狭い荷馬車とみかんの講義
殺風景な街道を進む荷馬車。もう周りに人や建物の気配は無くなっていた。
「貸し切りだねー。」
「おうラッキーだったな」
搭乗者は荷台に俺とダル、あと運転手のおじさんだけだ。
「二人とも、みかんをちゃんと抑えといてくれよー」
荷台には、カゴに入った大量のみかんが積まれている。魔王、みかん好きなのかな。ものすごい数である。
「魔王の森ってあとどれくらいかかるんですか?」
「2時間くらいだなぁ、ビスクからは結構近いんだよ」
そういえばこの世界の情勢というか、地理みたいなのが全然分からん。
「時間あるし説明しようー。」
どこからともなく眼鏡を取り出し装備したダル先生。やる気は十分のようです。
カゴから出したみかんを並べて位置関係を教えてくれる。
要約するとこうだ。
大陸には二つの国に分かれている。
東の大国のミルイム。城塞都市ビスクや、今いる場所がそうだ。
西の大国のガディン。
そして二国の国境の半分以上を踏みつけるように存在しているのが魔王の森だ。
南は大海が広がっていて、北は雪山があるだけとの事。
どうも二国は万年戦争中らしいのだが、魔王軍が睨みを効かせている為、大規模な兵の運用が出来ていない状態らしい。三すくみみたいな感じだろうか。
「魔王軍ってそんな強いの?」
「強いよー。でも数は人間より全然少ないから、森のおかげかなー。」
魔王の森には、大規模な迷子の魔法がかけられていて、生き物のように内容を変えるらしい。
それに加えて、魔王軍の殆どが魔法や弓のエキスパートなので、ゲリラ戦術であっさり人数差を覆されてしまうそうな。
「俺たち生きて帰れるのかな……?」
ダルはともかく俺は無理な気がするよ?
「大丈夫ー。トーナメントの参加者には攻撃してこないはずだからー。」
そういうもんなんだろうか。
外に目を向けてみると、小規模な砦や柵で覆われた建物が見えるようになってきた。なんだか物々しい雰囲気だ。
「そういえばレベルアップしたー?馬の神さまには会えたかなー?」
「うーんあんまり覚えてないけどレベル2になったって誰かに言われたような」
「えー?たったの2?うさぎいっぱい殺したのにー。」
デジャヴかな?なんだろ、うまく思い出せないな。まあいっか。
「あー。呪われた剣のせいかもねー。普通レベル10くらいには上がっててもおかしくないからー。」
「は?はやく解呪しようダメだこんな剣」
「だからデメリットあるって言ったのにー。」
あ、あとそうだ!魔法も覚えたって言ってたっけな……えーっと、サモン…なんだっけ。
「おーい二人とも、もうすぐ森に着くよ、僕たちは今は高台にいるから良く見えると思うよ」
運転手のおじさんが教えてくれる。開けた視界の奥に冗談みたいな光景が見えた。
群生しているブロッコリーの中心に一本だけ長ネギが突き刺さっているような、遠近感が狂いそうになるような…なんだあれ?
「あれはハイパースカイツリー。またの名を世界樹と呼ぶのだー。でぇーん。」
「でけえ……」
頂上が雲で隠れて見えない。これじゃあ雲から生えてるのか森から生えてるのか分からないな。
その下のブロッコリーみたいに見えるのが魔王の森らしい。青々としていてあんまりダークな感じはしなかった。
「どれくらい人集まるんだろう」
「毎回100人以上は希望者いるみたいだねー。観客はもっとでその10倍くらいいるかも。」
あれ?めちゃくちゃ規模でかくない?
「皆楽しみにしてるからねー。」
「おう、おじさんも試合終わるまで滞在するからな、お前らも二番目くらいには応援してやろう!」
ガハハと笑う運転手のおじさん。
なんだろう、別の意味で緊張してきた。




