雲の上のコロッセオ
一面の草原。草を食べる俺。幸せな夢。
∪ M A「レベル2→2になったよおめでとう」
「なんでだよ!?」
「うお。起き方気をつけてよー。」
飛び起きるとダルが牛を洗っている最中だった。
ああ、そうだ昨日マンガ肉いっぱい食べた後、レベルアップしようって事でこの馬小屋で寝たんだっけ。
「どうだったー?」
ちょっと期待してるダルの表情が辛い。
「レベル上がらなかったよ…」
「吸われたかー。」
「この駄剣め」
隣に立掛けてある呪われた剣はこころなしか元気いっぱいに見えた。
それから俺たちは20階の馬小屋から1階の受付へ移動した。乗り合わせたエルフのお姉さんに牛のいい匂いがしますねと言われた。
「会場はツリーの屋上で行われます。エレベーターで行けないところなので、そこの魔法陣の上に乗ってください」
受付のお姉さんに言われるがままに乗ってみる。魔法陣は大きくて複雑な幾何学模様で、青い色をしている。召喚は赤だったから、なんかそういう関係なのかもしんない。
「あれ?何も起き」
「*テレポーター*」
瞬間、景色が一変した。
俺たちが移動したというより景色が移動した感じがする。
「あわわわわ」
雲ひとつない、とても濃い青空。足元には頑丈な石畳。そして人、人、人。牛。中心にある壇上には魔王クワハの等身大パネルが用意してある。
「一瞬でこれってすごく強力な魔法なのでは?」
「準備無しでやると迷子になっちゃうねー。」
「迷子?」
「パーツがばらばらで変なとこに出たりー。そもそも出なかったりー。」
「わかった、もうやめようこの話」
そもそもワープ前の俺とワープ後の俺は同一人物なのか?みたいな思考になる前に深呼吸だ。
スーハースーハー。よし、空気がおいしい。
突然ラッパの音が鳴り響いたかと思うと、続けざまに弦楽器や打楽器の音が混ざり音楽を奏でる。開会のセレモニーが始まったようだ。
「皆さんこんにちは! 今日はいいお天気ですね。まあ雲の上だからずっと晴れなんですけどね!」
進行役が挨拶を済ませていく。言われて気付いたけど、石畳の床が続く先には白い雲があるだけだった。
「それではAブロックの選手及び観戦の方々は北西に、Bブロックは南西、Cブロックは北東、Dブロックは南東へとお進みください。雲の上は歩けますのでご安心を!」
ぞろぞろと四方向に分かれていく集団。俺もついていこう、とその前に。
「じゃあダル、俺あっちだから達者でな。準決勝で会おう!」
俺はAでダルはBなので勝ち残れば準決勝でぶつかるのだ。俺、初戦が勇者なんだけどね。
「うむー。待っておるぞー。」
ダルとばいばいしたあと北東の集団に混ざり、Aブロックへと向かった。
床が石畳から雲に変わり、もこもことした感触が足裏に伝わってくる。これ前の人がいるから良かったけど、突然一人で歩けって言われても無理だと思う。
「ムホホー! ワシは今を雲の上を歩いておるのかー!」
前方で子供みたいにはしゃいでいるおじさんを発見した。角の生えた兜にマッシヴな体つきのナイスガイだ。あ、転んだ。
「あまり道から逸れないでくださーい! 踏み固まってない雲は大変危険です。最悪、落ちますよ!」
えっなにそれ怖い!
しばらく歩くと、全面石造りの巨大な楕円形の建造物に到着した。天井は無く、中央には薄く土が撒かれていて、それをぐるりと囲むように階段状に客席が設けられている。いわゆるコロッセオってやつだろうか。
「本日は第一回戦を行います、8人いるので4回の試合が行われるわけですね。トーナメント表の上から順に、1試合目、魔法爺ディンク選手 対 魔女ねるねる選手。2試合目、謎の暗黒忍者ホーク選手 対 上級戦士べヘータ選手。3試合目、勇者カズヤ選手 対 レベル2トオル選手。4試合目、狂戦士アッチラ選手 対 性転師ネコヒメ選手。とこのように続いていきます。それぞれの試合のあとにインターバルがありますので、次の選手の方はその間に控室へ移動してくださいね」
進行のお姉さんが点呼を取り、全員の参加表明を再確認する。ドキドキしてきた。
「ではさっそく1時間後に試合を始めます!ディンク選手とねるねる選手は控室へ。それ以外の方は観客席へと移動してください」
俺は試合がよく見えそうな中段の客席に移動する事にした。




