよなぁ。


「そっか、じゃあ俺寝るからもう起こさないでね」

「えっ」


 素振りの疲れが残ってるし今日は昼まで寝るのだ。

 喋る呪いの剣なんてろくな事じゃない。

 さらば黒豚の夢。

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