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進撃の吸血鬼と俺あと魔王

 

「*火の玉* *カエル* *爆発* *聖なる手榴弾* *魔法の誘導弾*」

「ギニャアアアアアア」

「ギョエエエエエエ」

「ケロケローーーー」

「ナンデオレマデーーーー」


 ダルが魔法をばら撒きながら道を作る。俺はその後ろをついていく。完璧なコンビプレイだ。


「っていうか今冒険者に当たってなかった?」

「狙ってないからセーフー。」


 恐ろしい子。


 ぐんぐん進んでいくと突然目の前が真っ暗になった。


「おわっ!なんだこれ、ダルー!」


 真っ暗なんてレベルじゃない、真っ黒である。自分の身体すら見えない。

 ダルが全然返事をしてくれない。仕方がないので、手を真っ直ぐ伸ばしながらゆっくり歩き続ける。


 ──10分後──


「ダルぅ…どこぉ…」


 めっちゃ心細い。昔デパートでお母さんとはぐれてしまった時の事を思い出していた。


「ぐすっ……」


 ──更に10分後──


 ようやく視界が戻ると前方にボサボサ金髪の後ろ姿が見えた。


「お母さああああああああああん!!」


 大声をあげながら近づく、いっぱい甘えるんだ。


 するとそれに応えるかのように少女がゆっくりと振り向いた。


「グゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲゲ」


 ゾンビだった。


「ギャアアアアアアアアアア」




 それから俺は走った。振り返ることもなく、ただ前だけを見て。何度も躓きながら走った。


 狭い洞窟を抜け──


 水浸しの壊れそうな吊橋を渡り──


 降り注ぐ火の粉を掻い潜り──


 ドラゴンの爪で開くドアを抜け──


 そして、玉座に到達した。




「ぜえはあ…ぜえはあ…」


 ふと我に帰る。ここ、どこだ?

 前の人に聞いてみよう。


「お母さんどこ?」

「わははははは!! 迷子になって魔王に親を尋ねるか! こんな貴重な経験はないぞ!」


 漆のような黒い髪。切れ長の目に輝く金の瞳。そして長い耳。黒のドレスの上からは、申し訳程度に赤と金の装甲がつけられている。胸の大きさはちょっとわかんない。

 ああ、分かった。魔王はエルフの長なんだな。緊張感もなくそんな事を考えていた。


「ネッサは実に愉快な男を選んだな。これは彼奴に一泡吹かせるのも夢ではなくなってきたぞ。」


 わはははははは、と笑い続けている。ちょっと話しかけるタイミングが難しいぞこの人。


「あ、あの! ネッサの知り合い? てか俺のこと知ってるの?」

「我とネッサとダルは元々、この世を作り変えんとする同士よ、お前の事はこれから知る」


 そこまで言うとまた笑い出した。しかしなんとも要領を得ない。とりあえず3人はお友達らしい。

 どう質問したものか考えていると──


「トールー。置いて行かないでー。」


 後からダルが現れた。うしろにいたんかい!


「む。魔王。覚悟ー。」


 ダルが構えると周囲に光が集まりだした。


「ククク…来たな?小童! 我に挑もうとは蛮勇甚だしいぞ! ふははははは!」


 魔王の身体から黒い気配が溢れ出す。


「……。」

「……」


 10秒くらい経った頃だろうか。なぜか二人の視線が俺に向けられていた。


「え?俺?…えーっと、二人は友達なんじゃ?」


 二人から魔法の気配が消え、偽りの緊張感が解かれていく。


「なんだー。知ってたのかー。」

「いやすまなかった、そういう(てい)で来ていたのだな」


 すごく悔しそうな表情をしている魔王。うん、なんとなく性格わかってきたかも。


「この人が魔王のクワハだよー。悪いやつ。」

「ふははは! 我こそが現代のエルフの族長にして暗黒魔王! クワハ・ドニウだ!」


 ダルが自己紹介をすすめていく。多分この中で一番大人。


「あ、藤木透です、レベル2です」

「ほう、レベル2でトーナメント参加か! 大した自信だな。ところで証はもう集めたのか?」


 我に会ったからといって特別はないぞ、と続けるクワハ。譲れない事なんだろう。

 参った、証の事すっかり忘れてたなぁと思いながらダルの方を見る。


「じゃーん。取ってきましたー。」


 金の文字で"証"と書かれた真っ黒の折り鶴二つを両手に持ってドヤ顔を決めるダル。なんてこった優秀すぎる。


「ククク…よろしい。ではそれを持ってハイパースカイツリーの受付に戻るといい、大会は今から三日後だ」


 そういうとクワハは玉座の裏にある非常口から地上へと導いてくれた。

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