魅了耐性強化演習
「勇者に勝ったのかー。つえー。」
新聞を読んでいると、いつの間にか後ろからダルが覗き込んでいた。
「ま、まあな! ところで俺の次の対戦相手なんだけど」
性転師ネコヒメ。どうやらバイキングヘルメットのおじさんを大出血させて倒したやばいやつらしい。
「うむー。ついてまいれー。」
おなじみ30階のトレーニングジムに移動した。相変わらず鍛錬を重ねるマッチョメンばかりだ。
そして中央リングで向き合う俺とダル。
「うっふーん。」
「……。」
なんかクネクネしはじめた。無表情で。
「うっふーん。」
「えーっと」
どうしよう、前に俺がふざけた時無視されたんだよな。でも同じことするのもかわいそうだしな。参ったな。
「ネコヒメには夜魔の血が流れいて、強力な魅了攻撃をしてくるんだよー。」
「うんうんなるほど」
「うっふ」
「わかった、ストップ。俺には魅了効かない」
特訓終了。ダル先生ありがとうございました!
この間のお風呂の時はすごい緊張したけど、あれはエッチだからとかじゃなくてダルやネッサのボディはおっさんの俺からしたら犯罪になってしまうわけで…。あ。
風呂…風呂か! 閃いた!
「よしダル! 俺たちはいずれ戦う運命、ここはちょっと別行動を取るぞ!」
「おー。がんばるぞー。」
ここの住民のエルフ達は皆成熟したお姉さんなのだ。やはり魅了を克服するならエロエロナイスボディを見まくって耐性をつけていくべきなのだ。まあ俺はインターネットで見慣れてるからそんなに慌てたりしないんだけどな。
──60階大浴場──
かぽーん。
「それでねー! 魔王様がニンニンとか言っちゃってー!」
「ウケルー! キャッキャッ!」
まだだ、まだ顔を上げるな。お姉さんがいる。いなくなってから歩を進めるのだ。
1..2...3ッッ
俺は湯船にダイブすると即座に端っこに移動した。端さえ取ればこちらのもの、何も見ずに済む。
っていうか何でチャレンジしたんだっけ。魅了対策?冒険心?チラッと見て終わりくらいで良かったんだ…とりあえず大窓から見える外の風景でも見て心を落ち着かせねば。
ここから見えるのは西の国の、名前はガディンだったかな。東のミルイムはなだらかな地形が多かったけど、西は結構デコボコしてるみたいだ。砦はどれも斜面の上方に作ってあるが、塔というよりはトーチカに近い形状をしている。
更に奥に目をやると、中規模の町が三つ、三角形を作るように並び、中央に大きな城が置かれている。なかなか壮観だ。
「あー!あなた、勇者を倒した人じゃない!?」
突然後ろからエルフのお姉さんに大声で呼ばれ、我に返る。まずい。
「なんですってー! そっちにいるのねー!」
ざぷんざぷんざぷん。いくつもの水音が鳴り、こちらへ近づいてくるのが分かる。
「この髪の赤い人よー! キャー!」
「あっあっあっ」
窓ガラスの向こう側にうつる、無数の生きた桃源郷に気付いてしまった時には俺はもう、ショートしていた。
「し。死んでる。」
薄れゆく意識の中、桃源郷に混じってダルのちっぱいを見た気がした。ほっこり。




