二日前の小休憩
またいつもより長くなってしまいました。
小鳥のさえずり、さらさらとした枝葉のこすれる音。清々しい気持ちで俺は目覚めた。
「うーん、スウィート」
部屋全体は木で作られていて(世界樹くり抜いてるんだから当たり前なんだけどな)ヒノキのような、リラックス効果のある香りが漂っている。もちろん丹念に磨かれていて、つるつるすべすべだ。
木製の部屋と一体化しているベッドやテーブルには、鳥犬牛の細かい模様が彫られている。そして何より、窓から覗く外の景色が壮観だった。
先日まで居た城塞都市ビスクがとても小さく見える。他にも周囲に点々と風車や畑が見えるが、更に小さい。その奥は港、そして青々とした海が広がっているようだ。
左にずれていくと、段々と雪景色に変わっていき、巨大な山々が見えた。さすがにこの階の高さでは山の先を見ることはできないようだ。
ふと、窓付近から伸びている枝に目を移すと、妙な鳥がいた。
シルエットは普通の小鳥なんだけど、足が三つある。二本足で立って、腹の上あたりから生えた足で、何やら丸いものを食べている。よく見るとクチバシの下にもう一つ人間のような口があり、そこで食べているようだ。
「なんだあれ……」
「Pちゃんだよー。」
「うお!?」
ダルが隣にいた。いつ入ってきたんだろう。
「ネッサが描いてたメモのやつだよー。かわいいよね。」
「あー、あの不思議なイラストの…」
不思議なのはイラストじゃなくてこの生き物だったみたいだ。うーんかわいいのかな。かわいいかもね。よく見るとそこら中の枝にいた。
「新聞もってきたよー。読もうねー。」
ダルから手渡された新聞を広げてみる。
ええとなになに、
──第10回トーナメント魔王ピック新聞──
冒険者の皆様! 観光の皆様! 動物の皆様! ようこそいらっしゃいました!皆様のおかげでなんと、今回で第10回を迎える事ができました!これはもう(中略)トーナメント表は目下作成中です。32名の参加者を万遍なく振り分けるためにランダムボックスを使いますのでご安心ください。本大会は不正には厳しいのです!最後に魔王様から一言、どうぞ!「ふはははは! 勇気ある者たちよ! 此度もよく集まってくれた! ハイパースカイツリー内の施設は全て開放してあるので、好きに使うが良いぞ!」
さすがクワハだ、新聞の中でも笑っている。
「とりあえずこの木の中探索するかー」
「おー。」
──地上50階──
チーン。
エレベーターのドアが開くとジャカジャカと賑やかな音楽やピコピコした電子音が聞こえてきた。
1フロア丸々使ったような大部屋で、オレンジ色の明かりがルーレットやスロット台を照らしている。
「ここはカジノかな」
「お金ないよー?」
しょんぼりしていると、金髪のうさ耳+エルフ耳のお姉さんが話しかけてきた。4つも耳があると何処を見て話せばいいのか分からない。
「ウェルカムようこそ動物カジノへ! 大会参加者の方には無料で100コインプレゼント中デース!」
「やったー。」
「お姉さんありがとう!」
一瞬でウキウキになる俺たち。さあ何をして遊ぼうかな。
「私あれやるー。」
ダルはUFOキャッチャーに一目散に向かってしまった。こういうところはお子ちゃまだな。
「やはりカジノと言えばスロットだろう」
俺はニヤリと笑うとスロット選びを始める。ここで前世(まだ死んでないけど)の記憶が役に立つとはな。ククク。
スロットというのは基本的に、ゲーム数に比例して当たる確率が増えるように出来ている。そうでないと確率をうまく分散させる事が出来ずに店の利益が安定しなくなるからだ。インターネットで見た。それに何より理に適っている。
つまり──
「くそっ、またハズレか!やってらんねえ!」
身の丈ほどもある巨大な剣を背負った男がスロットから立ち上がり何処かへと去っていった。
──ここだ!
俺は即座にその席につくと10枚のコインを投入し、レバーを引く。この間わずか5秒だ。
くるくると三つの絵柄が回っている。目押しなんてのは都市伝説。データが全てだ。俺の中のインターネットは囁く。
ピッピッピ。とボタンを叩いていく。ハズレだ。
だがまだ慌てるような時間じゃない、あと9回もチャンスがあるのだ。
ガチャン、ピッピッピ
ガチャン、ピッピッピ
……
…
俺は灰になっていた。インターネットの嘘つき。
真っ白になっている俺の肩に、ポンっと何者かの手が置かれた。
「よう姉ちゃん、もうやらねえなら代わってくんねぇかな?」
さっきの巨大な剣を背負った男だった。暗褐色の短髪。自信に満ち溢れ、獲物を射抜くような目。女にモテそうな顔面だ。
ガチャン、ピッピッピ…ピロリロリロリロリーン。大きな音が店内に響き渡る。
「がはははは! 一発目からこれか、予想以上に稼いでくれたなぁ!」
「な……!?」
「姉ちゃん、あんたの目論見は間違ってなかったぜ。だが経験が足りなかったな!」
やられた。さっきのは演技だったんだ。恐らく大当たりした後、回さずにあそこで俺が近づくのを待って……。
「ンギャーーーーー悔しいいいい!!」
「あんたも大会参加者だろ? 俺の名前はレオン。もし戦うことがあったらお手柔らかに頼むぜ?」
がははは、と笑う声を背中で受けながら俺はダルの元へ駆け出していた。うわーん!
「トールー。持ちきれないから持ってー。」
ダルは大量の巨大牛人形に幸せそうに埋もれていた。
次回トーナメント作成するので、間隔が大きく開くと思います。
32人ですよ32人!でもこの世界の人達が楽しみにしてるイベントなのでがんばります!




