魔王の森のお姉さん
*ようこそ魔王の森へ! 会場はこちら!*
と書かれた木のゲートが、森の入り口に建てられていた。ゲートには鳥、犬、牛などがお祭りをしているような、ゆるゆるした絵が明るい彩色で描かれている。
「俺の緊張感が迷子なんだけど」
「わかるー。」
みかんと俺たちをのせた荷馬車がゲートをくぐっていく。森の中は、道を示すように提灯が連続して垂れており、さほど暗さを感じることはない。提灯には例によって動物の絵が描かれている。
「迷う要素ないな?」
「うむー。お祭り期間だしねー。」
しばらく進むと、屋台がずらりと並んだ大きな広場に差し掛かった。広場には大勢の人や牛がいる。光る犬はいないようだ。良かったな、ダル。
「よーし到着ー、みかん下ろすの手伝ってくれなー」
おじさんがそう言うと、荷馬車を止めてみかんを一つ手に取り、牛に食べさせた。
「まあ激安料金で乗せてくれたし手伝うかー」
「うむー。あ。みかん食べていいってさー。」
みかんのカゴを下ろし、屋台のお姉さんに渡していく。お姉さんは更に別のお姉さんに渡している。みかんは各種屋台に流れていくようだ。っていうかお姉さんばっかりだこの辺。
よく見るとお姉さん達には共通した特徴があった。透き通るような青い髪に白い肌、そして長い耳。
「エルフだこれ…」
「うむー。今は魔王軍だねー。皆軍人。」
こんなに多様な人達を招き入れてお祭りしてていいんだろうか。いや、軍人だからお祭りしちゃダメって事もないのか…?
目玉をぐるぐる回しながら考えいたら、いつの間にかみかんを下ろし終わっていた。
「ありがとよ、また何かあったらよろしくな!」
おじさんと別れたあと、会場を探そうと屋台のお姉さんに尋ねてみる。
「あら、入り口で貰いそこねたのかしら? このパンフレット通りに、まずは受付に向かってちょうだいな」
切れ長の目に、水色の宝石を湛えたような瞳。間近で見ると破壊力が凄い。ちなみに額に宝石は無い。お姉さんはパンフレットをくれた後、ウィンクをして去っていった。
「どきどき」
「ぱちっ。ぱちっ。」
隣で誰かがウィンクを連打してるような気がしたけど、俺は上の空でお姉さんを目線で追っていた。
パンフレット通りに進むと、巨大な建造物が現れた。建造物からは木のような太さの枝が何本も伸びており、さらにそこから枝が伸びている。中央にはぽっかりと大きな入口が開いていて、その周りに沢山の人集りが見える。
「これが森の中心、ハイパースカイツリーだよー。でぇーん。」
世界樹をくり貫いて中を居住スペースにしているという事になるけど。いいのかな。
開放されている入り口を進むと、受付のお姉さんが声を掛けてきた。
「ようこそ、ハイパースカイツリーへ! 大会への参加をご希望でしょうか?」
「はい、こちらの子が」
「トールも出るんだよー。優勝確率上げろー。」
「はい、お二人とも参加ですね! お部屋は64階の1号室と2号室になります。 証の探索は裏手の階段から続く地下ダンジョンで行なってください。ではご武運を!」
がんばれー、と受付のお姉さんがウィンクをする。エルフ流の挨拶だろうか、どきどきするから勘弁してほしい。
「休む暇ないぞー。早いもの勝ちだぞー。」
俺はダルに手を引っ張られて世界樹の地下へと向かうのであった。みかんを食べながら。




